学校の宿題のためのベートーヴェン(2014年夏休み版)
夏休みを前に、改めてタダで聴ける音楽を紹介する。
■なぜタダで聴ける音楽が存在するのか。
公益社団法人著作権情報センター(
http://www.cric.or.jp/index.html )を読んでいただくほうがよいかと。
これにより、録音物の場合は《団体名義の著作物の保護期間》を超えた場合に自由に扱えることになるので、日本の場合、権利を保有する団体(=レコード会社)が公表(=最初の発売)後50年を経過するとパブリック・ドメインになる。
パブリック・ドメインとは誰の許可を得ることなく流通させてよいもののことである。
日本において、映画の著作権保護期間のみが70年になっているのを不思議に思われるかもしれないが、合衆国の数少ないコンテンツのひとつ(というか唯一)が映画なので、推して知るべしであろう。あと、「ミッキーマウス法」についても興味がある人は探してお読みいただきたい。
■TPP交渉
報道では、農産物や貿易面での話が大きく採り上げられているので、音楽はTPPと関係無いように見える。しかし、著作権も交渉項目のひとつだ。交渉次第では、というよりほぼ確実に、特に米国自身の意向である「保護期間を50年から70年に延長」が実施されるとみてよいだろう。
したがって、この交渉が成立すると、今パブリック・ドメインとして公開されている演奏が、20年分聴けなくなる。つまり仮に現時点(2013年)に交渉が成立したとすると、1943年〜1962年の演奏がパブリック・ドメインではなくなるのだ(*)。
これが何を意味するかというと、クラシック音楽に限らず全ジャンルの音楽の《演奏》が、ほぼ全滅である。なぜなら、まともに聴ける音楽は1950年代以降の録音だからである。それ以前の音楽は、ノイズにまみれたモノラル録音であり、当時は喜ばれて聴かれてはいたものの、現代としては特にこだわりが無い人には無用のものである。
したがって、TPPの行方次第では、パブリック・ドメインの音楽は20年遠くの未来に押し込まれてしまうことになる(**)(***)のである。
* 一旦パブリックとして公開済なら、法的に改めて消えることは無いと思われるかもしれないが、本当にそうなるかは別である。
** 間違えてはいけないのは、よく読めばわかるように、時間が経過すればいずれパブリック・ドメインになる。
*** かといって、70年が100年になる可能性も無いわけではない。
■今タダで聴ける音楽とは
さて、小難しいことは脇にどけておくとして、今タダで聴ける音楽は何があるだろうか。
この文章を書いているのは2014年。すなわち、著作物に「1963(c)」となっているものは確実にパブリック・ドメインだ。もちろん、年号がこれより小さいものも全てそうだ。したがって、たとえば以下のような録音がパブリック・ドメインになっている。
ベートーヴェン交響曲全集
・ブルーノ・ワルター指揮/コロンビア交響楽団
・アンドレ・クリュイタンス指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・フランツ・コンヴィチュニー指揮/ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団
・オットー・クレンペラー指揮/フィルハーモニア管弦楽団
もちろん、これらより以前の録音であるフルトヴェングラーやトスカニーニの録音もパブリック・ドメインになっている。しかし、上記の4つはステレオ録音であり、演奏内容も良い。たしかにクセのある録音もごく一部に存在するが、正直、初心者にはこれで十分すぎるほどである。とにかく、ベートーヴェンの交響曲を誰の演奏で楽しんでいますか、と尋ねられたとき、上記4名の名前を出せば文句のつけようが無いと私は思う。
現時点における50年前の1963年とは、幸いなことにステレオ録音が始まった直後である。したがって、パブリック・ドメインには、ステレオ録音初期の名演奏がかなり含まれていて、順次増え続けているのだ。これを聴かないでおくわけにはいくまい。
■録音を入手する
何度か紹介しているが、こちらで。
いろいろ説明があるので、読むとよい。
さて、先に書いたTPP交渉の結果を待つまでもなく、インターネット上で公開されているパブリック・ドメインの全てについて、どうすべきか。入手するなら、いつするか。はやり言葉で恐縮であるが、「今でしょ!」と書いておくしかない。
私も、かなりCDで購入済であるが、それでも持っていないものはFLACファイルで入手してある。
■FLACファイル
FLACとは何かの説明もあるので上記サイトを読めばよいが、簡単に言うと、CDと同じ音質でできているという意味である。
慣れない人は、どうやって聴けばよいかわからないかもしれないが、上記サイトをよくお読みいただくことをお勧めする。ちなみに私は、一旦WAVEファイルに変換後、CDに焼いて聴いている。面倒なことをしているように思うだろうが、理由はパソコンとオーディオの役割を分担しているだけだ。
なお、上記サイトをたどっていくと、MP3ファイルが集まっているところにたどり着くが、FLACファイルとMP3ファイルとは全く別のものなので注意したい。
なお、2つ以上の楽章を継ぎ目無しで続けて演奏する曲(交響曲第5番や第6番)の場合、FLACファイルやMP3ファイルをそのまま続けて演奏しても、どうしても継ぎ目で無音の時間ができてしまう。もし本当に継ぎ目無しで聴きたいのなら、2つのファイルをなんとかして結合するか、ギャップ無しの指定で音楽CDにしてしまうしかない。
私なら、CD化するほうを選ぶ。また、WAVEファイルに変換すれば、結合できるフリーソフトはいくつかあると思う。
■演奏紹介
有名な録音が多いので、あまり解説しない。ベートーヴェンは、ここだ。
@交響曲全集、ブルーノ・ワルター指揮/コロンビア交響楽団
第6番が傑出した名演奏として知られるが、私としては第1、2もなかなかのものとしてお勧めしておく。他も水準以上である。残念なことに録音技術が他の会社と比べて劣る。
A交響曲全集、アンドレ・クリュイタンス指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
こちらも第6番が傑出した演奏であるが、第1、2、4もかなりの出来である。もちろん他も水準以上である。
B交響曲全集、フランツ・コンヴィチュニー指揮/ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団
渋い名演奏として知られる。どの演奏も甲乙つけ難い。個人的感想であるが、演奏解釈の上で他の演奏家と比べると最もクセが無い。
C交響曲全集、オットー・クレンペラー指揮/フィルハーモニア管弦楽団
遅めの名演奏として知られる。一部の曲では遅さが気になる人もいるかもしれない。
D交響曲一部、アンセルメ指揮/スイス・ロマンド管弦楽団
正直、あまりお勧めしない。
E交響曲各1曲、カラヤン指揮、モントゥー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮者のうまさもあるが、当時のウィーン・フィルのうまさがはっきり聴ける名演奏と思う。
Fチェロ・ソナタ、変奏曲全集/フルニエ、グルダ
昔からドイツ・グラモフォンではこの演奏がイチ押しだった。
Gバイオリン・ソナタ全集/グリュミオー、ハスキル
昔からフィリップスではこの演奏がイチ押しだった。今はどうなんだろう。
H弦楽四重奏/ブダペスト弦楽四重奏団
これも昔からEMIのイチ押しだったんじゃないかな。まだ上記のサイトでは全曲揃わない。
Iピアノ協奏曲
バックハウス、アラウ、フライシャーが上記サイトで用意されているが、バックハウスとフライシャーが全5曲揃う。個人的にはウィーン・フィルで聴けるバックハウスの演奏にしたい。
2015/02/01