甘い運命 (20)


「……なにキショい冗談ブッこいてんだてめー、オレはマジメに」
「冗談じゃねえよ。本気だ」


「あのなあ拓人」

「オレは男だぞ?」
「わかってるよ」
「胸もケツもねーしタマ付いてんだぞ?」
「わかってる」



───信じらんねー」


「信じらんねー。マジで? お前いつからホモになったわけ?」
「別に、そういうわけじゃ…」
「じゃ何か? オレが女みたいに見えるってのか? ざけんじゃねーぞ、オレは確かにちっちぇーし童顔だけど、女じゃ…」
「わかってるっつってんだろ!」

 突然の大声に、サキがびくりと身をすくませた。

「お前が男だってことぐらい見りゃわかんだよ! 俺なんかよりよっぽど男らしいことだって知ってんだよ! そんなのに惚れちまって俺はマジすっげー悩んでんだよ! どうすりゃいいのかわかんねーんだよ畜生!!」




 長い長い沈黙を破り、サキが口を開いた。
「…わりー。オレ、全然アタマ動かねー」


「とりあえず、帰る」

 サキがのろのろと立ち上がり、玄関の方へと歩いていく間、柴山は微動だにせずその場に立ち尽くしていた。
 ドアが閉じる。


 気がつくと、傍らでやかんがシュンシュンと激しく湯気を噴いていた。
 テレビは相変わらず騒々しい企画をやっているし、外では春の嵐も吹き荒れている。
 突然、世界が音を取り戻したようだった。
 コンロの火を消し、つぶやいた。
「勘弁してくれよ……」