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一度見てみたい事件


 化学者にして科学解説者、そして何よりSF作家であるアイザック・アシモフの作品に、このような内容の話がある。
 過去を見ることができる装置があって、その使用は政府の機関が厳重に管理している。ある研究者はどうしても自分が研究対象とする歴史的事件をその装置で見てみたいが、申請しても却下されてしまう。そうこうするうちに、実はその装置が少々無理すれば誰でもすぐに手が届く程度の部品と技術で出来てしまうことがわかった。なぜ政府はそれを公開しないのか。そして…というもの(邦題「死せる過去」)。
 過去を見ることができる装置という設定はどこにでもいろいろとありそうであるが、さすがアシモフ、オチが科学的ではなく社会的なので、誰でも納得する(しかも恐ろしい)作品に仕上がっている。
 おっと、そのオチを説明するのは本題ではない。

 私としては、そんな装置があったらぜひ見てみたいのは、こんなところだろうか。

@交響曲第9番の初演(1824年5月7日)
 拍手と歓声に気付かなかったベートーヴェンを、歌手が聴衆側に向かせたという有名な演奏会。個人的には、聴衆が本当にどれほど曲を理解したのかどうか、知りたいところだ。この演奏会では他にも、
 ・第2楽章のティンパニが聴衆にどれほど受けたか。
 ・第2楽章のトリオは速いか遅いか。
 ・拍手が皇帝に対するものより長かったとは、どれほどか。
 そして、
 ・どこまでうまく(ヘタに)演奏したかどうか。
という見所/聴き所がある。
 この演奏会をモチーフにした映画があったが、虚構のレベルがブッ飛びすぎていて、お話にならない。

A交響曲第5番、第6番初演(1808年12月22日)
 冬の夜、寒い劇場で尻が痛くなるほどすわり続ける演奏会は、いったいどんなものだったろうか。延々4時間以上かかる、すごい演奏会である(詳細はこちら)。ワーグナーのオペラじゃないんだから、もう。
他の見所は、
 ・合唱幻想曲の失敗の顛末。
 ・ソプラノ独唱が直前にパニックに陥ったところ。
などである。

ただ、これら2つの演奏会はなんとか想像がつく。しかし実際にその場にいなければ絶対にわからないのは、次のようなものだろう。

Bゲリネックとの即興演奏対決(1800年頃)

 チェルニーの記録(*1)に残っている、ゲリネックがショックを受けたという対決である。
 ベートーヴェンの即興演奏についていろいろと逸話が残されているが、実際にどれほどの頻度で演奏していたかは、とんとわからない(資料を見ていない)。もともと気分が乗らないとやってくれない人なので、念入りにお膳立てをしないと実演にはありつけなかっただろう。どのような経緯でゲリネックと対決することになったのかはわからない。誰かが即興演奏を聴きたくて、ゲリネックが来たことをこれ幸いと、煽りたてたんじゃないかと思う。

(*1)チェルニーが実際にその場にいたのではなく、ゲリネックに様子を聞いたことが書き遺されている。



(2010/11/13)



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