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  5. ここ一番で簡単に盛り上がることができるのは第7なのですよ

ここ一番で簡単に盛り上がることができるのは第7なのですよ。


 見事に盛り上がって終わった、11/6放送分(第4回)の「のだめ」でありましたが、ひとえに交響曲第7番が演奏されたからではないかと思う。ではここで、どうしても第7番でなければならなかった理由を勝手に考えておきたい。

 テレビドラマ版でSオケの公演となった第7であるが、原作では、第3番「英雄」であった。ドラマ中、玉木君扮する千秋真一が、「なぜ、名前無しの第7番なんだ…?」という意味の思案をしていたが、この曲でなければならない理由は、じつは、数多くある。

(1)楽器編成は2管がベスト

 まず、楽器編成から考える。2管編成より大きな3管編成以上の曲というのは、曲そのものが、ベートーヴェン以降になり、特殊楽器が増える。それは、コールアングレであったり、コントラファゴットであったり、バスクラリネットになるが、プロではない以上、学生のオーケストラで学業に並行して練習するのは無理があるし、楽器も用意できないかもしれない。トロンボーンやチューバは用意できるだろうが。だから、2管編成がベストといえる。ちなみに、1管編成というのは、音楽そのものが貧弱になるので、全く一般的ではない、というか、曲そのものがわずかだ。なにせ、どんな曲があるか、私がわからないくらいだ。つまり、有名な曲は皆無といってよい。
 また、ベートーヴェン以降になると、有名な音楽の半分以上が3管編成となり、練習は一段と難しくなる。それは、技術的にも音楽的にものことであり、ドラマ中の1週間という限られた期間(原作では2週間)では、無理な話になる。こういう観点でも、設定上落ちこぼれの集まりということになっているSオケは、2管編成であることがベストなのだ。
 これにより取捨選択された2管編成の代表的な音楽は、一応交響曲に限っておくが、ハイドン、モーツァルト、そしてベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、ブラームスあたりになる。演奏の難易度を考えても、まだまだ曲の数は多そうだ。

(2)こいつら、みんな「のだめ」なのか。

 この考えに千秋真一が至ったとき、ある程度の自由奔放さを許容するレベルの音楽が必要になる。こうなると、一気に選択の範囲が狭くなる。ハイドン、モーツァルト、メンデルスゾーンの全ての交響曲は、選考から漏れてしまうだろう。シューベルトも無理だろう。ブラームスも、まず無理だろう。やっつけ仕事でもなんとかなるという意味も含めて、ここで、ベートーヴェンが残ってしまうのだ。
 「やっつけ仕事でもなんとかなる」というのは、曲そのものが堅固なので、アマチュアでもサマになりやすい、という意味だ。
 しかし、ベートーヴェンの交響曲といっても、「英雄」「田園」「合唱付」は、やはり選考から漏れてしまう。「田園」は、表題があるゆえに簡単そうに見えて、技術的にも音楽的にも非常に難しい音楽だ。もとより、落ち着いた雰囲気が強い音楽である。「英雄」も、熱血さを容易にこめることができそうだが、演奏の難易度は高く、そのわりに比較的地味でありドラマ的に相容れない。そして「合唱付」の難しさは、言うに及ばず。タイトルがあるからイメージし易いとか、練習が簡単というわけではない(これを説明すると、難しい内容が続きドラマにならない)。残る6曲のうち、第1、2、4、8番は名無しであるとともに、ドラマ的に映えない。だから、残るは第5番そして「第7」になってしまう。

(3)ベートーヴェンで名無しの曲。

 知名度の点では、当然交響曲第5番のほうが数段上であるが、原作の雰囲気を決して壊さないことを考えると、どうしても、明るい雰囲気の長調の曲(第7はイ長調)を選ばざるをえない。そこに至って、第7は、とんでもない強みがある。それは「崇高」に言えば「舞踏の聖化」と言われ、あるいは、ぶっちゃけ「酔っ払いが作った音楽」とまで批評された、全体を通しての躍動的なリズムと、随所で魅せる爆発するかのような旋律群であり、それでこその第7番なのである。ここまで書けば、聴かずともどちらがふさわしいかわかる。キャラクターが踊りまくるためには、第7番をおいて、他には無いのだ。印象を特定するような題名を持たず、ローカルな特定民族的な着色が無く、それでもクラシック音楽の王道に君臨し、この番組のタイトルでBGMに使えるというのは、この曲でしかありえない。交響曲第5番では決してできない芸当だ。原作でも第7番の演奏シーンがあることが選ばれた理由だろうが、選曲というのは、じつは奥深いのである。
 そんなこんなで、第7番は、じつにふさわしい使われ方をしているのである。
 余計な深読みだけど、それでいいじゃん。

(2006.11.9)



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