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ソラリス


ソラリスの陽のもとに(スタニスワフ・レム)というSF小説がある。

 英字でSolaris と書くとUNIXじゃないかと思ってしまうが、邦題ではカタカナです。

 あまりアニメを絶賛しないし、もともと注目作と評価したのはここ数年でたった2作品、という話を以前書いたが、漫画もしかりである。普段は雑誌をざっと斜め読みするくらいだが、次回がとにかくひたすら待ち遠しいなんて、最近感じたこともない。じつはここ数年で気に入った漫画(連載中除く)はいくつあったかというと、ただ1作である。いわば「金を出して読みたい作品なのか」という基準だ。「連載中除く」という意味は、多少なりとも次回を待つ期待を、評価基準から離すためである。

 さて、以前から気になっていた作品があったので、つい思い立って入手した。

 「明日泥棒」(原作:外薗昌也、作画:別天荒人、集英社、2007)

 ネタバレを恐れずに書く。作者がどこかでコメントを出したかもしれないが、これはSF小説「ソラリスの陽のもとに」の焼き直しである。(通称)「ソラリス」は確かに名作と呼ばれているが、スリスもサスペンスもスペクタクルもアクションも何も無く、おまけに筋書きが思索中心で登場人物は年配の人ばかりという萌え要素皆無の作品で、おまけに「ソラリス」が何なのか、ほとんどわかっていないまま結末に至る。2度映画化されたのも私としてはじつは不思議なくらいで、いくら映画にしてもいくらリメイクしてもいくら主人公の亡き妻を美人にしても実は退屈で、小説ならばともかく、主人公の思索の過程を十分に表現できないし、また長い論理的説明を延々と描写できない映画では、若い皆さんには全くもって地味で退屈な作品に仕上がっているはずである。
 それではいけないので、設定を現代の日本にして主人公たちを若くすれば、若年層にもウケが良くてしかも筋書きのバリエーションが増えることになるが、それがここで紹介する「明日泥棒」である。まるい得体の知れない何かが出てきたり、うにゅるうにゅるしたり、「それ」が何を考えているのかわからない場面も多々あるが、そこはそれ「ソラリスの海が何を考えているのかわからない」ことを思い起こせばまさに「明日泥棒」は「ソラリス」そのものであるとわかる。
 したがって「明日泥棒」を読んだだけで「ソラリス」を読めばがっかりすること請け合いだが、思春期に「ソラリス」を読んで何か足りないと不満に陥ったことがある人なら、「明日泥棒」はそれを十分に補ってくれるに違いない。
 褒めちぎっておきます。




(2013/6/17)



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