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交響曲第5番を中学生が鑑賞する…


交響曲第5番が中学生の鑑賞教材になっている話……

前編(?)は、こちらを参照してください。

 とにかくこの曲が日本の鑑賞教材になっているのは、私などよく知っている人から見るとおおいに疑問である。それは一言で書いてしまうと先生にも生徒にも「手に余る」からだ。初演は1809年。たしかに200年以上前だとは言いながらも、この曲が相手にしているのは、ヨーロッパで最も耳の肥えた連中である。音楽を聴いたりすることが日常となっているウィーンの貴族や住民に対して、ベートーヴェンがその最高峰とも呼べる感性と技術で背負い投げを食らわそうとしているのだ。なので、もし学習用の教材として使うならば、教える側にも学ぶ側にもそれ相応の基礎知識が必要であるし、その知識を義務教育の学校ごときで教えることも学べることできるはずがない。受け身を知らなければケガをするだけで終わってしまう。
 当時のウィーンの人々は、ハイドンやモーツァルトに代表される音楽をめいっぱい聴いている。彼らは古典派の手法を、理論ではなく体験として知っていて、それにあてはめながら聴いていたに違いない。自分の慣れ親しんだ音楽とは違う傾向の音楽が与えられたとき、それを拒否するか受け入れるか、そのような勝負の場でもある。熟練の敵を相手に作曲して発表する。ただでさえそうなのに、遠い国の我々が聴く場合にどうすればいいのか。それ相応の知識を詰め込まねばならないのか?

 いや、そんなことはない。中学生だった私がそうだったからだ。交響曲第5番に親しんだのが中学2年だったから、ちょうど鑑賞教材として用意されている学年である。私は何も知らなかった。クラシック音楽とはどういうものかが全く分かっていなかった。だからこそ聴けたと言いたい。

 なぜ学校で教材として使う場合に手に余るのか? それはそもそも、お勉強と称して余計なことばかりをしようとしているからなのだ。芸術に親しむという本来の目的をすっかり忘れているからなのだ。

 ただ聴くのならば、そう、ただ聴くだけならば子供も十分に可能だ。小学生でもかまわない。ベートーヴェンだろうが他の作曲家であろうが、どんと来いである。なにも、ウィーンの貴族たちほど知っている必要はない。何の基本的な知識も鑑賞体験が無くても、聴くだけなら、十分に目的を達することができる。そのかわり、余分な知識、中途半端な知識は、かえって一切不要、教科書に書いてあること、特にお勉強要素が盛りだくさんなページは、一切無視しておかなくてはいけない。「生兵法は大怪我のもと」と言うではないか。とにかく、聴く前に知っておくべきことは、驚くほど少ない。いろいろな経験にまみれると、妙な分別ばかり身に着けて目が曇るばかりか、耳にも覆いがかかってしまう。それでは聴けるものも聴けなくなるではないか。

 というわけで、何を知っておけばいいのか。

ベートーヴェン作曲 交響曲第5番 ハ短調作品67 を聴く前に知っておくべきこととは…

テレビだろうがラジオだろうが、はたまたCD、Youtubeであろうが、聴く前に知っておくべきことは、ほんの少ししかない。200年前の聴衆になってみて考えてみたところ、それは以下の4つであろうか。

1.演奏時間は30分を超える程度(だろう)。

 ハイドンやモーツァルトの有名な交響曲は30分を超えない程度。わかっている人なら、ベートーヴェンの交響曲はちょっと長いはずだと予想するだろう。

2.4つの部分に分かれている(はずだ)。

 当時の交響曲は4つの部分に分かれている。これだけである。中に何が入っているのか、それがどんな順序なのかは、聴いてみなくちゃわからない。習慣上のパターンはあるが、絶対的な決まりではないのだ。もちろん例外も考えられる。30分ちょっととは言いながらも、4つの部分に分かれているということは、各々10分以下になることがわかるだろう。

3.続けて聴く必要は無い。

 4つの部分があるが、途中で休憩をはさんだりしてもいい。当時は、途中に別の曲(全く傾向の違う曲)をはさんで演奏することもあった。4つの部分のうちの1つを省略して演奏することもあった。こう言えば納得してもらえるか。

4.ベートーヴェン存命の時から、すでに話題の名曲であった。

 初演後数年で、ベートーヴェンの代表曲になっていた。それだけ強い印象を与える曲だったというわけだ。実は、これが4つのうちで最大のポイントである。耳の肥えたウィーンの人たち、ヨーロッパの音楽好きをうならせる音楽とは、どういうものなのか。交響曲の分野で頂点に君臨する曲とはどういうものなのか。くどく解説する気は無い。

以上。必要な知識はたったこれだけである。これだけならクラシック音楽を知らなくても問題ないだろう。この曲を好きになってから、これ以上のことを知ればよいのだ。

とりあえず、普通の演奏を紹介する

 では、比較的入手しやすい普通の演奏で音が比較的良いものを選んで紹介しよう。

推薦
 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(スタジオ録音3種類と、演奏会録音がいくつもあるが、音のよいスタジオ録音を選ぼう)
 カール・ベーム指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(スタジオ録音と日本公演の2種類があるが、どちらも良い)
 カルロス・クライバー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 レナード・バーンスタイン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 フランツ・コンヴィチュニー指揮、ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団
次点
 ゲオルグ・ショルティ指揮、シカゴ交響楽団

 普通というのは、奇をてらったことをしていない。癖が無い。しかし、やるべきことはしっかりやっている、という意味だ。これが意外と少ないのである。


(2020.1.1)




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