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  5. ベートーヴェンの究極のフルコース

究極のフルコースw!


 結局、前回(?)は、どう脱却するのかを明確にできなかったので、ここで続編として交響曲第5番をどう客観的に見るかを考えてみよう。
 とにかくいろいろな曲を聴けばよいのだ。聴けばわかる。交響曲第5番は、あまたある名曲のひとつにすぎないことを。ってことで、例の交響曲第5番の周辺地域、いわゆる「傑作の森」を見てみる。「傑作」が「森」のようになっているって、そんなに一箇所に集まっているのか?と思う。それにしても「傑作」とは最近普通に使わない言葉だなぁ。ここ10年ほどで、特に料理マンガ他で「究極」「至高」「極上」とか「逸品」という言葉に慣れてしまったこともあり、一般に使われる表現が変わってしまった。
 ということで、「究極のフルコース」に該当する期間の作品を全て、小さい曲まで含めて、完成年を基準に並べてみた。
 見よ、この作品群! この偉容! まさに壮観と言うしかない。「史上最強の鉄人」(*1)と誉れ高いのも頷ける。

1805年 ピアノソナタ第23番 へ短調 Op.57「熱情」
歌劇「レオノーレ」(第1稿) Op.72
「レオノーレ」序曲 第2番 ハ長調 Op.72
1806年 ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58
弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 Op.59-1「ラズモフスキー第1番」
弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 Op.59-2「ラズモフスキー第2番」
弦楽四重奏曲第9番 ハ長調 Op.59-3「ラズモフスキー第3番」
交響曲第4番 変ロ長調 Op.60
バイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
自作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO 80
歌劇「レオノーレ」(第2稿) Op.72
「レオノーレ」序曲 第3番 ハ長調 Op.72
6つのエコセーズ 変ホ長調 WoO 86
歌曲「恋人が別れようとしたとき」 WoO 132
1807年 ピアノ協奏曲 ニ長調 Op.61(ピアノ用編曲)
「コリオラン」序曲 ハ短調 Op.62
ミサ ハ長調 Op.86
アリエッタ「この暗い墓のうちに」 WoO 133
1808年 交響曲第5番 ハ短調 Op.67
交響曲第6番 ヘ長調「田園」Op.68

合唱幻想曲 Op.80
チェロ・ソナタ第3番 イ長調 Op.69
ピアノ三重奏曲 ニ長調 Op.70-1 「幽霊」
ピアノ三重奏曲 変ホ長調 Op.70-2

 歌の関係はともかくとして、ただ1曲で歴史に名を残すことができる作品が10曲もある(太字:*2)。いかに脂の乗り切った時期であったとはいえ、56年ほどの生涯、およそ40年の作曲活動の中でのたった4年間でコレである。後世の人が恐れるのも無理からぬ話。まさに、和、中華、フレンチの鉄人が合体(*3)したようなものである。これに匹敵するのは、若くして死んだモーツァルト(*4)くらいのものであろう。
 ちなみに、この並びの直前には「英雄」、「ワルトシュタイン」があるし、直後には「皇帝」が控えているのだ。恐ろしいほどの陣容である。
 これらを知って聴けば、交響曲第5番ただ1曲でベートーヴェンを代表してしまうこと自体がおこがましいとわかるに違いない。

念のため書き添えると、
(1)表では、その年の中での完成順というわけではない。なお、Op.番号はだいたい出版順に同じである。歌劇がOp.72であるのは、最終稿の出版時(1814年)の番号になるからだ。
(2)どの曲も短期間で着手から完成に至ったというわけではない。1年がかりであったり、交響曲第5番のように交響曲第4番完成前から構想を練っていた曲もある、ということを覚えておこう。

 曲を少し説明すると、「幽霊」は暗い音楽のように思えるが、第2楽章が幻惑的雰囲気であるために付いたあだ名で、曲そのものは暗くもなんともない。「コリオラン」は、悲劇をもとにして書かれているが、暗いというより厳しさを感じる。自作主題による32の変奏曲は短調になっているが変奏曲なので、次々と曲の雰囲気が変わっていく。合唱幻想曲も変奏曲に近いが最後は明るく合唱で締めくくられる。(歌を除いて)他の器楽曲は基本的に明るいものばかりになっている。さりげなく「6つのエコセーズ」という楽しい小品が入っているのも面白い。歌劇やミサなど、歌関係もけっこうな比重を占めている。

*1 誰も言ってない。
*2 ラズモフスキーは3曲で1セットと数えた。歌劇「フィデリオ」の最終稿はまだ完成していないので数えていない。
*3 道場六三郎、陳健一、坂井宏行…だから違うと言うのに。
*4 各自で調べてください。


(2009.11.23、11.25改)



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