楽譜を読んでみよう その5
7.その他のお楽しみ
楽譜を見ていると、いろいろ面白いことが見つかる。いくつか見てみることにしよう。
@版が違う
下の2つは、バイオリン協奏曲の第1楽章、末尾の同じ部分だ。ご覧のように、チェロの動きが違う。実際に演奏されるのは、チェロに旋律がある版だ。しかし、改訂されていない版も売られている。というか、昔の国内版のポケットスコアは、チェロに旋律が無い版のみだったので、なぜか聴こえてくる音を探して悩んだものだ。
私が持っていたチェロに旋律が無い版はオイレンブルグ版(*1)、チェロに旋律がある版はブライトコプフ&ヘンテル(*2)の全集版だ。日本で売られている楽譜は今も2種類あるはずなので、注意したい。こうハデに違っていると、ほかにもけっこう違ったところがありそうで、なんだか気になる。
*1,*2 どちらも楽譜の出版社
Aスタッカートなど
次にこちらは、エグモント序曲の冒頭。2小節め以降の弦楽器にはスタッカートがある。スタッカートは「音を短く切る」と、学校で習う。しかしここには、"marcato"という言葉が…。"marcato"は「音をはっきりと」という意味。音を「短く切る」のに「はっきりと」させるとは、なんだか違うことを言っているような気もする。実際にどうなるのだろう。いろいろな演奏を聴いてみよう。
B謎呼ぶ小節
次はディアベッリ変奏曲。まず、冒頭のディアベッリの主題(前半と、後半を少し)を載せる。
その第4変奏がこれ。元の旋律がどこかへ消えてしまったように見えるのが気になるが…、実は前半の16小節のうちの1小節が、本当にどこかへ消えてしまっているのだ。いったいどこへ消えたのでしょうか。
この曲には、こういう隠し技があるのが面白い。
Cピアノの限界
ピアノソナタ第7番の第1楽章、提示部の末尾あたり。音がぐんぐん登っていくと思いきや、矢印のところは頭打ちで登らない。なぜでしょう。答えは、ベートーヴェンの持っているピアノの音の上限が"ファ"だったから。聴いて違和感が無いような音を選んだら、この場面では"ミ"で打ち止めにしておくべきということになったのだ。当時のピアノを知る上で有名な部分。
D楽譜と演奏の違い
交響曲第9番第1楽章のコーダ、ショット社(*3)の初版。譜例の4小節めの後半には"rit."(リタルダンド)があるが、次の小節に"a
tempo"がある。つまりゆっくりにした後、すぐに速度を戻すことになっている。しかし、実際の演奏を聴いてみると、さらにゆっくりにしてしまう演奏が見つかる(フルトヴェングラーとかフルトヴェングラーとかフルトヴェングラーとか)。作曲者指定の速度の変化を無視してしまうというのは、許されるのかどうか。
*3 楽譜の出版社
E珍しい演奏法
弦楽四重奏曲第14番第5楽章の途中。"sul
ponticello"(スル・ポンティチェロ)という、駒の上で弦を弾くとても珍しい奏法なんだそうだが、私は実際に見たことが無い。近くに弦楽器奏者がいたら、尋ねてみよう。
Fちょっと違う
これもけっこう知られた部分。交響曲第5番第4楽章の、提示部のビオラ。
こちらは再現部のビオラ。ほんのちょっと違う。
古典派のソナタ形式のお約束では、提示部と再現部では、調性の工夫があるものの内容はほとんど同じでかまわない。だから再現部と呼ばれるのだが、再現部のビオラの音は、提示部からの書き写し間違いじゃないか、ということが想像できる。
G不思議な響き
弦楽四重奏曲第15番第2楽章のトリオ。ベートーヴェンがバグパイプを知っていたかどうかわからないが、ここはそんな響きを聴ける。この旋律の前半は、3人分の音が聴こえるが実は2人で演奏している。
Hでは最後に、これがあの有名な
3種類の鳥が鳴く場面、交響曲第6番第2楽章コーダ。"ナイチンゲール"はフルート、"うずら"はオーボエ、"カッコウ"はクラリネット。ただし、なぜかクラリネットは2本で演奏。"zu
2"は、ドイツ語で「二人で」。通常のイタリア語表記では、"a
2."と書かれる。2本のほうがカッコウらしいのだろうか。そう考えたとき、ベートーヴェンの耳はどのように悪かったのか不思議に思う。
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(2011/5/30)