「……なにキショい冗談ブッこいてんだてめー、オレはマジメに」
「冗談じゃねえよ。本気だ」
「あのなあ拓人」
「オレは男だぞ?」
「わかってるよ」
「胸もケツもねーしタマ付いてんだぞ?」
「わかってる」
「───信じらんねー」
「信じらんねー。マジで? お前いつからホモになったわけ?」
「別に、そういうわけじゃ…」
「じゃ何か? オレが女みたいに見えるってのか? ざけんじゃねーぞ、オレは確かにちっちぇーし童顔だけど、女じゃ…」
「わかってるっつってんだろ!」
突然の大声に、サキがびくりと身をすくませた。
「お前が男だってことぐらい見りゃわかんだよ! 俺なんかよりよっぽど男らしいことだって知ってんだよ! そんなのに惚れちまって俺はマジすっげー悩んでんだよ! どうすりゃいいのかわかんねーんだよ畜生!!」
長い長い沈黙を破り、サキが口を開いた。
「…わりー。オレ、全然アタマ動かねー」
「とりあえず、帰る」
サキがのろのろと立ち上がり、玄関の方へと歩いていく間、柴山は微動だにせずその場に立ち尽くしていた。
ドアが閉じる。
気がつくと、傍らでやかんがシュンシュンと激しく湯気を噴いていた。
テレビは相変わらず騒々しい企画をやっているし、外では春の嵐も吹き荒れている。
突然、世界が音を取り戻したようだった。
コンロの火を消し、つぶやいた。
「勘弁してくれよ……」