エグモント序曲を聴いて楽譜を読もう
楽譜を読もう、なんていきなり書かれても困るわけだが、とりあえずエグモント序曲を全部掲載してみようと思った。名曲でページ数が少ないからだ。コリオラン序曲でもよかったんだが、ちょうど今、いくつかの録音を聴いたものでコレにした。
それにしても、交響曲や協奏曲はやれ全集だの原典版だのあるいは聴き比べだのと華やかなのに、序曲は一向に盛り上がらないんだよね。
どんな劇なんでしょうね
省略。
劇音楽って、面白いんですかね。
多数の曲の組曲である劇音楽では、ベートーヴェンに限らず、大概の曲では面白いのは序曲のみかせいぜいあと1曲のみのようです。
序曲の概要
@劇の内容を暗示するもの、A劇中の音楽をつなぎあわせたもの、B劇で使う旋律や内容とは全く関係ないもの、の3種に分かれますが、エグモント序曲は@です。
注意:
文中、b.の次の数字は、その画像内での小節の番号です。ページが変わると数えなおしです。
序奏
上から フルート、1番 フルート、2番(ピッコロ持ち変え) オーボエ、1番、2番 クラリネット、1番、2番、変ロ調 ファゴット、1番、2番 ホルン、1番、2番、ヘ調 ホルン、3番、4番、変ホ調 トランペット、1番、2番、ヘ調 ティンパニ、ヘ音とハ音(ファ、ド) 第1バイオリン 第2バイオリン ビオラ チェロ コントラバス 上から2段め、第2フルートには、ピッコロと持ち替える、という指定がある。そのためか、2本のフルートには1段ずつ割り当てられている。 b.1 こういった衝撃的な出だしは、和声を持たず単音の強奏がサマになる。「コリオラン」とか交響曲第5番とか。 b.2 ビオラで同時に2つの音が並んで鳴っている。ひとりで2つの音を同時に出すのか、奏者を2群に分けて音を出させるかは、楽譜に特別の指定が無い限り指揮者が決める。ここでは2群に分かれる。調弦(つまり弦が出せる音)の都合で、ドとファを同時には出せないからだ。 b.3 このあたりでのコントラバスの最低音はミ♭であるが、現代の4弦コントラバスでは音が出ない。昔は、演奏前に弦の張り具合を変えて演奏したという。果たして正確な音が出ただろうか。現代では、5弦コントラバスや低音を出せるアダプタ(Cマシン)があるので、それを用意さえすれば音は出る。 b.5〜8 1段に、同種とはいえ2つの楽器を割り当てるので、このように下のほうに全休符がある。玉から出る棒の向きは、主席(たとえば1番ファゴット)では常に上向き、2番ファゴットでは常に下向きが原則である。こうすることで、2人のうちどちらが音を出しているかが直感的にわかる。 b.9 b.1とは異なり、ディミヌエンドが付いていない。しかもff。 |
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楽器の名前が消えた。しかし、左端のカッコの位置や各段の音部記号(ト音記号とか)調性記号(フラットの数が4個、2個、無し)から簡単に推測できるようになったら、楽譜に慣れてきた証拠である。 b.2 ホルンの音がレから2線下のソに飛んだりするのは、間が広がりすぎている(落差が激しい)のではないか、と思うだろうが、当時の楽器の特徴で、出やすい音を選んだらこうなったのである。トランペットの b.1,2 でも、そこだけなぜ音が無いのかと思うだろうが、適切な音が出せなかったというのが大きな理由のひとつである。だからといって、現代の楽器は大丈夫だからと音を1オクターブずらしてよいかどうかは、また別の問題。 b.6 第1主題に成長する旋律が続くが、ここで重なる木管楽器の組み合わせ方が絶妙である。 |
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b.7
旋律が直前の小節の2倍の音価になっているが、これにより
ritardando
と同じ効果を出している。決してテンポを遅くしろとは書かれていない。 b.4 ここからビオラに同時に3つの音を鳴らすように書かれている。しかし、さすがに1台のビオラでは3つの音をこのような刻みで同時に演奏できないので、ビオラは2群に分かれたりする。音によっては3群に分かれる。 b.7の右。 次のページから拍子が変わるので予告している。 |
主部
ソナタ形式。
提示部が始まる。 b.1 Allegro としか書かれていない。にもかかわらず旋律が不安げな出来事を予感させるのは、 cresc. や sfp や、各楽器の音の動きが、完璧に構成されているからだ。 b.1 加速しながら始めたい指揮者もいると思うが、音量の増加のみで十分だろうと私は思う。 b.4 第1主題は2オクターブにわたってなだらかに落下する大変珍しいものだ。 b.1〜 もう既にコントラバスはチェロとは別個の動きをしている。 b.12 ホルンに、ヘ音記号が出てきた。ホルンはけっこう低音も出るのでヘ音記号を使うことが多い。ここではヘ音記号における下2線のドが鳴っているが、実際には、ヘ音記号における第1線上のファが鳴る。難しい話なので、これくらいにする。 |
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b.6
