弦楽四重奏曲Op.18-4の管弦楽編曲
その昔、LPレコードを持っていた時代に、秘蔵の品であったレコードが、CDとして発売されていることを知り、ここで逃したら消えてしまうかもしれないとの思いで、すぐさま購入した。
ベートーヴェン 〜あなたは知らない〜(同時代の編曲集)
MUSICA BAVARICA MB 75113
ここで買える。送料込み約19ユーロ、2500円程度である。配達完了まで2週間かかる。
https://www.jpc.de/jpcng/classic/detail/-/art/Ludwig-van-Beethoven-1770-1827-Streichquartett-Nr-4-f-Orchester/hnum/7458969
Heinrich Ludwig von Spengel (1775 〜
1865)による管弦楽への編曲で、メインの弦楽四重奏の編曲以外に、歌曲の編曲、つまり伴奏がピアノから弦楽合奏になっているものが3曲ある。ミュンヘン在住だった
Spengel
は、それなりに音楽教育を受けたらしく、いろいろと編曲をしている様子。ほぼベートーヴェンとは同世代の人であるが90歳まで生きたんだなぁ。ベートーヴェンでは、他にも弦楽五重奏曲Op.4の管弦楽版があるとのこと。
ちなみにこの編曲は、1Fl,2Ob,2Cl,2Fg,2Cor,2Tp,3Trb,Timp,弦5部という2管編成。えぇ、トロンボーンがあるのかよ、と驚いておく。このことからも、単純にベートーヴェンに従おうという意志は薄いことがわかる。逆に言えば、意欲的である。
第1楽章
順当に弦楽器中心で始まるが、これは予想通り。ティンパニも加わっての和音打撃は、なかなか面白い。元が弦楽四重奏なので、第1バイオリンがやや高音域に寄るところがあるが、そこはわずかにベートーヴェンの管弦楽からズレるところである。まぁ仕方が無い。それほど高速ではない楽章なので、雰囲気はピアノ協奏曲第3番の第1楽章が長調になったというところか。
管楽器が活躍しすぎなところもある。木管楽器を均等に吹かせてあげようと考えているのであろう。低音弦の進行にリズムを与えたりかなりの工夫をしている。ティンパニが加わって重々しくなるのは、トロンボーンがかぶせているからだろう。
第2楽章 スケルツォ
管楽器のフガートで始まる。木管楽器と弦楽器の掛け合いが多い。中間部では音程を思い切ってオクターブずらして楽器の割り当てに豊かさを添えている。
第3楽章 メヌエット
ベートーヴェンは交響曲でメヌエットをほとんど書いていないため、ここで改めて新作が登場した感じになる。無理に管弦楽に書き直しているので、どことなくハイドンのような感じがしないでもない。型にはまった響きになってしまうからベートーヴェンはメヌエットという形式には早々に見切りをつけたのではないかと考えてしまう。
トリオは、細かい音型を弦楽器に任せ、ほとんどは管楽器で進めていく。
第4楽章 アレグロ
こちらも弦楽器主体で順当に始まるが要所のフォルテの響きが重すぎる。楽団は、やや軽めに演奏してくれているようだ。さすがにOp.18の4重奏だけあって、全体からみた第4楽章の比重は軽いので、軽快な曲であってほしいという気持ちはあるが、そうはならない。
全体として編曲者の個性が十分に出ている編曲だ。ベートーヴェンらしさよりも、いかに聴きやすい管弦楽にするかに腐心している。全体を通して管楽器がかなり前面に出てきているところは、19世紀前半の趣きをしているものの、少なくともベートーヴェンではない全く違う誰かの音楽を感じさせる。そもそも元が4人による曲で巨大な音楽ではないので、トロンボーンやティンパニなどによるアクセントを加えるとかえって大げさに聴こえてしまうところがご愛敬だ。当然4声部しかない原曲を忠実に変換してしまうと管弦楽全体に行き渡らないので、さまざまな工夫をして、内容を豊かにしているところは評価できる。この曲を聴いて、この原曲である弦楽四重奏を聴いてみようという気になるのだろうかとか、聴いてみたら全然違うじゃないかと思うかもしれないが、ベートーヴェン以後のスタイルとして気持ちを新たに焼き直したということでは、かなり良い出来になっていると思う。
(2021.05.18)