コナンでカルテット
つい先日テレビで「名探偵コナン 戦慄のフルスコア」を観ていた。ああ、戦慄を旋律に掛けていたのか、と今さらながら思ったりした。
さて、前半の会話の中でさりげなく「ベートーヴェンのピアノカルテット(四重奏)」という言葉が出てきた(*1)が、ベートーヴェンにピアノカルテットは4曲ある。WoO36
の3曲セットと、ピアノと管楽器による五重奏曲Op.16を編曲したものだ(*2)。
WoO36は古典派の曲としては良い曲だがあまりにもマイナーなので、筋書きに該当するのはOp.16になるだろう。しかしこちらもマイナーな編曲版(Op.16a)を持ち出してくるとは、かなりマニアックだ。そもそも、クラシック音楽ではピアノカルテット自体がおそろしくマイナーな編成なのだ。有名曲なんて、ありましたっけ? ジャズなら比較的多いはずである。
筋書き上、最初に3人殺しておきたかったらしいからカルテットになったのだろうが、大変に無理のある設定だった。……私くらいなものか、あそこでこんな突っ込みを考えていたのは(*3)。
推理モノでは、昔「運命交響曲殺人事件」という小説があった。もう手元に本が無いので詳細を確かめることもできないが、たしか最初の5小節のどこかの音で指揮台の中にあるセンサーが指定周波数を感知して爆発する、というものだ。そんな簡単に感知するものかいな、と思ったりする。本番直前のゲネプロで爆発されては困るし、運命交響曲の直前には何か他の曲を演奏するはず(*4)であるし、それより、拍手だってセンサーに引っかかるかもしれない。するとセンサーのスイッチは何日か前に取り付けて、交響曲第5番の始まる直前にリモコンで電源をONにしなければならない。が、リモコンという設定は作中には無かったはずだ。細工を作って設置するだけでも、なんだか007並みの難易度になってきたぞ。ど素人がこんな細工に手を出すよりも、どこかの暗がりで事を起こしたほうが簡単ではないかなぁ。
しかし、センサーの電源をリモコンでONするのなら、最初からリモコンで起爆すりゃいいじゃないか。つまり、穴だらけの作品だったのである。
これも昔、森雅裕著「モーツァルトは子守唄を歌わない」で、楽譜に込められたメッセージをベートーヴェンが解く場面。そこでとある評論家、たしかこのように書いた。「謎解きはありきたり」。しかし、音楽の基礎知識が無い人には、説明しなければ永遠にわからないのだ。「ありきたり」だと思いたい人は、最初に自分の音楽の高度な知識を披露しておくべきだろう。
ただしこの作品、楽譜を読めないほうが変だという世界の作品である(*5)。実は謎でもなんでもないのかもしれない。
音楽をミステリーに混ぜるのは、難しいものであるなぁ(棒読み)。
*1
バイオリン、ビオラ、チェロの演奏家3人が殺された、という設定だ。
*2 4曲とも、編成はピアノ、バイオリン、ビオラ、チェロである。
*3 ま、しょせんアニメなのだから、他のことには言及すまい。
*4
交響曲第5番の前に演奏する曲が無いというのは、滅多にないものである。
*5
ウィーン人は全員楽譜が読めるはずだという私の思い込みである。
(2016/11/11)