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副読本


 今のカラー写真や絵で誤魔化したようなモノとは違って、昔の教科書はモノクロの殺風景なものだったがそれが普通であると思っていた。それとは別に面白かったのが副読本だ。今の副読本は教科書との違いがわからないなぁw。

 特に中学校の音楽の副読本が、とてもマニアックだった。たしか3年分で1冊だったのだが、縦横は週刊誌サイズ、厚さは1センチを超えていて、内容は著名作曲家作品便覧とでもいうべきものだった。
 ヴィヴァルディあたりから日本の作曲家まで網羅してあるのだが、しかしマニアックなのはそこではない。ヴィヴァルディ「四季」の「春」第1楽章がフルスコアで掲載、ベートーヴェン「田園」は簡易なピアノ編曲版で第1楽章の提示部を掲載し、シューベルトは「魔王」を最後まで載せ、ムソルグスキーの「はげ山の一夜」は冒頭の部分のみ(およそ5ページ)ではあったがフルスコアで掲載、という具合だった。他の曲はさすがにフルスコアを並べることはしなかったが、とにかく最後まで作曲家の代表作を譜例満載で紹介という、およそ中学生向けとは思えない贅沢な作りであり、完全にモノクロであるが豊富な内容は今思い返しても「金払わなきゃ」というくらいのものであった。
 よくもまあ作れたものである。しかし、こういうモノこそが授業と関係なくその科目を面白いと思わせるのだ。
 フルスコアの「はげ山」の冒頭を喜んで眺めていたなんて、スゴいことじゃないか。ただ掲載しているだけで音楽作品を啓蒙できているのだから。そして、当然のことというか学校の先生は副読本をほとんど使わなかった。

 (どこかに書いたはずなのだが)私は中学1年のときに親にステレオを買ってもらった。このとき、音楽の副読本を日本楽器(今のヤマハ)名古屋店に持っていって、この中の曲のレコードを何枚か選んでくれ、とお願いしたのである。何も音楽を知らなかった親なのに、うまい具合に知恵が働いたものだ。
 そこで選んでもらったのが以下の6枚だった。
  カラヤン、フィルハーモニア管弦楽団「運命」「田園」
  カラヤン、フィルハーモニア管弦楽団「未完成」「新世界」
  ヘルマン・プライ、シューベルトの歌曲集(「魔王」入り)
  バーンスタイン、歌劇の序曲集
  吹奏楽による行進曲集
   もう1枚あったと思うが忘れた。

 「魔王」や「田園」の楽譜を指でなぞって聴いていたことは言うまでもない。こうして今に至るのだが、絵や写真に場所を広く取られただけの今の副読本は、圧倒的に情報量が少ない。つまらない。レコードでは見えもしないのに楽器の写真をホイホイと載せたり、俯瞰してもわからないような音楽史の年表を載せてはいけない。楽曲の形式の構造を解説するなんてもってのほか。まず聴きたいと思わせること、それが全てではないだろうか。

 あの副読本のような本、今は売っていないだろうか。しかし今また見たら記憶との落差が激しくてでがっかりするかもしれないが、それでもあったらいいなと思ったりする。

(2011.9.14)



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