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  5. 交響曲「田園」のスケルツォ構造

交響曲「田園」のスケルツォ構造



 ここでは、別ページでも述べた「田園」のスケルツォ楽章の構造を、詳しく見てみよう。
 この楽章は、楽譜を見ると一見[A-B-A]という構造をしているように見える。しかし、じつは[A-B-A-B-A]となっているのだ。それでは構造を示してみよう。

  小節番号 小節数 内容 拍子など
@ 1〜58 58 主題1 3/4
A 59〜82 24 主題2 3/4
B 83〜164 82 村の楽団:オーボエ、クラリネット、ホルン 3/4
C 165〜204 40 村人の踊り 2/4。末尾に繰り返し記号
D 205〜240 36 主題1 3/4。@をほんの少し変えてある。
E 241〜264 24 主題2 3/4。Aをほんの少し変えてある。

sym6_3.jpg (32627 バイト)
 こうしてみるとわかるように、繰り返し記号はこの楽章でたったの1個(Cの末尾)である。これに対応する繰り返し部分の先頭は@の冒頭にあたる(全音楽譜出版社の楽譜による)。
 ここで、一般的なスケルツォ(あるいはメヌエット)というものの話をすると、「主部、トリオ、主部」という3部構造をしている。図にしてみると、
  ‖: A :‖‖: A'  :‖‖: B :‖‖: B' :‖‖: A :‖‖: A'  :‖
というように、はっきり繰り返し記号が書かれているものだ。元々舞曲というものが、習慣としてそのような作りになっている。「田園」の場合、よく聴いてみれば@もCも事実上繰り返されていることがわかる。楽譜上に繰り返し記号で書かれていないだけで、音楽としては繰り返し済みなのだ。
 ということで、楽譜上の繰り返しの指定はたった1個なのだから、絶対に実行しなければならない。すると、[A-B-A-B-A]の構造が出来上がるというわけだ。

 では、このスケルツォではトリオは、どこからどこまでだろう。
 全音楽譜出版社のスコアにある諸井誠氏の解説によると、表におけるCのみがトリオになっている。たしかにここだけ拍子が違い雰囲気ががらっと変わるので、トリオはここだと思ってもいいかもしれない。しかしそれでは、トリオの後で演奏される主部において、Bの部分の繰り返しが見当たらず、欠けてしまうことになるのだ。そこをどうしてくれる!

 つまりここで、BとCでトリオにしてしまえば一挙解決。つまり、前後のバランスがとれた状態になるのだ。トリオというのは3人で演奏する(伴奏は別なのだろう)という意味だそうだが、それを示しているのかどうだか、Bではオーボエ、クラリネット、ホルンの3人、つまりトリオが出てくるのだから、これは計算づくの構成なのだろう。
 どうやら村の楽団は、ソロの3人に伴奏のファゴットで計4人らしい。少々寂しいが、じつは村人が手拍子をたたいて参加しているので、大丈夫。そう、ソロが演奏している間の弦楽器が手拍子なのだ。そう言われればそんな感じがするかもしれない。そこまで想像力を働かせなくてもいいのではと思うが。
 しかし、想像力を働かせたついでにさらに考えてみると、この楽章は、
  A:村全体の雰囲気を表現した
  B:村の中央広場(?)でやっているダンシング・タイムを表現した
 ということになるのだ。
 このように考えていくと、いかにも「いなかの人々の楽しいつどい」という表題そのものであることがわかる。
 それに、うっかり忘れていたのだが、メヌエットで言うところのトリオというのは元々独奏者のための部分でもある。つまりAの部分は全員で演奏し、Bの部分では独奏者に花を持たせるのだ。メヌエットの後継形式であるスケルツォも、当然同じ要素を持ってもよいだろう。

 ちなみに、Eのあたりでは速度が、AllegroからPresto、つまり、より速くなっていて、いかにも雲行きが怪しいのであわててみました、という心憎い演出となっている。

(2008.2.21、2008.6.29)



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