北京音楽留学体験記
by てんてん

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(2000/11/4)
第十話:「上海へレッスンへ行くの巻 上」


 てんてんでございます。久しぶりですみません。秋は何かと忙しく、ばたばたと日が過ぎて行きます。
皆さんのメール、読ませて頂いています。ありがとうございます。いろんな点をプラスして行きたいので、ご意見をお寄せ下さい。

 さて、今年の年越しも北京の天安門広場になりそうな予定です。

 体験記はですね、北京に来て1ヶ月が過ぎたところです(ここまでがまだ、一ヶ月しか経っていないんですね)。
 さて、私は、この時点でも、そして今に至っても、中国語ができません。その上臆病者です。一人で、どこかに行くのもぶるぶる震えながらです。

 そんな私がレッスンのため、上海に行かねばならなくなりました。
日本で二胡を勉強していた時、江南地方の民間音楽研究会のグループに所属していました。
 そこの先生やお仲間と、なんと、上海でレッスンを受けることになっており、一人で、北京から上海へ行かねばならなかったわけです。留学していた人が聞くと、なんだと思われるかも知れませんが。

 当日、朝から緊張ぎみで、友人がタクシーにのせてくれて、北京の首都空港まで行き、なんと、飛行機にのって、上海まで行きました。ゴージャスでしょう。貧乏学生なら、列車よね。絶対。

 上海紅橋空港についたとたん、「骨が重い」ということに気がつきました。しっけがひどくて、骨がずんと重いのです。信じられますか?しわしわの手が見る見るうちに膨らんでいくではないですか。
 北京の乾燥と上海のしっけの威力には驚きました。内心、二胡はこの変化に耐えられるだろうかと心配しましたが、二胡はじっとりと重くなっていましたが、とりたてて何もダメージはありませんでした。
 私の二胡は蘇州製なので、北京でひくと音量が小さめに聞こえます。ですが、南に下ってくると、水を得た魚のようにぴちぴちの音になりました。

 さて、上海ではZH老師という方のレッスンを受けることになっていました。ZH老師は、北京のZ老師の知人でもあり、1960年代に上海で、阿炳の二泉映月を初めて演奏されたという方でもあり、孫文明の曲にも理解が深く、絲竹楽の中でも古曲が味わい深い老師でした。
 音楽大学では、二胡を勉強するとなると、現代的な独奏曲中心になってしまいます。アンサンブルの勉強では古曲もするようですが、じっくりそれに取り組むことはあんまり少ないようですね。ですので、貴重な経験です。

 さて、ZH老師に何人かの先輩方とレッスンを受け(レッスンについては次回に)、また、日本から来られた先生に連れられて、上海の民間音楽で、江南絲竹とよばれている集会を見学させてもらいました。

 その江南絲竹の集まりは曜日ごとに上海のいろんな地区で行われていて、一つのテーブルにいろんな楽器が置いてあります。
 笛子、揚琴、琵琶、二胡、小三弦、中胡、洞簫、笙など、そして、おじいさんがいっぱい。。。。。。いっぱい。。。。。。

 どこからともなくおじいさんが集い、絲竹の合奏を楽しむ人、聞きほれている人、歓談している人、昔の茶館の風景を思い浮かべることができました。しかし、女性がいません。男の世界なのでしょうか?
 1920年代以降に江南絲竹がさかんだった頃、一時期、女性ばかりのグループができたそうなんですけど、戦争やなんやかんやで無くなってしまったそうです。
 中国国内の主要な音楽大学には江南絲竹を勉強するグループはありますが、その演奏と地元のおじいさんたちの演奏は風格がまったく違います。おじさんたちの風格に、女性の私はなんだかなじめず、ずっと、悩んでいます(自分の耳が悪いのでしょうが)。

 ある時、隣で、中胡をひいていたおじいさんが演奏中に、ぴたりと止まりました。私が怪訝に思い、顔をのぞきこむと、おもむろにひきだしました。ちょっと、小休止していたようです。もしかしたら、ちょっとうつらうつらしてたのかも。
 独奏曲を学んで、がむしゃらに練習していた私は、またまた、大発見でした。演奏する時は真剣勝負で、人に感動を与えなくてはならないと、教えられていた私は、音楽が生活と密接に結びつき、音楽を楽しむということをおじいさん達に教えられたような気がしました。
 ちなみに北京では京胡おじさんが、センスを持って踊るおばさんが出現します。

 次回はいよいよ上海のZH老師のレッスンです。



  • 江南絲竹について、更に知りたい場合は、中国の民族器楽概論の本をお読み下さい。

     参考本:民族器楽 袁静芳編著 人民音楽出版社
         民族器楽概論 李民雄著 上海音楽出版社
         (画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示されます。)




    そして、江南絲竹の楽譜を見てみたい方は以下を参考にして下さい。

     参考本:中国民族民間器楽曲集成 上海巻(上) 人民音楽出版社
    (これには楽譜の他に上海での江南絲竹の歴史も記述されています。)
         中国民族民間器楽曲集成 浙江巻(上) 人民音楽出版社
    (これには杭州など浙江省一帯の江南絲竹楽の楽譜がのっています。上海とはまたちょっと違った風格です。これについては、後日談で報告します。)
         蘇州民間器楽曲集成 蘇州市文化局編
    (これには蘇州の江南絲竹楽の楽譜などがのっています。実際にどういう地域差があるかは、わかりません。)
    (画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示されます。)


    そして、実際に見てみたい方は、上海に行かれたら、上海の豫園の湖心亭に行ってみて下さい。月曜日の午後には江南の絲竹合奏が聞けます。他の日は別の所のようなので、間違いないようにね。

    上海になかなか行けない人は、CDを聞いてみて下さい。

     参考CD:キングレコード 江南・薫風曲〜絲竹の調べ〜 
             上海江南絲竹協会選抜メンバーによる演奏。
          キングレコード 江南・歓楽歌〜絲竹の響き〜


    などが、国内では手に入りやすいです。
    中国では他にもいろいろありますが、今回は省略させて頂きます。皆さんも探してみて下さい。

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