「これこそ正しいベートーヴェンの聴き方」
どんな演奏がいいのか 交響曲第5番
たとえば、もし世の中の全ての交響曲第5番の録音を聴くことができれば、あれはいい、これは悪い、と言える。しかし、実際それは不可能だ。
なぜなら、私にはあり余るほどに金と暇と場所がある、なんてことはない。おそらく300種類を超える交響曲第5番の全てを、とうてい買うことも探すことも並べておくこともできない。交響曲第5番だけ並べるならば一般家庭でもできるが、そういう人はそれ以外の数多くの音楽も集めようとするから、実際には図書館並の設備と潤沢な資金が必要だろう。
仮に集めきったとして、300枚の交響曲第5番を聴くだけでも160時間を必要とする。体調が思わしくない場合には一度聴くだけでは正しい評価を出せないので、2度聴くとして320時間だ。
単に数えただけでこうである。普通に生活している人が、数少ない録音からどうして全録音中の「ベスト」を選択できるだろうか。
だから、たとえばある評論で「この録音はベストだ!」という意見は、こういう意味になる。
「数多くある音楽の中で、この曲の録音を全部聴くことができないことなど最初からわかっている私が批評するのもなんだが、聴いた当日の体調と、自分の音楽の趣味嗜好と、それまでの経験と、担当者の接待と謝礼と、演奏と録音の質と、演奏家の顔のマズさを総合判断した結果、まあ、ベストにあげていいんじゃないかなあと私は思うが、文句は言うなよ」
まあ、そんなところだろう。
そんなこんなで、全ての録音を聴けないので、私はベスト盤をあげることはできない。せいぜい、松竹梅に分けるくらいしかできない。比率は、松2割、竹3割、梅4割、その他1割だろうか。聴いても時間が経つと忘れる場合もあるし、当日の状況でうまく聴けない場合もある。では、せっかくなので今の私として交響曲第5番を選択してみよう。くれぐれも断っておくが、
「数多くある音楽の中で、この曲の録音を全部聴くことができないことなど最初からわかっている私が批評するのもなんだが、聴いた当日の体調と、自分の音楽の趣味嗜好と、それまでの経験と、演奏と録音の質と、演奏家の顔のマズさと、家庭の内外での気になることのストレスの影響も含めて総合判断した結果、まあ、いいんじゃないかなあと私は思うが、文句は言うなよ」
である。では、かなり良い(松)と思ったものに、■を付けておく。まあ良いというのは■(竹)だ。この2つは、さすがに、何度も聴かないと、付けられない。絶対に薦めないものには、▲を付けた。もっとも、これらは気分でコロコロ変わるのである。
ニキシュ、BPO 1913
フルトヴェングラー、BPO 1926
R.シュトラウス、ベルリン・シュターツカペレ 1928
シャルク、VPO 1929
ワインガルトナー、LPO 1933
トスカニーニ、NBCSO 1939
フルトヴェングラー、BPO 1943.6.30
カラヤン、VPO 1946
フルトヴェングラー、BPO 1947.5.25
フルトヴェングラー、BPO 1947.5.27
■E.クライバー、COA 1949
■トスカニーニ、NBCSO 1952
フルトヴェングラー、ローマ・イタリア放送SO 1952
ベーム、BPO 1953
■フルトヴェングラー、VPO 1954
■フルトヴェングラー、BPO 1954.5.23
ワルター、コロンビアSO 1958
ロジンスキー、ロンドン・フィルハーモニック・シンフォニー・O
1958
■クリュイタンス、BPO 1958
コンヴィチュニー、ライプツィヒ・ゲバントハウスO 1958.10.30
■ライナー、シカゴSO 1959
クレンペラー、PO 1959
クレンペラー、PO 1960
■コンヴィチュニー、ライプツィヒ・ゲバントハウスO
1961
■モントゥー、LSO 1961
レイボビッツ、RPO 1961
■カラヤン、BPO 1961、2
■シェルヘン、ルガノ放送O 1965.2.26
カイベルト、ハンブルク国立PO 1963
■セル、クリーブランドO 1963
グールド(リスト編曲ピアノ版) 1967、8
岩城宏之、NHKSO 1969
ラインスドルフ、ボストンSO 1968
■イッセルシュテット、VPO 1968
クレンペラー、VPO 1968.5.25
■ベーム、VPO 1970
ケンペ、ミュンヘンPO 1971
■ハーガー、ザルツブルグ・モーツァルテウムO
1971
ショルティ、シカゴSO 1972
クーベリック、ボストンSO 1973
K.クライバー、VPO 1975
バーンスタイン、バイエルンRSO 1976.10.17
カラヤン、BPO 1976、7
朝比奈隆、大阪PO 1977.5.12
バーンスタイン、VPO 1977
スイトナー、ベルリン・シュターツカペレ 1981
▲小澤、ボストンSO 1981
ジュリーニ、LAPO 1981
ザンテルリンク、フィルハーモニアO 1981
カラヤン、BPO 1982
マルケヴィッチ、ベルリンSO 1982
ハノーヴァーバンド 1983
吉川善雄(シンセサイザー) 1984
ザンテルリンク、BSO 1984
ハイティンク、COA 1986
ホグウッド、ACO 1986
アバド、VPO 1987
ノーリントン、ロンドン・クラシカルプレイヤーズ 1988
カツァリス(リスト編曲ピアノ版) 1989
▲ノーツ、リューブリアナRSO 198?
山田一雄、新星日本交響楽団 1989.11.21
ショルティ、VPO 1990.5.5-6
テンシュテット、LPO 1990.8.30
ブリュッヘン、18世紀O 1990
マッケラス、ロイヤル・リヴァプールPO 1992
▲ティボリス、ワルシャワPO(マーラー編曲版)
1993
プロ・アルテ・アンティクア・プラハ(室内楽編曲版) 1995
▲ジンマン、チューリッヒ・トーンハレO 1997
飯守泰次郎、東京シティ・フィルハーモニックO他 2000
岩城宏之、オーケストラ・アンサンブル金沢 2002.9.12
2007/2/6