昼の安らぎ


わしは猫。
商店街のはずれにあるペットショップに住んでおる。
最初は商品としてやって来たが、あまり丈夫でなかったのを見かねた店長に引き取られ、以来ここの店番じゃ。
わしが店に残ることが決まって、当時八つだった嬢ちゃんはそれは大喜びした。
その嬢ちゃんも先般嫁にいき、黒かった店長の髪には白いものが混じり始めておる。
わしはといえばすっかり貫禄が出て、病弱だった昔の面影は全くない。いまや肥満を心配されるくらいじゃ。
ちなみに二階は動物病院、店長の妹が院長をしておる。
昔はよく世話になったが、最近は定期検診にしか行かんのう。

ペットショップじゃから、よく子猫がやってくるが、これが実に見ていて飽きない。
二匹の子猫が、重なって寝ている。
しばらくすると、下になった方が暑くて目を覚ます。
下のが這い出て上に乗る。
これを延々繰り返したりするんじゃ。まったく面白いのう。
この子猫たちと、時々しっぽで遊んでやるのもわしの仕事じゃ。
下手な猫じゃらしなどとは食いつきが違うぞ。なにしろこっちは生きとるからの。

同じ商店街の横道にあるバーにも猫がおる。
美しく気品のある彼女は、この辺りのマドンナじゃ。
時々そこの若いのが買い物に来るんじゃが、どうも彼奴には買い物の他にも目当てがあるらしい。

それは、とあるやせた色白の青年。
近所に住んどるようで、よく顔を見せては、キャットフードやトイレ砂などを買っていく。
子猫が来た時には、微笑みながら眺めておる。
わしが子猫たちの相手をしておると、
「おつかれさま」
と声をかけてくれたりする、なかなかできた青年じゃ。

バーの若いのは、彼がいない時には必ず、そわそわと店内を見回す。
彼がいる時には、舞い上がった様子で挨拶をする。
彼が子猫を眺めているのを、しまりのない顔で眺めていたりもする。
あまりにわかりやすいので、店長と二人で苦笑いしておるよ。


−終−