LPレビュー(1)
ここは、大権現様とともに、LPのうんちくをたれようという、またやるんか的企画です。
(1)熱情を聴きましょう。
(なかさん、以下、な)これが、あまりうわさにならなかったダイレクト・トゥ・ディスク(日本的に言えば、ダイレクト・カッティング)の熱情だ。
(大権現、以下、大)すごいね、このリアルさは。
(な)神谷郁代さんのピアノで、A面は第1楽章、約9分。B面は第2、3楽章、約11分半。45回転です。1977年録音。
(大)それだけで、すごさがわかるかな?
(な)ダイレクト・カッティングとは、演奏をそのまま、マイクからレコードのカッティングマシンに直結する方法で、途中にテープ装置などの余分なものが一切無いということになります。つまり、装置が少ないぶんノイズも少ないし音の劣化も少ない。そのかわりイッパツ勝負。装置が動き出したら「ちょっと待って!」がダメなのです。
(大)普通の演奏会なら、ピアノの前で少々気持ちを落ち着けることができるがな。これはできないということか。
(な)この頃の通常のLPレコードは、「悲愴」「月光」「熱情」で1枚のレコードでしたね。つまり、1時間1枚です。片面30分。それが、片面10分ですよ。たったひとつのピアノ・ソナタ。
(大)3倍も割高だ。
(な)そのかわり、ものすごいリアルな響きで、熱気ムンムンです。そうそう何度も聴けるものではありません。
(大)気迫というか、絶体絶命という感じがするな。
(な)ピアノはベーゼンドルファー・インペリアル、最高の環境です。
(大)なのに、安く買えたんだよな。
(な)ある店の中古コーナーで500円でした。
(大)まったくもっておかしな話だ。
(2)もうひとつ熱情を聴きましょう。
(な)こちらも、熱情ソナタのみです。アシュケナージのピアノ。
(大)テープ録音だな。
(な)そうですが、テープはマスターテープから特注でコピーしたもので、テープ再生からカッティングマシンまでが、余計なものが無い、特別の装置のみで接続されています。したがって音の劣化もかなり少ない。
(大)これもピアノソナタ1曲だ。
(な)A面は第1楽章、約11分。B面は第2、3楽章、約14分。33回転ですが。
(大)なんだかよーわからんがすごい。
(な)デッカのアナログ録音が頂点を極めつつある1970年の録音です。
(大)うーん、よだれが出た。
(な)これを聴いてしまうと同じ録音を詰めこみすぎの普通のLPレコードは聴けません。
(3)第7を聴きましょう。
(な)ショルティ指揮、シカゴ交響楽団の、第7です。1974年録音。
(大)なんとLPレコード2枚組み。
(な)そう、A面が第1楽章14分半、B面が第2、3楽章18分、C面は第4楽章9分です。
(大)D面は無し?
(な)無しです。たった40分の交響曲に3面使ったという、当時はそれだけで驚くべきことでした。通常なら第7交響曲に序曲をオマケに1曲つけてLP1枚でした。
(大)それはともかく、音がすごい。最終楽章のコーダの轟音は、どうだ。
(な)第1楽章冒頭の打撃もすごいですよ。
(大)低音の充実がすごい。腹に響く。これなら耳が多少悪くても面白い。
(な)そういうもんですかね。これは、当時は最高のLPレコードとして、もてはやされました。
(大)とにかく、ここにある3種類のLPレコードは、盤面を見ると溝がうねっているのがわかるのだ。
(な)このようなものが存在する限り、LPレコードは不滅です。
(2002.10.26)