CALLIN'


 ベルが鳴った。
「はい、羽鳥です」
受話器越しの聞きなれた声。
「南? どうし……あ、大阪か」
出張先からだった。関東で生まれ育った彼は、箱根より西に行くのは初めてだと言っていた。
「…ん、別に。そっちは」
たわいない会話。ふと、笑みが浮かぶ。
「一日でホームシックか?」
ふてくされた否定が聞こえた。笑みがさらに広がる。
 どうしてこんなにわかりやすいんだろうな、この子は。
「おみやげ? 別に、いいぞ。何でも」
我ながらそっけないと思う。だが、こんな声でも、聞きたいと思ってくれているらしい。
「たこやきせんべい? なんだそりゃ……」
 胸の奥があたたかくなって。
 ほんのすこし、うずいた。
「……じゃ、うん。…うん、お前も」
 彼は気づいただろうか。
「元気で帰ってこい。待ってる」
 いつもいつも、しゃくにさわるくらい余裕の恋人が一瞬、真摯な眼差しをしたことに。


−終−