二人分


 今週は一泊の出張がある。いつもならちょっぴり面倒に思う出張だけど、今回は違う。なんと、羽鳥さんと一緒なのだ。
 本当は調査課の課長に同行してもらう予定だったんだけど、急に行けなくなって、他の人もたまたまみんな都合が悪く、まわりまわって羽鳥さんに白羽の矢が立ったというわけ。実は羽鳥さんが元調査課だったってことをその時初めて知った。
 しかし。羽鳥さんと二人で旅行ができる、なんて浮かれてたせいか、俺は後世に残る大失敗をやらかした。

 それは、ビジネスホテルの予約をしていた時に起こった。
「もしもし」
ホテルガイドを片手に電話をかけ、応対に出た女性に会社名と名前を告げた。
「今週の木曜なんですけど、シングル二つ空いてますか?」
本当は一緒の部屋の方がいいんだけど、さすがに会社の手前そんなことはできない。だが、俺の心の声が届いたのか、シングルは満室だという。申し訳なさそうに告げる声に、俺は、
「あ、そうですかー。じゃ、ダブルは」
その瞬間、俺の周りにいた全員が噴き出した。俺は一瞬きょとんとして、はたと気づいた。
「あ、ツイン! ツインです、ツイン!!」
どこの世界に出張でダブルベッドを予約するバカがいるんだ。ツインなら空いていますよ、と笑いを堪えながら告げる女性を相手になんとか予約をすませ、顔を真っ赤にして受話器を置いた。とたん、爆笑の渦。その後、俺の『ダブル事件』はしっかり調査課の酒の肴になった。

 ツインのベッドは、狭くて。
「ダブルの方がよかったけどな」
羽鳥さんはそう言いながら、笑っていた。


−終−