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「これこそ正しいベートーヴェンの聴き方」
弦楽器


コントラバス
 チェロとコントラバスを独立した譜面にし始めたのがベートーヴェンだ。古典派の音楽では、チェロとコントラバスは同一の譜面を使用する、というのは一般的である。もちろん、コントラバスはお休みで、チェロのみという場合もあるが、結局のところ同じ譜面にしてしまって何も問題は無いわけだ。
sym2_4.jpg (37590 バイト)交響曲第2番第4楽章
 コントラバスが独立した動き、つまりチェロとは別の譜面を用いるようになったのは、正しくはこの譜例のように、交響曲では第2番からであるが、その前に7重奏曲op.20というコントラバスのソロが含まれた室内楽曲がある。
sep_2.jpg (32286 バイト)7重奏曲第2楽章
 この曲は、コントラバスの名手がいたためにコントラバスを含むことになったようだが、作ってみたことでコントラバスの可能性に開眼したと言えるだろうか。いや、実際はチェロにメロディーを演奏させたかっただけ、というのが正解のような気がする。交響曲第2番もこの曲もチェロはメロディーを受け持たせてもらえるが、コントラバスは単純な伴奏に終始している。さて、ハイドンあたりまでメロディーはバイオリンのためのものだった。ほとんどの曲が主要主題はバイオリンが演奏していたとみなしていいだろう。であるから、チェロ、およびコントラバスは伴奏に徹することになる。しかし、それがもったいないことは容易に想像がつく。結果としてチェロが朗々とメロディーを演奏することになれば、コントラバスは独立して演奏しなければならない。有名どころでは「英雄」第2楽章の冒頭。
sym3_2.jpg (37997 バイト)交響曲第3番「英雄」第2楽章
 このように、深みのある音が厳かに鳴るのは、この楽章にはじつにふさわしいといえるだろう。7重奏曲を演奏してみて、コントラバスの低音の魅力に開眼したら、こんな音楽は簡単に想像できるというものだろう。

sym4_3.jpg (31986 バイト)交響曲第4番第3楽章
 いっぽう、こちらは交響曲第4番。しばらく前までは管楽器がやさしく演奏していたメロディーである。うねるような動きが、そのメロディーが始まる頃からチェロなどにより流れている。したがって、低音の進行はコントラバスのみに任されることになる。やや重々しい感じもするが、成功した例である。
eg.jpg (83046 バイト)「エグモント」序曲
 他では、「エグモント」序曲の第1主題、といったところだろうか。悲劇的な内容の曲であるだけに、コントラバスの深みのある低音が魅力である。さて、このエグモントの主題はチェロ単独で演奏されているが、じつはベートーヴェンは、チェロのみでメロディーを演奏させることは少ない。チェロとビオラがセットで動く場合が多いのだ。たとえば、交響曲第5番第2楽章の主題。
sym5_2.jpg (27855 バイト)交響曲第5番第2楽章
 ビオラがチェロと同じ動きをする。これにより、コクが生まれるのだ。比べてみるに非常に良い例が、ブルックナーの交響曲第4番第2楽章にある。そこでは、若干の伴奏を伴って冒頭の主題をチェロのみで、次の主題をビオラのみで、と演奏されている。その結果、楽器固有の響きが強調されて独特の雰囲気を出しているのだ。このように、コントラバスが独立した動きをすることが、同時にチェロなどの新たな使用法を生み出したといえる。
 さて、このようにコントラバスが独立して動き出すと、そのまま伴奏に甘んじていないのがベートーヴェンのようである。その使用法の最終的な結論が、交響曲第9番第4楽章の有名な主題の部分になる。
sym9_4a.jpg (36236 バイト)交響曲第9番「合唱付き」第4楽章
チェロとビオラに主題が受け渡されると、コントラバスは対旋律を演奏する。ファゴットも似た旋律を演奏している。このようにコントラバスが重要な部分を受け持つことになると、やはり十分な人数が欲しい。バイオリン主体の音楽であるなら、チェロとコントラバスが同じ譜面を演奏し、それにより、オクターブの音の重なりが、少なめの人数でも十分な音の量を得ることが出来ただろう。「英雄」などの初演当時のオーケストラが、せいぜいコントラバス2名であったらしいことを考えると、この独立したコントラバスの動きに適した人数になるために、増員はやむなしであり、結果としてオーケストラが巨大化するのは必然かもしれない。

中音の充実
 中音域は、ベートーヴェンの特徴を示す絶好の領域だ。そこが作る重厚さは、それ以前の音楽とは一線を画している。まず、3重協奏曲の一部を見よう。
3c_1.jpg (30741 バイト)3重協奏曲第1楽章
 これは、第1楽章の第1主題提示直後。第2バイオリンとビオラが、3音による和声を作っている。管楽器も全員で和声をフォローしていることは言うまでもない。ここでは、チェロとコントラバスが、強力に駆け上がるところが、非常にカッコよいのである。第1バイオリンも、1拍めに和声をもって叩きつけるように鳴っているのも、効果がある。大変面白いところだ。カラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏では、たまらなく良いところである。
 ベートーヴェンでは、このように、第2バイオリンとビオラの組み合わせで、和声の充実を図ることが非常に多い。また、ビオラとチェロに和声が任されることもある。中央ドあたりで、緊密な和声を作るのが秘訣である。

