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  5. ベートーヴェンのバイオリン・ソナタ第3番は、ピアノ独演会バイオリン付き

バイオリン・ソナタ第3番は、ピアノ独演会バイオリン付き



 バイオリン・ソナタといえば、やれ「クロイツェル」だ「春」だと、それしか無いんか的な指定が横行しがち。そもそも「クロイツェル」と「春」をカップリングしてCDを発売しちゃ、他の曲を発売しても買ってもらえないんじゃないか。ということで、全曲録音を目指す場合には、「クロイツェル」には名前無しを1、2曲足して売ってみて様子を見て、次の録音を発売する。だけど、名前付きが残るは「春」だけだから、3〜4枚を続けて売り出しても、やりにくいだろうな。とにかく、バイオリン・ソナタは3〜4枚組の全集版を安く買ったほうがお得だ。

 ということであるが、「クロイツェル」なんかの解説をしても珍しくもなんともないので、ここではOp.12-3、つまり第3番のバイオリン・ソナタを採りあげる。でも実際に聴く場合は一曲では物足りない。Op.12-1 , 2も聴いてくれ。3曲続けて聴くと、初演に立ち会ったような感じがして面白いんじゃないかと思う。
 ちなみに第1、2番は、ごく普通の古典派のバイオリン・ソナタだから、妙に凝ったことはしていないし、おだやかなものだ。かまえて聴くことはしなくてよい。強いて言うなら、第2番の冒頭の主題が一風変わっていて主題らしくないということだろうか。1曲めのソナタで様子を伺って、2曲めのソナタでちょっとジョークを言ってみました、というところか。そして、第3曲になるのだ。

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 この1ページめは一瞬序奏か?と思うが、ソナタ形式の第1主題だ。普通にバイオリン・ソナタをやってるように思うだろう。ピアノもバイオリンも、ほぼ均等に演奏している。ただ、冒頭のピアノのアルベジオ具合が一抹の不安をいだかせる(笑)。どこか違う。とりあえず進むことにする。
 2ページめに入ると、やはりどこかおかしいことに改めて気付く。
 譜面の(1)でピアノの高速な下降が出る。それだけではなくて一旦上昇し、再び下降し、また上昇する。ピアノ協奏曲かと思ってしまう。どうしてこんなことをするのだろう? バイオリンは何をしているかというと、たいしたことはやっていない。とにかく、アンバランスが面白い。
 こうして2ページめも半分過ぎたあたりでちょっと落ち着いたかなと思うと、ピアノが一聴なんだかわからない目まぐるしい音型を弾いて聴衆を煙に巻く(2)。もちろん、こんなに凝った音型にする必要なんて全く無くて、もっとわかり易いものにしたって一向にかまわないのだが、とにかく、あれッと思う間も無くバイオリンに第2主題が出てしまうので仕方なく続けて聴くことになる。流麗で楽しい主題なので、バイオリンも楽しそうに弾けるだろう。なぜかピアノの右手がせわしない。
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 主題がピアノに移り、伴奏は交替でバイオリンになるが、3-1や3-2はご愛嬌である。面白いことを書いてくれる、さすがベートーヴェン。しかし、主題が終わるとすぐに6連譜が連続した部分に突入する(4)
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 一応ソナタ形式なので、要所は適切な旋律が並んでいるのだが、少しでも気を許すとピアノの一人舞台。展開部の前半分も急速な6連譜でほとんど埋められていて、主題は展開されていない。というより、楽章の冒頭を聴くとわかるように、この曲の第1主題は「ピアノは遊ぶぞ!」と宣言していることに他ならないので、展開部でピアノが遊んでも全く問題が無い。とにかく、この楽章は傑作だ。まあ、ここまでやればベートーヴェン存命当時にピアニスト・ベートーヴェンをお目当てで聴きに来た聴衆も納得することだろう。ベートーヴェン以外の人が演奏したら、そのまんま比較されてしまうというオチもついている。
 第2楽章はごく普通の雰囲気で通し、快活な第3楽章では、第1楽章ほどではないがピアノも十分に活躍している。3曲セットの作品12はベートーヴェンの技巧も聴けるので、当時の聴衆を十分に満足させてくれたことだろう。

 演奏は、ピアノをバリバリ弾いてくれるような人のものを選びたい。

(2008.10)



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