北京漂流記
by kana

[目次] [前話へ] [次話へ]
4日目:二胡レッスン〜自主トレ〜昆劇鑑賞
(2001/12/29)



研修3日目。
7時30分起床。
喉の痛みもなく快調。
私はもともとそんなに水分を取らない人間なので、北京の乾燥にも普通に耐えられるみたい。
その証拠に、みんなは2日目に買った500mlミネラルウォーターをとっくに空けて、3日目に買った1.5リットルもぐびぐび飲んでいるというのに、私はまだ最初の500mlも半分近く残しているんだもの。
のど飴もまったくなめてないし、不精だからうがいもしてないけど大丈夫。
という話をみんなにしていたら、チエンさんに「祖先は北京原人だったんじゃない?」と言われる(笑)
(結局最初の500mlは床にまき、3日目に買った1.5Lミネラルウォーターに至っては封を開けることなく最終日に処分しました。ほんと水なしで生きられるみたい、あたし。)

ホテルのブッフェで朝ご飯。
相変わらずお粥をメインに食べる。ザーサイがあるので助かる。
それ以外はコーヒーとオレンジジュースかヨーグルトドリンク、それにハムとスライスチーズ、気分が良ければ少量の炒め物をプラス。

予定では、今日の午前中はコンさんとカオさんと私の二胡のレッスン。
方角の関係でティエンパパの部屋よりうちらの部屋の方が午前中明るいので、うちらの部屋でレッスンしてもらうよう通訳さんに頼んでおく。
9時半過ぎ、二胡の老師がホテル到着。
他の人たち(ティエンファミリー、パイさん、チエンさん)もレッスンを見学したいというので、部屋の広さの関係上、やっぱりティエンパパの部屋に移動する。
(うちらの部屋はエキストラベッドが入ってて狭いのよ・・・)

レッスン開始。
まずはカオさんからマンツーマンのレッスン。曲は『良宵』。
滑音とかトリルとかの修飾を説明されているようだけれども、いかんせん、通訳が追いつかない・・・
芸術家というものは常にマイペースなんだろうね・・・^^;
私がトイレに行っているあいだにいつの間にかレッスンはコンさんにバトンタッチ。『良宵』中盤の部分。
通訳さんの説明を聞きながら、必死で楽譜にメモを取る。
いつの間にか説明は小指のビブラートについて。
小指でビブラートするときは、弦がきつく張っているとうまく揉弦できないので、まずは弦の張りを緩めて(つまり調音を低くして)、練習してみなさいとのこと。

続いてわけの分からんまま、私の番に。
老師の正面の椅子に座り、まず老師が私の北京製二胡の調弦をされる。
「うーん、これはとても調弦のしにくい二胡だなぁ・・・」
そーなんです、だからいつも困ってるんです。
「弦軸にもっと粉筆(チョーク)塗りなさいね。」
なんかいい微調方法ないですかね?
「じゃあ私の発明した微調金具を取り付けてみる?」
あ、はい、お願いします。
「今日は道具を持ってきてないから、また今度ね。」

続いて『良宵』を弾かされる。
「ここの小指の揉弦は、中指をつけたままやってごらんなさい。」
むりやり手の甲を傾け、小指と中指を同時接弦するかな坊。
「だめだめ、左手のフォームが崩れてる。」
でもね、フォームを崩さないようにしようとしたら、絶対小指届かないんですよぅ。
「なんで・・・? ほらやってごらんなさい。うーん、なんで小指がつかないんだ?」
なんでって言われても・・・
とりあえず、老師に手のひらを広げて指を見せてみる。
「お? こんなに小指の短い人をみたのは初めてだー!」
私だって北京まで来て、偉い老師に叫ばれるとは思いもしませんでしたわ。(^^;;
感動と興奮のまま、とりあえず私のレッスンは終了(笑)

最後に3人揃っての総括として、二胡を弾く以前に、音楽理論を一から勉強すること、音感を鍛えること、を言い渡される。
しかしそんなことやってたら、死ぬまでに二胡を触ってもよいレベルにまで達しないかも・・・
でもって老師に、明日は『敖包相会』という曲の練習をやろうと言われる。
第一把位の曲だから簡単だよって。
察するに、「君たちが『良宵』を弾くなんて10年早いわ」という意味であろう。あはは(^^;;