 一方、こちらは滅多に聞かれない例である。第2バイオリンとビオラが中音域で激しい動きをするために、中音部の和声に抜けが発生する。実際に管楽器も別の旋律を演奏しているため、和声に参加できない。そのためにとった手法が、強力な、超低音の持続である。チェロとコントラバスは、轟音のようにソの音を持続させる。これで、超重厚な交響曲にしてしまうのだ。ハイドンやモーツァルトでは、決して想像できない、強烈な個所である。
sym5_4.jpg (27621 バイト)交響曲第5番第4楽章
 こういう楽器の使い方をするから、ベートーヴェンの交響曲は、たまらないのである。

第1と第2バイオリン
 2つの群のバイオリンは、舞台ではどのように並んでいるか。第1バイオリンは左前面、第2バイオリンはその奥。これが一般的な並び方であるが、これは、全くの間違いだ。正解は、第2バイオリンが第1バイオリンの反対側、つまり、右側前面に出てこなくてはいけないのである。ベートーヴェンに限らなくても、さまざまにその証明はできるが、ここでは、ベートーヴェンで例をあげよう。例はいくらでもある。
sym4_1.jpg (19341 バイト)交響曲第4番第1楽章
 このように、第1、第2バイオリンの掛け合いがある。これが隣同士で並んでいては、よくわからない。第1バイオリンが指揮者の左、第2バイオリンが右に分かれて並んでいて、はじめてその動きが面白く感じられる。ベートーヴェンは、ステレオ的に楽器を使い始めた最初の人なのである。
sym6_1.jpg (28425 バイト)
 交響曲第6番「田園」の第1楽章展開部。ここは、左右でメロディーを交替しながら進んでいく。また、交響曲第7番第1楽章の序奏や、第4楽章のコーダでは、やはり同じ音の動きを2つのバイオリンの間で交替させているのだ。
sym9_1a.jpg (20950 バイト)
 第9番「合唱付き」第1楽章。ここも、下降する第1バイオリンに上昇する第2バイオリンが重なっている。
 これらのように、第2バイオリンが右に無ければ、さっぱり面白くない個所が多数存在しているのだ。もちろん、初めてこれらを聴く人にはどうでもいいことである。この効果を知らなくても、曲の面白さは十分にわかるに違いない。しかし、よく考えてほしい。ベートーヴェン存命の当時、演奏会場の多くは、現在のものより小さいところが多かったのだ。オーケストラから何十メートルも離れているところで聴くような会場は、オペラ劇場くらいのもの。しかも、ベートーヴェンは指揮者という役割。つまりオーケストラの近くにいる。じつは近くで聴いて、はじめて全ての面白さがわかるように作られているのである。ベートーヴェンが指揮をしながら、左右のバイオリンを交互に指揮する様子を考えてほしい。自分の周囲で立体的に交響曲が作られる、そんな気分に浸ることが出来るのである。

弦楽器の分割
 弦楽器は5部構成であるが、通常、ビオラが2部に分かれることが多い。divisiと記述されている場合には、2部に分かれて演奏することになる。ただ、ビオラや第2バイオリンなど、divisiをよく受け持つグループの場合には、divisiと書かれていない場合もある。その場合、音の具合によっては、ビオラが2部に分かれることなく2つの音を演奏することも出来る。弦楽器であるから可能なことであるが、実際にビオラが2部に分かれるか否かは、その時の状況で決まる。指揮者とオーケストラの都合で決めていいわけだ。しかし、特別な分かれ方がベートーヴェンでも存在する。
 下は、「田園」の第2楽章冒頭である。チェロのうち2名が、ソロになって、特別な譜面を演奏し、残りのチェロは、コントラバスと同じ、となっている。したがって、チェロは3名以上ということになるだろうか。ここで面白いのは、このチェロの扱いである。交響曲の中で、ソロが2名も登場するのは、珍しい。静かな小川の流れを表現するために、あえてソロ2名を用意したのであろう。チェロ全員で演奏すると、静けさが失われると考えたのかもしれない。あるいは、残ったコントラバスが低音を受け持つのが寂しい結果に終わると考えたのであろう。
sym6_2a.jpg (27548 バイト)
 一方、こちらは交響曲第7番第2楽章の冒頭である。チェロが2部に分かれている。途中では、ビオラも2部に分かれていることになる。よって、弦は7部構成になるのだ。この単調な主題を、低音弦のみで演奏しても和声が充実するように、チェロは2部に分かれる必要があったのである。この楽章の途中からは、チェロは1部に戻されている。

sym7_2b.jpg (27232 バイト)



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