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  5. 交響曲第3番第1楽章コーダ

単発講座「ベートーヴェンの交響曲第3番の第1楽章コーダ」


大権現様の、Q&Aコーナー2

質問内容:
 (承前:第9の第1楽章第2主題)なるほど!!!そういう遊びが隠されているんですか(※)!!!やっぱ、大権現様は、奥が深すぎですね!!!
 私は、ベートーヴェンが古典派からロマン派への橋渡しをした作曲家であることを忘れておりました。ただ、形式や音にこだわるだけでは、確かに、ベートーヴェンの心に近づくことは出来ませんよね。大切なことは、音楽においても、“行間の空白に込められた作者のハート”なのですね!!!
 ところで、コテコテの質問で恐縮ですが、英雄交響曲の1楽章コーダの、例のトランペット、大権現様的には、最後まで、ぶっ放して欲しいですか??? その部分は、どう演奏するのが、良いのでしょうか。ちなみに、私がトランペッターだったら、エクスタシーを感じたいような気がしますが。
 (よこちん、2001.8.6)
 (段落等は、なかさんが調整)

(※)「そういう遊び(=ジョーク)」は、新説である。どの文献にも載っていないので、注意のこと。

(大権現様のお答え)

 はて、「ロマン派」なんか、知らんぞ。私は、やりたいことをやっただけなんだがな。

 さて、おさらいであるが、「英雄」のコーダは、下のようになっている。ここで重要なことは、1度めの主題演奏にあったホルンとトランペットが、2度めでは消えて、かわりにファゴットが主題演奏に加わっていることである。
bee_3_1_c1.gif (11880 バイト)
bee_3_1_c2.gif (12721 バイト)
 ホルン、トランペットともにバルブが無い時代ゆえ、2度めでもし旋律を演奏すると、たとえばオクターブ下(ホルン2、トランペット2に相当)では「レ、ファ」が演奏できない。正しくは、自然倍音で出ない。また、高音のほうでも「レ」は出るが「ファ」は出ないし、さらに変ホ調トランペットにとって、「ソ」は危険である。したがって1度めのトランペットでは「ソ」がオクターブ下に落ち(赤カッコ)、しかも2度めではホルンもトランペットも主題から抜けたのだ。
 ファゴット2本を参加させフルート2番をオクターブ下げた(赤矢印)とて、決してトランペットとホルンが抜けたことを十分に埋め合わせることはできない。ヘタクソな楽隊にあわせた、慎重さゆえの、苦肉の策なのである。本当ならホルンもトランペットも主題を演奏させたいのである。
 したがって、私としてはここでは楽譜を改変し主題を演奏させたい。

 実際には、ここで演奏者は当時の音を再現したいのか、作曲者の意図を再現したいのか、あるいは違和感無くすんなり盛り上がればよいのか、といったことが問題になる。私としては、楽譜の修正無しで当時の音を再現しようとしてもかまわない。しかし、本当に当時の音を再現したいのなら、楽器の数も楽器の種類も演奏解釈も当時のままに演奏してほしいものだ。
 現代の巨大オーケストラが現代の楽器を使い指揮者が強くコントロールして、「さあ、これは楽譜そのままの音を再現したのですよ」などとは、口が裂けても言ってもらいたくないものだ。ええ、わかっとるか、指揮者諸君。バランス感覚が大切なのである。

 さてここで、間抜けな話を書いておかねばなるまい。
 それはナポレオン・ポナパルトのことだ。ちまたでは、ナポレオンに捧げる予定だった曲ゆえ、ナポレオンを文学的に、つまりは感情的にこの曲と結びつけようとする傾向がある。本来言葉では表現しがたい音楽を文学的に表現したがるのは19世紀の特質なのだそうだが、これを単純に私の曲にあてはめていいというものではない。たしかに「ナポレオンの思い出」は関係しているが、このトランペットが後半消える場面を「ここはナポレオン、ここはトランペットがナポレオン、ナポレオン、消える、トランペットは消える」などと、ぶつぶつ言って書いたわけではない。音符の一個一個は、私の頭の中で音楽的に選択されたものなのである。
 私が、それ以後の作品で「音域の制限への対応」「よく鳴らない音の対応」といったものを随所で実施しているが、それもあわせて考えてもらいたいものだ。

(2005.10.18改訂)



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