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  5. ピアノソナタ第8番 悲愴

単発講座「ピアノソナタ第8番 悲愴」


さりげなくスゴいこの曲

 「悲愴」は、有名な名前付きのピアノソナタでは最初のものだ。しかし、名前付きに恥じることなく、当時はやはり注目の作品だったようだ。それは、さりげなく作られていながらも随所に目を見張る作りをしていることによる。
 なお、序奏についてよく言われることは、この音の動きがチャイコフスキーの悲愴交響曲冒頭に似ていることだ。まあ、パクりの意思がどれほどのものかは知らない。

ピアノソナタ第8番 悲愴
 第1楽章
 ベートーヴェンのピアノソナタとしては、本格的な序奏で始まる。かたや交響曲第1番の序奏では、調性のコンセプトがすごいことは別にしてなんとまあさりげなく終わってしまい、ソナタ形式の主部とは密接な関係が無かったが、この曲では、序奏は楽章全体と密接な関係にあるということに注目できる。
 第1主題からしてカッコよい。ここで面白いのは左手だろう。オクターブでキザみが入るが、良く覚えておこう。ここのエネルギー感、速度感は、伴奏もおおいに寄与している。ひとしきり進むと第2主題である。左手の上を右手が交差して演奏するところもピアノらしいが、ここでも左手の伴奏に注目しておきたい。特に1拍めの音は全音符で小節全体に持続する。
 そして次の部分では、充実した和声を作り推移していくところが聴き所だ。いかにもベートーヴェンであろう。(下例)

 やや短めの展開部に入るとこれがすごい。まず、序奏が再び現れる。この序奏の前に繰り返し記号があって、冒頭の序奏に戻るようになっているが、奏者によっては、序奏ではなく第1主題冒頭に戻る人もいるようである。ここでなぜ序奏があるのか。というか、序奏は単なる序奏ではないということが、ここでもわかる。
 さて、序奏(?)が終わると、第1主題の展開2小節と第2主題の展開4小節の1組があり、もう1組現れて音程が上がっていく。この部分では左手が第1主題の伴奏、第2主題の伴奏、というように明確に使い分けられていることがわかるだろう。(下例)

 そう、伴奏が主題の性格付けをしているのだ。ところで、その第2主題の部分に相当する右手は? これが序奏の主題なのだ。そう、序奏と第2主題は音の動きの点で密接に関係しているのである。
 その後、左手を聞いていればわかるが、第1主題により展開されていく。主題再現部に続くコーダではまた序奏部が現れるが、このような構造が、いわゆる有機的に統一された楽章のはしりである。

 第2楽章
 ハ短調の衝撃的な第1楽章に続くのがコレだから、たまらない。しっとり歌わせるロンド形式だ。ハイドンでは絶対に書けない。モーツァルトなら…長生きしていれば書けたかもしれないが、当時としてはレガート奏法に熟知したベートーヴェンであってはじめて書けた曲である。

 第3楽章
 こちらは、ロンド・ソナタ形式。音楽そのものが完全にまとまっている。第2、3楽章がロンド形式を主体としているということは、展開にあまり重きを置かないので、第1楽章ほど「工夫」という点で感心することは少ないが、音の動きとして十分に面白いし、美しい。

 とにかく、この曲は第1楽章のすばらしい構成に惹かれる。



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