(2000/11/19)
第十一話:「上海へレッスンへ行くの巻 下」
てんてんでございます。前回は上海の江南絲竹楽のお話でした。
今回は上海のZH老師のレッスンのお話しです。
その前に。
中国はほんとに広いですね。話している言葉も全然違いますし、当然、文化的な面も、気候も風土も違います。
日本人が中国音楽を学ぶっていうのは、この膨大な蔵のどこから入るかって、ことだと思うのです。私は、自分の特性、西洋音楽に馴染みがあったことなどからして、二胡でも現代的な奏法でひくことのできる、西洋音楽の影響を受けている時代の曲から、入ることにしました。
しかし、その一方で、二胡の歴史を知ることと、中国の民間器楽曲、江南絲竹のような地域の特色の強いものも勉強することはとても大切だと思っています(二胡のお里ですからね)。
北京のZ老師も、同じ考えでしたので、心よく見送って下さりました。その後は、むしろ積極的にいろんな地域の先生を紹介して下さり、本来のものを見て、聞くこと、そして、二胡の独奏曲に取り入れることをすすめてくれていました。その上、アドバイスとしては、戯曲の勉強も始めることというのもありました。戯曲は中国の文化の集大成と言われているらしいので。
さて、上海のZH老師の初めてのレッスンは、お世話をして下さっている先生のおうちで先輩方と並んで、受けることになりました。どきどき。
先輩方はすでに何度か上海でレッスンを受けてられるので、なんだか慣れてられるようです。
習う予定の曲は<中花六板><行街>などでした。
江南絲竹には八大名曲(中花六板・歓楽歌・雲慶・行街・四合如意・三六・慢三六・慢六板)というのがあるらしく、それプラス<老六板>や<快六板><霓裳曲><鷓鴣飛>などがあるそうです。
その中の<中花六板>は“五代同堂”と呼ばれている親戚筋にあたる曲があります。<老六板>を元に、時代が新しくなると、旋律や速度が変わり、手を加えられ、<快六板><中六板><中花六板><慢六板>と変化していったようです。
でも最初聞いていても何がなんだかわからなかったんですけどね。
ZH老師は手書きの譜面<中花六板>のD調のもの、移弦して、G調の時の指でひくもの、F調の時の指でひくものの三枚の譜面を下さいました。
それを同時にひくことで、旋律は同じようなのですが、微妙な揺れが生じで、へたをすると気持ち悪い、上手な人だと楽しい遊びとなるようなのです。
まずは、やはり、独奏曲ばかりやっていた私は音律がまた違うことに四苦八苦しました。最近やっと、指の配置を変えるか、あるいは、弦を押さえる時に意図的に音の立ち上がりを変えて、その音を出すように努力しています。
一人だけ、なんか違う状態でした。
それから、ZH老師のひく弓使いを見た時は、びっくりしました。
弓はフラットに持つようにうるさい程言われていたのに、ZH老師は弓を斜めに完全に弓を持った上でコントロールし、その利点をいかして、瞬間的に接弦時の圧力を加えて、非常に力強いアクセントをつけていました。
私一人北京の弓を使っていました。慣れないことをするので、力が入っていたのと、北京の弓ではその動きを持ちこたえることはできなかったのか、すぐに弓はつぶれてしましました。
弓の違いについては後で述べます。
また、北京で通常使っていた用語がこちらでは別の名称になっているということもわかり、奏法は同じなのに、名前が違うのですね。
ちなみに北京でもビブラートの種類の名前は2つの派によっては、別々の呼び名があります。やっかいですね。
また、後でわかったことなのですが、同じ江南地方でも、所変われば、奏法がぐっと変わるようなのです。
なんなのこれは、弓の持ち方や使い方、運指の配置も音の立ち上げ方も違うじゃあないかあ。とパニック状態でしたが、なんとか見ようみまねでレッスンについていってた次第です。
ショックの方が大きくって、実はあんまり当時のことは思い出せないんですね。
てなわけで、ショックなまま、北京に戻ることになるのです。そして、ある奏法を上海で身につけたがために今度は北京でやっかいなことになるのです。
ですが、外国人として、二胡をよりよく学ぶためにはとってもいい勉強になったと思っています。一つの所で学べば、それがすべてです。ですが、中国のいろんな都市に、それぞれの歴史があって、独自の二胡の発展があることを知ると、日本で二胡がどうなっていくのかを少し離れて見ることができるような気がしています。
この場をかりて、江南絲竹の先生方、先輩方にはお礼を申し上げたいと思っています。
そして、上海でのZH老師のレッスンは次の年も続き、孫文明や阿炳の曲も習うことができたのです。それは、更にずっと後、再度上海にレッスンへ行くの巻で、報告します。
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江南絲竹を演奏する際の二胡の奏法についてのエッセイ(写真右)
この本の中にZH老師の書いたエッセイが載っています。実際の音がないのでわかりにくいとは思いますが、参考までに。
(画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示されます。)
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弓の違い(写真下)
北京と上海では、弓の材質、弓の構造など多々違います。弓先と根本の処理の仕方も違いますし、たぶん毛の数も違うと思います。北京の方がやや多め、板胡の影響を受けた弓だと思っています。
どっちが、北京で、どっちが上海の弓でしょうか?
(画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示されます。)
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