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買ってはいけない 改訂2016/11/11


 まあ、例の本のパクリである。私は買わなかったが。

では、ベートーヴェンで買ってはいけない録音とは……いや、その前に、書いておきたいことがある。

「私は、当然のこと、全ての録音を聴いているわけではない」

だから、あれがいい、これがいい、と強く勧める気はない。知らない名演奏だって、いっぱいあるに違いないからなのだ。しかし、それなりに評価の考え方というものはある。

1.ジンマンのベートーヴェン交響曲を、買ってはいけない。

 声を大にして言う。くたばれ、ジンマン
 食わせ物のジンマンである。「ベーレンライター原典版による世界初録音」が聴いてあきれる、改変しまくりのベートーヴェン。楽譜に無い表現を平気で付け足す神経は、ベートーヴェンに最も適していない証拠である。ベートーヴェンは余計な装飾を嫌う人物であることが、わかっていない。タワーレコードの担当者もカモにされた。誤って、誉めてしまったのである。もっとマシな演奏を誉めてほしい。だいたいが、ジンマン自身、ベーレンラーター原典版って何?という人物だった。なんとまあ最後の録音である「第9」を練習するまで、ベーレンライター原典版を研究しなかったというのだから、レコード会社の宣伝文句に踊らされた人たちは、どうすりゃいいんだよまったく。
 ともかく、やはりマニアたるもの、ここは落ち着いて、有名どころあるいは実力のある指揮者によるベーレンライター版の演奏を、待つべきであろう。私は、ジンマンを全て買ったが、第2、3、4、6、7、9番など、噴飯モノであった。
 ついでに書くと、ジンマンよ、オマエはメジャーなオケを振ってはならぬ。

2.決定版(決定盤)を、買ってはいけない。

 キングレコードで毎度毎度出てきた名文句。いまだに時々ある。これは、特定個人の発想/企画かもしれない。とにかく、「決定版」は買わないほうがいい。自分の耳と経験と勘を信じ、自分で選ぶべし。まあ、友人に頼ってもよい。初心者に限らず、「決定版」は、覚悟を決めて買うべし。
 私は、行進曲集の「決定盤」に、珍しいベートーヴェンの行進曲(しかも軍楽合奏版)があったので買った。それくらいのマニアの観点でしか買えない代物である。

「決定愛蔵版!正統派ドイツ行進曲」より(画像が大きいが勘弁)
bee_march.gif (11054 バイト)

3.クラシック音楽大全集(類似商品、○○選集)を、買ってはいけない。

 この場合、様々な作曲家を網羅したもののことである。こういったセット商品を買うのは、どのようなレベルの人であろうか。

 マニアな人。よろしい、あなたは買わなくていい。すでに、かなりのコレクションをお持ちであろうからだ。

 マニアではないが、よく知っている人。よろしい、あなたも買わなくていい。大全集は、同一レーベルの録音ばかりであり、質にムラがある。また、無用な小品も多い。そういった小品がまた、演奏の質が悪いのだ。定評のある録音を、十分に選んで買うべし。

 初心者の人。よろしい、あなたは買わなくていい。大全集の中の半分は、1度聴いただけで、もう終わりだろう。だいいち、量が多いと、1枚の録音を聴きこむという愛着が沸く聴き方ができなくなるので、無駄である。初心者は初心者なりの、体験しておくべきことがある。つまり、悩んで財布と相談して買って、よく聴きこみ、すばらしいものを引き当てたときの感動を体験することである。

 なお、ベートーヴェン大全集のように特定個人の全集は、買って損は無いものが多い。と思ったが、2007年に、寄せ集めの全集を安価で売る企画が乱発した。買っていいものかどうか、判断に苦しむ。