このあたりから、管楽器は2拍めに音を出している。緊張感を伴う音の並びだと思う。 b.10 ビオラとチェロに2つの音を出せと書いてあるが、どちらの楽器でも下の音(ド)は開放弦(左手の指を使わなくてよい)ので、比較的簡単に2つの音を同時に出せる。 b.10 ベートーヴェンの十八番である、息の長いクレッシェンドがある。 |
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b.9〜
チェロとビオラのうねりが緊張感を増す。 b.10 ティンパニで3連符(小さい 3 が書かれている)が3個あるが、いちいち書かなくてもわかるので数字は1箇所しか書かれていない。次のページも同じ。 |
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b.12
ホルンとトランペットの3拍めに、休符がある。音の高さが、どうしても書きたい音(思った音色と強さで)で出せないので、取りやめたと考えられる個所。ここを何かの音で埋めようとするのも考えられなくはないが、これは19世紀後半的な考え方とみていいだろう。 b.5〜 低音弦の8分音符は1拍め、高音弦の8分音符は、2、3拍めに分かれているなんてところが、これまた絶妙。 |
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b.1 〜 各小節の1拍めにsf(スフォルツァンド)があるのは、単に強くしろという意味もあるが、気合を入れろに近い。連発するのはベートーヴェン特有の使い方。短い4分音符にはsfが付いていないことに注意。 b.9 序奏の主題がここで第2主題として現れるという演出。管楽器にdolce(柔らかに)が付いて、対比を際立たせよという指示。 |
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b.10 もはや数字 3 は3連符に書かれていない。 | |
b.11 トランペットとホルンが、ところどころでしか鳴らないのが不思議と思われるだろうが、これも出せる音の都合。 | |
b.3
ここからが展開部。第1主題をもとにしていることがわかる。弦楽器ではなく管楽器に主題が現れる。 |
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再現部における第1主題の出現を全く邪魔しないように控えめに展開がされている様子が以上3ページでわかったと思う。 | |
b.4 あっという間に再現部。提示部と比べると、ここでは管楽器が加わっているところが異なる。早くも2拍めに鳴る管楽器は、第1主題の不安げな感じを邪魔しない。 | |
b.2〜3のffは、全く違和感を感じさせることなく場面のショートカットをしている。主題提示部でどのような進行があったか、確かめてみるとよい。 | |
b.8,9 ここも提示部と違う進行をする。和声も小節の数も、少し違っている。 | |
b.3〜 提示部と異なり、ビオラが加わっての豊かな弦楽器の響きがすばらしい。b.7からの弦楽器は2小節前と同じ動きで、提示部とは異なる。提示部と再現部の違いが、あちこちにあることがわかると思う。調の扱いの違いばかりでなく、雰囲気や流れに変化を持たせている。 | |
b.4〜 こんなところに序奏の主題が! | |
b.9
第2フルートは、ピッコロに持ち替える。 b.9 〜16 ベートーヴェンでは滅多に使われない、ppp がある。この8小節を見て、何か思い出さないだろうか。これは、R..コルサコフ「シェヘラザード」、メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」序曲に継承される手法である。 b.16 の右。次のページから調と拍子が変わるので、予告している。 |
コーダ
b.1 ロッシーニがこのようなクレッシェンドを書く傾向にあるが、ベートーヴェンが同じようなことをすると別の迫力がある。第2バイオリンやビオラが刻む音が細かい。 | |
b.4 以降 sfを書きまくるところにベートーヴェンの特徴がある。 | |
b.5以降
聴いていると第1拍に強い押しがあると感じるが、ホルンが付点4分音符で加わっているのが大きい。 b.5〜 チェロがテノール記号になっている。比較的高い音を出すときは、テノール記号やト音記号になる。 |
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b.3 低音弦のmarcato は、十分に鳴らせ、という意味。 | |
b.2以降 前ページと同様の個所であるが、細部を変えてさらに迫力を増している。 | |
b.6,8,10
ここのトランペットの1拍めは、音の流れから考えると1オクターブ上ではないかと考えるが、当時の楽器(ここではヘ調トランペット)では高音が出にくいので、あえて下げてある。かわりにホルンに頑張ってもらう。現代の楽器は音を出すのが容易なので、音程を上げて鳴らす場合もある。 ここから最後まで、2段めのホルン(変ホ調)2本に出番があまり無い。これにあえて音をあげたら迫力が出るのではないかと考えるかもしれないが、古典派を逸脱する可能性がある。 |
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(2014.01.13)(2018.6.9増補)