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ベートーヴェンで宿題 (2014年夏休み版)


 急に聴けといわれてもねえ、何から聴くのがよいのかわからなくなる。なにせベートーヴェンは、他の作曲家と違って有名な曲が多いのだ。別のページでもいろいろと取り上げてみたが、しかしいざ改まって宿題となると、何を書けばいいのかわからなくなる。

高校での宿題
 私が高校生だった頃、やはりそういう宿題があって、5曲(種類)の音楽を聴きましょうというのがあった。その頃にはもうクラシック音楽にどっぷり浸かっていたので、5曲のうち4曲はクラシック音楽に決めた。本当なら全部クラシック音楽にしておきたいところであったが、宿題の趣旨は「いろいろな音楽を聴きましょう」だったので、仕方なくポピュラー系のムード音楽を1曲混ぜて提出した。
 すると「もっと、いろいろと聴きましょう」というコメントが返ってきた。「知らんわ、そんなの」と思った。雅楽とかジャズとか取り混ぜて聴けとでも言うんかい。実際はそういうことだったのだが、取り立てて興味を持てないものに時間を費やすという姿勢が、「趣味」の「音楽」として私は許容できないのであった。音楽は教養には違いない(*1)が、それは、知識としての教養ではなくて、人間が創造したものを体験し感動する、という教養なのだ。決して、知識をひけらかすような底の浅いものではない。
*1 昔のヨーロッパの一部では、音楽こそが文化の華だった。つまり教養だったのだ。日本では明治時代から盲目的に同じ考えを継承しているが、そりゃ変だろう。

 「音楽」を「学習」する気が本当にあるなら、クラシック音楽、中世の古代音楽、東南アジアとかの音楽、雅楽、日本古来の民謡などと、それこそバラエティに富んだ選曲で宿題をこなすべきだったのだろう。そういった場合の宿題なら、高校生では聴く曲をそろえるのに絶対苦労する。ごまかす気なら、無理にCDを買ったりすることなく、NHKの教育テレビなどを夏休みじゅう見まくるということでなんとかできたに違いないが、その頃はそのように頭が回るはずは無かった。しかし今のテレビ番組ではそんなことすらもできないようだ。そのかわり、YOUTUBEででも探していただこう。

 というわけで、ここに来た皆さん、夏休みは長いようで短い。音楽は勉強するために聴くのではなく楽しむために聴く、ということを忘れないでベートーヴェンを聴いていただきたい。そこで、以下にいろいろな曲の組み合わせを書いてみた。
 ただし、ひとつ注意がある。

疲れた時に聴かないように
 ベートーヴェンが作ったほとんどの曲は、疲れた時に聴く音楽ではない。聴いていて疲れているなと思ったら、無理をしないで、何日か後で、疲れが取れているときに、また聴くようにしてほしい。

以下、カッコ内の数字は、およその演奏時間(分)

1.ベートーヴェンの壮年期にあたる。いわゆる誰もが聴いて当たり前の曲
   クラシック音楽に慣れないうちは辟易とするかもしれないが、思春期の子供には良い刺激になる。
   熱血漢がバリバリと仕事をこなし大きな成果をあげている、という状態。

交響曲 交響曲第5番(35)
交響曲第6番「田園」(40)
専門家にも一般聴衆にも多大な影響を与えた曲の組み合わせ。曲の性格は正反対。しかし内容をよく見ると完全な兄弟。
ピアノ曲 ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」(25)
ピアノソナタ第23番「熱情」(25)
「ワルトシュタイン」を陽とするなら「熱情」は陰。これらも、曲の性格は正反対。
協奏曲 ピアノ協奏曲第4番(35)
ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(40)
第4番は内面的な深みを持ち、第5番は外面的な広がりを目指すという、これらも対照的な曲。
室内楽曲 弦楽四重奏曲第9番「ラズモフスキー第3番」(30)
バイオリンソナタ第9番「クロイツェル」(35)
この2つも、上記に負けず劣らず濃い内容の曲。