4.ショパン専門ピアニストのベートーヴェンを、買ってはいけない。

 ショパンで名を売ったピアニストは、必死の思いでベートーヴェンに挑戦するか、全く無視するかのどちらかに分かれるだろう。たしかに、トライしてみなくては、と誰でも1度は思うだろう。しかし、成功するかどうかは眉唾モノである。現存の有名ピアニストで、ショパンとベートーヴェンの両刀使いにまあまあ成功しているのは、アシュケナージなど非常に少数ではないだろうか。
 そもそも、時間的にも地理的にも広大な西洋クラシック音楽なのである。ピアニストに限らず、どの時代のどの国の曲をもうまく演奏できるはずは無いではないか。そもそも、偏っていて当然ではないだろうか。だから、私は、モーツァルト、ベートーヴェンから、ショパン、リスト、ラフマニノフ、シューマン、その他もろもろを、全曲制覇するような人の演奏は、そもそも、買う気が起こらない。買ってみようかと思うのは、たとえば、ピアニストではソナタの全曲制覇ができていたり、オール・ベートーヴェンで一夜のプログラムを組んでみるような「つわもの」である。全曲制覇を現在進行中であったり、制覇したばかりのピアニストについては、お財布と相談してという理由もあるが、食指は伸ばさない。まだまだ、歴史的評価が定まっていないと思うからだ。
 そういうことで、アシュケナージを買ったのは、一部のソナタのみであった。取り立ててベートーヴェンで成功しているとは思えなかった。

 「月光」「熱情」など、名前付きの数曲しか演奏したことが無いピアニストは、ベートーヴェンが苦手(あるいは初心者)と思えばよい。名前無しのピアノソナタを数曲演奏するようになれば、注目してよいだろう。
 かつて、ラドゥ・ルプーというピアニストがベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を発売したが、そのキャッチコピーが「百年に1人のリリシスト」。マジで、「私はベートーヴェンが弾けません」と言っているようなものである。

5.特定地域出身者によるベートーヴェンを、買ってはいけない。

 たとえば地中海沿岸の…というとベートーヴェンにはイメージとして全くそぐわないように思われるが、実際、その通りであると思う。逆にロシア方面の、気候に厳しい地域を出身とする演奏家は、ベートーヴェン演奏には適材なのではないか。また、北欧のように寒すぎるところは、逆に無理のようだ。良しとするのは、イギリス、フランス(北半分)、ドイツ、オーストリア、ロシア、チェコ、まあ、そんなあたりの地域である。
 古くはストコフスキー、オーマンディから、メータ、デュトワに至るまで、彼らがベートーヴェンを演奏すると言っても、私は食指が伸びない。ベートーヴェンを演奏するということが想像できないのである。しかし、私はオーマンディの第9を買って聴いた。感想は…2度と聴けない代物であった。CBSの録音であったことも、かなりの要因を占めているであろうが、似つかわしくないのは事実である。

6.グールドのベートーヴェン・ピアノ協奏曲を、買ってはいけない。

 私は、「皇帝」を買った。冒頭のカデンツァ部分が「楽譜通り」に鳴っている唯一の演奏なのだそうだ。これは結局、ベートーヴェンの精神からはほど遠い代物。グールドが何を考えているのかわからないが、ベートーヴェンを知らないことは確かであろう。曲の印象は、聴かなくてはわからない。楽譜を読みながら聴くと、笑ってしまうことは確かである。
 他のページにも書いたが、ベートーヴェンの音楽、特に快速楽章においては「運動エネルギー」が重要であり、曲の持つ勢いをどのように生かしていくか、が重要なポイントなのである。その観点から、グールドは全くの不合格であるが、バッハでの名演奏(私は知らない)というハローに包まれて、誰も何も言わない。というか、ベートーヴェンの協奏曲録音は無視されているのである。
 (交響曲第5番、「田園」のピアノ版の録音については、別の機会に書きたい)
 およそベートーヴェンを演奏しようとする人は、他の曲種においても、ベートーヴェンを体験せねばならない。


(2007.7.2)



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