最初の1ページ 管弦楽その1
「コリオラン」序曲 Op.62
いかにも悲劇が始まるかのような、ハ短調の衝撃的な開始。交響曲第5番の第1楽章をこれに置き換えても、しっくりしそうである。もし置き換えたとき、交響曲の構造が破綻をきたす要因になるだろうか。急速なコーダが無いために、次の楽章につなぐことは十分に可能だ。
「エグモント」序曲 Op.84
ホルンは4本。
コリオランとは異なり、トランペットや他の管楽器も含む音で始まる。
ここまででわかるように、衝撃的に始まる曲は、豊かな和音になっていない。コリオランは「ド」のみ、「エグモント」は「ファ」のみ。そして、交響曲第5番も、和音無しでソミファレと続くのだ。
「レオノーレ」序曲第1番 Op.138
結局歌劇の演奏には使われなかった序曲。
トロンボーンが無いことに注意したい。
第2、第3、第1と、冒頭がソの音で始まるところは同じだ。序奏の途中でフロレスタンのアリアが出てくるので、同じシリーズとわかる。
この曲は、発見当時は最初に作られたと思われたので第1番になってしまったが、今では後述の第2、3番の次、プラハでの上演(実現しなかったが)に向けての1807年(第3番の約半年後)頃と考えられている。
「レオノーレ」序曲第2番 Op.72a
歌劇「レオノーレ」の初演に使った序曲。
最初の弦楽器などがゆっくり降りていくところは、地下牢への階段を表現したものだろうか、とする解説がある。そうすると第2番では、階段の途中で一旦止まるのだろうか。しかし、この階段は、最愛の夫を探すために進む道なのだ。立ち止まるよりは急ぎたい気分だろう。
このページの最後の小節は、劇中で地下牢につながれたフロレスタンのアリア冒頭になる。だから、最初の下降が階段を降りるところ、とみなしてもいいわけだ。
「レオノーレ」序曲第3番 Op.72a
歌劇「レオノーレ」の第2稿で使った序曲。
途中で止まることなく降りていくことや、一部でファゴットを使わずに弦楽器に任せるなど、なるべく簡潔にまとめていく様子がわかる。こういうのが推敲なんだなあ、と感じる瞬間である。他の曲では、推敲中の音楽が実際に音で聴けることはほとんど無いので、この2曲を比べるのは推敲を知るという点で面白いことだ。
第2番の1年後、1806年に作曲された。
「フィデリオ」序曲 Op.72b
歌劇「レオノーレ」の第3稿、つまり歌劇「フィデリオ」で使った序曲。
ホルンが4本、トロンボーンは2本。
急緩の速度の対比が面白い。このような対比は、例えばピアノ・ソナタ「テンペスト」に見られる。序奏は8ページ続く。コーダの手前で序奏の一部(緩やかなところ)が再現されるという演出もある。
(2010/3/20)