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最初の1ページ 交響曲その1


 ここでは、可能な限り曲の第1ページを紹介してみたいと思う。第1ページとはいっても、曲によって楽器の数がさまざまなので、段数も異なるし、演奏時間もかなりばらつきがある。最初の1かたまり分(後述。5〜8小節くらい)にすれば統一できたのだろうが、譜例の編集がめんどうだったので、やめたのだ。

 当時は次々と生み出される新曲を演奏するのが演奏会の主な役割で、過去の名曲を何度も演奏するわけにはいかなかったらしい。
 差し出される曲のほとんどが常に新作という状況の聴衆にとって、演奏会というのはどういうものだったのだろう。品評会のような感じだろうか。どんな曲だろうと固唾を呑んで注目していたのか。あるいは、狎れちゃっていたのかも。そのぶん余計に耳が肥えていたことだろう(いやそうでもないかも)。そんな聴衆を前にして、作曲家にとって曲の冒頭が肝心なのは言うまでもないだろう。
 かなりの曲で冒頭に序奏があるが、古典派の作品をいろいろ聴いていると序奏は落語で言うところの枕のようなものが多い、つまり、あまり本題とは関係が無いように感じる。それでもベートーヴェンの作品では、年代が進むに従って序奏にさまざまな意味を持たせる工夫を見つけることができる。

 なお、ここでは1ページとはいうものの、管弦楽のスコアではご覧のようにページに余裕がある場合は上下に2つ以上に分かれ(*)、上から演奏し下に進んでいくようになっている場合がかなり多いので、同じ1ページでも時間的な量はまちまちになっている。

(*)大抵の場合、斜めの太く短い二重線で区切りを示してある(下例の左中央にある)。区切られた単位を何と呼ぶのか知らない。「かたまり」とでも呼べばいいのか?
sym9_1d.gif (31987 バイト)楽譜の例

注)文中、管弦楽の編成は以下を基準としてある。
 木管楽器:フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット各2
 金管楽器:ホルン、トランペット各2
 打楽器:ティンパニ2個
 弦楽器:第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス



sym_1_op21.jpg (60996 バイト)
交響曲第1番
 この時代の序奏は、曲の調がすぐにわかる音(和音)にするのが通例だったので、このようにハ長調で始まらないのが衝撃的、というのが解説でよくあるものだ。4小節めの最初の音で一瞬ト長調かと思うが、音楽に慣れると、すぐ次の音でそれが間違いだということに気付く。この程度の衝撃は、現代では聴いても何ともないように思うが、当時の人はこういったことに敏感だったのだろうか。

sym_2_op36.jpg (62906 バイト)
交響曲第2番
 第1番と違って、最初のあたりで素直にニ長調とわかる。ここだけ見れば、じつは一番古典派の交響曲っぽい序奏だ。これが例えばハイドンならば、この後3ページめあたりで速度が変ってソナタ形式の主部になるはずのものだ。しかし、このまま序奏が9ページあたりまで続くのだから、人によっては「いつ始まるんだよ!」とか思うに違いない。普通のように見せかけて、じつは交響曲第1番の3倍以上長い序奏だったというオチである。

sym_3_op55.jpg (67167 バイト)
交響曲第3番「英雄」
 この曲のみホルンが3本。
 序奏でその曲の調を示すのが通例なら、この冒頭はそのまま変ホ長調の和音を2回鳴らす。つまり、これで調と速度が決まる。直後にこの和音をバラした主題が鳴るので、主題の予兆にもなっている。つまり、たった2小節(6拍)で、やるべきことを全部やっているという序奏なのだ。ここまで短い序奏は、もう無いだろうと思ってしまうが、まだ短い序奏があった(後述)。
 6、7小節めで音が下がっていくが、ここで、この曲の凄いところを端的に表している。

sym_4_op60.jpg (63941 バイト)
交響曲第4番
 フルートが1本になった。
 静かで曖昧模糊とした雰囲気で満たそうとしている序奏は、ソナタ形式の第1主題を一番効果的に差し出す方法を考えた場合のひとつの回答だ。第1、2番の交響曲では、序奏の雰囲気がソナタ形式の主部の雰囲気と対比されうるものではなかったが、この曲では雰囲気の違いを意識しているのである。もやっとした感じから、何か明確なものが現れてくる様子は、どこか第9の冒頭に似ていなくもない。
 冒頭の雰囲気を醸し出す木管楽器では、オーボエが欠けている。音が鋭いのでオーボエはお休みになっているのだと思う。
 2、3小節めのソミファレは、この楽章の第2主題を予告するもので、交響曲第5番冒頭の動きそのものでもある。


(2010/3/20)



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