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単発講座「ロンド・スケルツォ」


おいしいところはもう1度食べたいものだ

 恐らく過去にも例はあったはずであるが、ベートーヴェンがおおっぴらに始めた形式に「スケルツォ」がある。で、メヌエットも含めて、このような3部形式(A-B-A)に欠点があるとするとただ1つ。Bが面白かった場合にもう1度聴けない、ということなのだ。いわゆるロンド形式は「A-B-A-C-A-B-A」であるが、じつはこれもCは1度しか聴けない。この2つの形式の欠点を解消するのが「A-B-A-B-A」というロンド・スケルツォ形式なのだ。
 「英雄」で巨大な交響曲を作ってしまったベートーヴェンであるが、ここで難題(?)が1つ発生した。第3楽章で、非常に面白いトリオを作曲してしまったのだ。いわゆるホルンの3重奏である。第1、第2交響曲では、軽めのトリオを書いていたからよかったものの、ホルンの3重奏は、3個のホルンを初めて使った「英雄」の特徴でもある部分であった。「これからも面白いトリオを作曲するに違いない。でも1度きりしか演奏されない部分があるのは、もったいない」と彼が思ったかどうかは定かではないが、「英雄」交響曲において第3楽章を「A-B-A-B-Aの形式にしようと思ったらしい」という研究成果がある。

交響曲第4番第3楽章
 ということで、この曲で「A-B-A-B-A」のロンド・スケルツォ形式が現れたのだ。ピアノソナタ「田園」の第1楽章にも似たこのトリオは、かくして2度現れるようになったのだ。

交響曲第5番第3楽章
 この曲は通常は「A-B-A'」(雰囲気がガラリと変わるので A' と表現した)で終わってしまうのであるが、ベートーヴェンの出版社への手紙を始まりとするギュルケの研究で、「A-B-A-B-A'」が正しいのではないかとされている(東ドイツ(当時)のギュルケ版が刊行された)。最近はこのような演奏がされる機会もたまにある。本来この最後のAは、第4楽章への橋渡しのために、独特の変化が施されているため「A-B-A-B-A'」にすることで、第3楽章の面白さ、最初のAとBの面白さはひときわはっきりと感じ取れるに違いない。ただ第4楽章があの橋渡しを伴って続けて演奏されるので、「A-B-A-B-A'」では長すぎるという弱点が現れる。なお、ボンのベートーヴェン・アルヒーフの児島新(故人)は、このギュルケの研究は根拠が危うい、としている。また、児島新氏によるスケルツォ反復問題に関する論文は、邦訳が見当たらない。発表前に故人となられたからかもしれない。おそらく、反復(A-B-A-B-A')にしてみたが、取りやめた、という説なのだろうと想像している。正直、私は繰り返してほしい派である。ただし、そうなると第4楽章の提示部を繰り返す必要がある。

交響曲第6番「田園」第3楽章、第4楽章
 この曲の第3楽章にある「繰り返し記号」の位置をよく見る。じつは1箇所しかないのである。通常、メヌエットのような3部形式は、[A]-[B]-A(ここで[ ]は繰り返し)のように、あちこちに繰り返し記号がある。これは、本来舞曲であったメヌエットの名残りであろう(シュトラウスのワルツでさえ繰り返し記号が多い)。その舞曲の流れをくむスケルツォも繰り返し記号が多いのであるが、じつは「田園」の第3楽章に限っていえば、繰り返し記号が1箇所しかないのは不思議ではなかろうか。この繰り返しをよく眺めてみると、全体として「[A-B]-A」を作っている。これは「絶対に繰り返せ」と言っているようなものである(別ページ参照)。
 ということで、この繰り返しを正直に行うと、ロンド・スケルツォになるのである。最後のAは「嵐」への橋渡しで変化している。
 しかもなんと、第4楽章も同じ形式だ。あまり言われることはないが、まず冒頭にある第1バイオリンの「ンたたたたたたた」(ンは休符)という動きをA、
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続いて、印象的な「ダンッダダーンた、たたたたたたたた」をBとすると、
sym6_4_2.gif (5977 バイト)
楽章全体が「A-B-A-B-A」になっているわけである。最後のAは第5楽章への橋渡しになっている。したがってこの楽章の構造は、「嵐が来るぞ」−「嵐が来た!」−「少し弱くなったが油断はできない、ほらまた来た」−「さらに激しくなってきた!」−「やっと遠ざかっていった」のロンド・スケルツォなのだ。

交響曲第7番第3楽章
 この曲も単純に「A-B-A-B-A」であるが、最後のAの後に、「ひっかけ」でBが現れることもミソである。この曲では2回めのAで強弱の付け方が変化しているところが面白い。3度も同じAが現れるのは芸が無いと思ったのだろう。

弦楽4重奏曲第10番「ハープ」第3楽章
 この曲も単純に「A-B-A-B-A」である。交響曲第7番同様に、2回めのAで強弱に変化を与えているところが面白い。

余談:交響曲第9番第2楽章
 この曲は、ただのA-B-Aであるが、最後の最後でBを少し出して、聴く人をひっかけておしまいにしている。これまでの様々な曲の形式がわかっていると、この遊びの意味がよくわかるのである。こういうのをベートーヴェン特有の諧謔とでも言うのだろう。「あの長いBとAがもう一度演奏されるのか」と思った人も、何人かいたに違いない。



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