2.ウィーンに進出した最初の数年頃
   新天地に着任して、仕事にもやっと慣れ、自信が持てるようになった状態。

交響曲 交響曲第1番(30) ピアノ曲等で人気を博した後、満を持して発表した。まさに古典派の構成とバランス。しかしどこか堅いのがベートーヴェンらしい。
室内楽 ピアノ三重奏曲第1、2、3番(各20) 貴族社会で発表する、初めての自信作。第1、2番が当時の普通の三重奏曲。そこにひとクセある第3番が並んでいるのがミソ。
ピアノ曲 ピアノソナタ第1番(20)
ピアノソナタ第4番(20)
ピアノソナタ第8番「悲愴」(20)
第1、4番は時代に即しながらもどこか将来の広がりを予告させる。「悲愴」は当時のピアノ弾きに衝撃を与えた。


3.晩年の、古典派を超越した曲
   初心者向けではない。まさに北斗神拳の究極奥義を見るに等しい。

交響曲 交響曲第9番(70) 第4楽章の知名度と親しみ易さにごまかされないように。前半3楽章は究極の逸品であり、誰にも越えられない高い壁である。無論、第4楽章を超えるのも無理。
室内楽 弦楽四重奏曲第12番(30)
弦楽四重奏曲第13番(30)
弦楽四重奏曲第14番(35)
弦楽四重奏曲第15番(30)
弦楽四重奏曲第16番(20)
大フーガ(15)
同質の弦楽器による単色の音楽は、枯れた男の味わいである。それが男のロマン。何かを感じ取ろうとがんばると、そこに無理が生じる。音の流れに身を任せるのがよい。
そういう意味で若い人には肌に合わないかもしれないが、これを「難解」と表現する人がいるから困るのである。
ピアノ曲 ピアノソナタ第30番(20)
ピアノソナタ第31番(20)
ピアノソナタ第32番(20)
ディアベッリの主題による33の変奏曲(50)
ソナタ3曲は、古典派の形式が今にもくずれそうな中、ピアノの表現能力が当時の極限にまで進み、また、いわゆるロマン派のピアノ的な動きが随所に見られる3部作だ。このうちのいくつかの楽章は、稀に見る優しく美しい音楽でもある。
一方変奏曲は、技巧とアイデアの総決算。シャレや悪乗りも含んだ、クセのある曲。


4.手っ取り早くオーケストラのベートーヴェンを聴きたい
   ドラマの筋書きをなぞる、とまではいかないが、そこそこ雰囲気をつかんでいるので、聴きやすい。
   1曲15分以内、管弦楽の真髄。3曲含めて1枚のCDが必ずある。

管弦楽曲 序曲「コリオラン」(10)
序曲「エグモント」(10)
序曲「レオノーレ第3番」(15)
短くとも交響曲1曲に匹敵するエネルギーを持つ濃厚な音楽。充実、迫力、熱気、そして深い味わい、これも男のロマンであろう。


5.通俗的なイメージから最も離れた曲たち
   ながら聴きにちょうどよい曲。いかつい男は、心も優しいのである。

協奏曲 バイオリンと管弦楽のためのロマンス ト長調(10)
バイオリンと管弦楽のためのロマンス ヘ長調(10)
大曲の中間楽章としてあってもおかしくない曲であるが、単独で存在する可愛い曲だ。
室内楽曲 7重奏曲(クラリネット、ファゴット、ホルン、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス)(40) 初演時から人気はあったが、ベートーヴェンはあまり評価しなかった。若書きの作品で、未来を見据えた内容が無いからかもしれない。
ピアノ曲 ピアノソナタ第10番(15)
ピアノソナタ第15番「田園」(20)
ピアノソナタ第20番(10)
ピアノソナタ第25番「かっこう」(10)
ピアノソナタ第26番「告別」(20)
バガテル等ピアノ小品各種
どれも、のどかな部類。第20番のソナタは、かなり若い頃の作品で、ピアノの初心者がよく弾く。
バガテルは、いろいろな年代でさまざまな内容の音楽があるが、一番有名なのは「エリーゼのために」である。


2014/07/26



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