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  5. ピアノソナタ第14番 月光

単発講座「ピアノソナタ第14番 月光」


名前にだまされるな!

 逸話が有名なこの曲であるが、一番面白いのは、その構成だ。一般的説明として、ゆったりとした楽章から始まると書かれるが、大切な点はこの曲の重心が最終楽章にあるということである。
 古典派の交響曲などに限らず、組曲では重心が冒頭楽章になるものが多い。一番気合が入っていて、力作になっているのが、最初の楽章なのだ。それは展開のしがいがある形式の楽章が先頭にあるからという意味でもあるが、いろいろと曲を思い出していただきたい。古典一般の交響曲は、ソナタ形式の第1楽章の後には、3部形式、メヌエット、ロンドなどの軽い音楽になるはずの形式ばかりである。メヌエットもロンドも舞曲の一種だ。バロックの組曲など最たるもので、たとえばヘンデルの「王宮の花火の音楽」では、序曲が勇壮華麗で、それ以降はおとなしいというか、可愛い舞曲ばかりだ。
 ちなみに最終楽章に重心を置く名曲に交響曲第5番がある。理由は、そちらのページ(2002.11.29追加)を参照されたい。
 で、このソナタ「月光」は、見事に冒頭楽章がAdagioだ。その結果、盛り上がるのは最終楽章ということで、重心は第3楽章にある。心して聴こう。

ピアノソナタ第14番 月光
 第1楽章

 ベートーヴェンなら、どこにでもありそうな楽章かもしれないが、なぜか冒頭に置かれたことで注目されたという、B面がA面に抜擢されたような楽章である。しかし、ややあいまいながらソナタ形式の体裁をとっているので、侮ってはいけない。
 しっとりとしながらも意外と低音が充実した作りになっているので、「湖面に映る月の光のようだ」という感覚は、いかがなものかと思ったりするが、西洋と東洋の月に対する考えかたがきっと違うので、題名をそのまま受け取ってはならない。日本では、かぐや姫がいて、うさぎがいる月。月は、メルヘンの世界なのだ。あちらでは、狼が遠吠えする象徴なのかもしれない(偏見)。
 時々気になるのは、左手で3連符を鳴らしながら、右手で付点音符を正確な長さで演奏できるのか、という、どうでもいいようなことである。
 ちなみに、途中に両手が休みになる瞬間が無い。

 第2楽章
 どうというものでない舞曲が現れたように感じられるが、第1楽章の、ゆったりしながらも重めの気分にさせる雰囲気を一掃するには、なかなかどうして、気の利いた肩の凝らない音楽である。

 第3楽章
 とにかく前進する音楽。あちこちでフェルマータがあり止まってしまうが、再開すると必ず気分は全速走行。ここでは、自筆草稿を見ていただこう。けっこう書きなぐりなので、さっぱりわからないところが多い。
 提示部、再現部で、微妙に違うところに注目したい。
pfs14-3.jpg (60199 バイト)
 どのあたりかわかるだろうか。こちらの草稿は提示部で、右上の欄外に1小節を追加していることがわかる。聴き進めて、再現部でどのようにやっているか確かめてほしい。このあたりのように、たとえば小節数を増やしたり減らしたりして、安定へ移ろうとする不安定の部分の取り扱いをうまくこなすところが、ベートーヴェンはすごいのである。なのに、これを勝手に「無用な小節だ」と減らして世に出す出版社がいたりするそうだから怖い(昔の話)。音楽出版社とて、音楽を知っているわけではないのだ。






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