朝の楽しみ


私は猫。
とある一人暮しの青年宅に厄介になっている。
彼の朝食はいつも決まっている。8枚入りのソルトクラッカー1袋と、私の手くらいの大きさの四角いクリームチーズ2個と、ミネラルウォーター。
クリームチーズを手で4つに割って、クラッカーに1つ載せる。1枚食べ終わるごとに、ミネラルウォーターを一口飲む。最後だけ三口。
毎朝毎朝、驚くほど単調なその作業を続けている。
最後の三口が終わった頃に私がそばに行くと、
「お前はおりこうだね。いつも食べ終わるまで待ってて」
と言って、指を舐めさせてくれる。
甘いチーズの香りがする朝食後の彼の指を、私は気に入っている。

ときどき、変化がある。
夜、彼と一緒に誰かがやって来た時だ。
こういう時は、朝になっても起きてこないことが多い。
私が大声で呼ぶと起きてくれるが、彼の朝食はたいてい別のメニューに変わってしまう。
運良くメニューが変わらなかった時でも、指を舐める役をやって来た誰かに取られてしまったりする。
彼は楽しそうだが、朝の楽しみがなくなって、私は非常に不満である。

だが、しばらくすると、その誰かは来なくなる。
そうなると、彼は決まって
「また一人になっちゃったよ」
と、悲しげに笑う。
私が抗議の声を上げると、
「ごめん。お前がいたね」
そう言って頭を撫でてくれる。
寂しそうにしている彼はちょっとかわいそうだが、またチーズの指を味わうことができて、私はとても満足である。


−終−