昼食はみんなでホテルの近くの中華料理店へ。
地元の人が利用する店なのか、日本人の団体が珍しいらしく、わざわざ厨房からコックさんが出てきて見学するありさま(笑)
店の奥から京都江南絲竹会のメンバーが出てくる。一足先に偶然ここで昼食を取っていたらしい。

注文は老師と通訳さんに任せる。
主食は水餃子2種。あとはスープや炒め物など。それに茉莉花茶。
こう毎日毎日飲んでたら、いいかげんジャスミンの香りにも慣れてきたよ(笑)
それから、一人一本ずつ、杏仁豆腐の露の飲み物(缶ジュース)を注文してみる。
感想は・・・甘いものが苦手な私が注文すること自体間違ってたわ(^^;;

食事しながら、老師の雑談を通訳さんが一生懸命日本語に訳される。
この二胡の老師は、日本で第一人者といわれる某在日中国人二胡奏者の恩師に当たる人で、日本に帰ったらぜひその奏者のコンサートに行って演奏を聴いてきてごらん、と勧められる。

あと老師は、なんで日本では大人が二胡を習うのか、理解できないらしい。
中国では芸事は子供の時に習っておくものであり、大人が趣味的に習い事をするという風習がまだない。(そもそもカルチャースクールってものがない。)
だから老師に説明しようにも、日本と中国のお国柄の違い、文化の違い、経済格差、生活スタイルの違いにまで踏み込まねばならず、こちらもうまく説明できないのだ。
もう少し中国が経済的に豊かになり、人々が余暇や趣味にお金をかけられるようになったら、中国にもカルチャースクールというようなものができてくるのだろうか。

午後はティエン父子とチエンさんのレッスン。
私たちはフリータイムになったのだけど、いきなり『敖包相会』という課題曲をもらってしまったので、コンさんカオさん私の3人は、部屋にこもって自主トレすることにする。
ベッドメイキングは終わっていたのだけど、なぜか今日からバスタオル・フェイスタオルに加え、人数分のハンドタオルがユニットバスにおかれていた。
ハンドタオルは長期滞在者特典なのか?(謎)

夕方近くになり、夕食の心配をし始める私たち。
夜はまた昆劇鑑賞だし、終演後ホテルに戻るころには近辺の食堂は閉まってしまうし、今食べても夜にはまたおなかが空くだろうし。
ということで、3人で昨日の市場に買い出しに行くことにする。
パンとか、饅頭みたいなのとか、それに一人一本ずつビール(笑)
合計で一人あたり4元ほど。

市場から戻ってきてもティエン父子とチエンさんのレッスンが長引いているようだったので、一足早く私たち3人だけで、タクシーで中国児童劇場に行くことにする。
今日の出し物も2日目の続きで、『UNESCO無形遺産昆劇日中合同公演−日中国交回復三十周年を記念して』の第三夜。
今夜は日中若手昆劇俳優達の共演で、出し物は『雷峰塔』。
同じ役でも幕によって俳優が変わったりするけど、基本的に主演の白素貞(人間の若い男に恋をする白蛇さん)役は前田尚香さんである。
(前田尚香さんについて調べたい方は、サーチエンジンで検索してみましょう。中国国内でも非常に評価の高い、日本人昆劇女優さんです。)

開演まで少し時間があったので、カオさんと連れだってトイレへ。ここの劇場のトイレは個室の鍵がみんな壊れてるから。
トイレから戻ってきたら、コンさんがロビーのソファで休憩していた。
3人でまた、中国のトイレ事情について熱く語る私たち・・・。
コンさんと並んでソファに腰を下ろす、身なりの立派な初老の中国人紳士がなんとなく印象に残る。

3人揃って座席へ。
席は舞台に向かって右手ブロックの前から5〜6列目。おとといは中央ブロック前から2列目だったんだけど。
少し遅れて劇場に到着した通訳さん、ティエン父子(ママはホテルで休息)、チエンさんは、左手ブロックの後方だったようだ。(パイさんは午後から別行動だったのでまた別の席。)

