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  5. ピアノソナタ第1番

単発講座「ピアノソナタ第1番」


ベートーヴェンらしさというもの

 1800年以前のいわゆる初期のソナタに、どのような印象をお持ちだろうか。「熱情」などに代表される「スゴイ」ソナタのようなものだろうか。あるいは「悲愴」ソナタのような曲が並んでいるのではないか。逆に、こじんまりとしたつまらないソナタばかりと思ってはいないか。

 当時の超感動的な即興演奏の噂を読むと、即興演奏はきっと「熱情」みたいな演奏だったのではと思ってしまう。なら、その頃のピアノソナタは、そのような演奏がそのまま曲として表現されていると思うかもしれないが、そうはなっていない。きっちりまとまった安定感のある、あくまでも完成品なのである。
 出版というものがなんとか軌道に乗っていた当時、楽譜が売れてこそ自立する音楽家として生活していけるのだ。だから、ある程度がんばれば弾くことができて、かつきちんと推敲されていて形式の整った曲でなければ、後世の人が「なんだ、弾けないや」「雑に作った曲だな」と批評したりするだろう。


 初期のピアノソナタを「熱情」と比べてはいけない。しかしそこはベートーヴェンであって、要所はやはりすごいものを秘めている。また、チェンバロではなくピアノフォルテを演奏楽器として最初から想定しているので、強弱記号がモーツァルトよりはっきりしている。cresc. も、きっちり書かれている。

第1楽章
 跳躍するような上昇音型は、当時の流行の音型である「マンハイムの花火」と呼ばれるものだろう。一見あっさりと始まるが、展開部になると、やはり力がこもっているという、ベートーヴェンらしさが現れている音楽。いくつかの cresc. が効果的に使われている。
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第2楽章
 レガートが効いているわけではないので、いまひとつかなという感じがする。しかし、冒頭主題がひととおり終わってからの左手の動きなどは、いかにもベートーヴェンが使いそうな感じ。彼の独白が聞こえてきそうだ。

第3楽章
 通常はメヌエットが位置するところであるが、決して能天気ではなく内にこもったものを持つ。おそらく次の楽章に続くことを考えての内容。トリオ部分が、いくぶん、ほっとさせるようになっている。

第4楽章

 第3楽章までなら、この時代のソナタらしいものであるが、第4楽章は違う。このソナタの白眉だ。
 冒頭のみを聴けばただガンガン鳴らす曲であるが、それは間違い。独特の感情のうねりも聴ける。
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 このような(赤い線)、3オクターブの急降下は大変気持ち良い。その後の、右手(3連符)と左手のもつれそうなところの低音の豊かな動き(3〜4段め)、さらには、5段め以降の3連符に乗った、内に何かを秘めながら言い聞かせるような右手の旋律など、後の有名ソナタを十分に予感させる、興味深いものであろう。
 また、中間部には優しい旋律が現れるのが一興で、優しい旋律と激しい3連符が交互に現われるところなど、聴かせ所が多い。



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