開幕前、3人で舞台下の楽器ブースをのぞきに行くと、京都江南絲竹会の皆さんが。
「一部の幕の伴奏だけのはずだったのに、今日ね、急に他の伴奏曲をいっぱい追加されちゃったのよー(^^)」 ←余裕の笑顔
マイクテストとか、忙しそう。

江南絲竹会の皆さんを激励していると、見覚えのある顔が近づいてきて・・・あー、おとといこの劇場でご挨拶した、某戯劇学院の先生だー! にぃはお(^^)
この先生、いつもにこにこと笑顔でとっても優しそう。だけど、
「○×△☆◎○×△☆◎○×△☆◎?!」
突然長文で話しかけられ、えっ、なになに、分かんない!!(>_<)
カタコトの中国語ができるカオさん曰く、「いつ日本に帰るのか?って訪ねてるみたい。」
質問の意味は分かっても中国語で答えられるわけのない私。
それでカオさんが中国語で「1月1日」と答えると、「中国語ができるじゃないかー!(^^)」と、さらに複雑な中国語で質問を浴びせてくる。
でももうすでにこちらの処理能力の範囲外(^^;;

開演が近づいてきたので席に座ると、私たちの右にロビーで見かけた身なりのいい初老の紳士が、前列には偶然戯劇学院の先生が。
戯劇学院の先生が中国語で私たちに話しかけられるんだけど、ちんぷんかんぷん。
そうしたら、突然右隣の初老紳士が「日本人ですか?」と日本語で通訳をしてくれ、びっくり。
なんでも、「昔、日本でタイシをしていました」とのことで、ひょっとして昔、駐日の中国大使さんだったのだろうか? 「日本の歌舞伎が大好きです。」って言ってたなぁ。
ああでも、ロビーでのあたしたちのトイレ談義もばっちり聞かれてたんだろね(恥)^^;

開幕。
おとといと同じように、「京都江南絲竹会」の舞台演奏から始まる。今日は2曲。
続いて司会の挨拶があり、『雷峰塔』が開演。
主演の前田さん、格が違う。声良し歌良し姿良し立ち居振る舞い良し。
特に声は、京劇や昆劇の女優さんは裏声できんきんする響きが多いのだけど、前田さんの声は高音でも非常に柔らかく優しく愛らしく優雅。すばらしい。
それから今回は、右隣の初老紳士がシーンごとに日本語で大まかな説明をしてくれたので、助かった。

飽きることなく集中して舞台を見ることが出来たので、おとといのようにダレることはなかった。幕間の休憩がなかったのでちょっと辛かったけど。
終演後、カーテンコールも終わり、初老の紳士(前田さんを大絶賛)にお礼を述べて、ふと気づくとティエン父子が舞台上に。
見渡せば、結構みんな気軽に舞台に乱入してるみたい(^^;;
ということで、私たちもティエンパパの手招きで、舞台に上がってみることにする。

舞台上は俳優さんとお客さんで溢れかえり、裏方さんは急いで撤収作業中。
主演の前田さんはいろんな人から挨拶だの写真だのをせがまれて、もう大人気。私たちもそれに便乗して一緒に写真を撮ってもらう(笑)
舞台を見渡したカオさんが「あれっ?」と。
なに?って聞いたら、NHKでやっていたドラマ「大地の子」で、主人公の中国人父親役だった老俳優がそこにいるよ、とのこと。
私は「大地の子」を見てなかったので気づかなかったのだけど、あわてて遠くから写真を撮っておく。(^^;;
(朱旭さんという、世界的にも非常に評価の高い俳優さんだそうです。このときあわてて写した写真は、フラッシュが届かなかったらしく、帰国後現像しても何も映っていませんでした。残念。)

劇場を出て通訳さんと別れ、タクシーでホテルに帰る。
順番にお風呂に入り、市場で買い込んだ食料を食べ、部屋に遊びに来たパイさんチエンさんと少し話す。
2人は毎朝6時に起きて近くの公園まで出向き、太極拳のグループに混じって見よう見まねで体を動かし、その後1時間の中国語レッスンを受けているとのこと。すごすぎ。
それで、明日は一緒に公園行ってみない?と誘われる。

その後相変わらず会計の話で煮詰まり、公園に出かけるべく目覚ましを6時にセットして、午前1時に就寝。

[目次] [前話へ] [次話へ]
[index]