ヘルプ&フォロー (2)


「ごちそうさまでした。うまかったです」
俺が不穏な考えを巡らしている間に、人のいいエンジニアは差入れをすっかりたいらげ、律儀に頭を下げた。そうだ、田川への制裁より、こっちのフォローが先だ。
 俺は、右手を竹崎の顔にのばした。そっと、顎にかける。戸惑う唇の端に親指をあて、ゆっくりとなぞり上げた。
「マヨがついてる」
手を離し、親指についたマヨネーズを舐めとると、どぎまぎしているのが手に取るようにわかった。うう、楽しい。
「よし、ちょっと息抜きさせてやろう」
俺は椅子から降りて膝をつくと、目の前にある太腿の脇を両手でつかみ、ぐいと引き寄せた。
「わっ」
椅子にふんぞり返るような姿勢になった竹崎のベルトのバックルを手早く剥がす。
「ちょ、ちょっと浜…」
「いいから」
休出でジーンズを履いているので、ボタンを外すのにすこし手間取っていた俺の指を、慌てた右手が押さえた。
「駄目です、そんな。ここっ、会社ですよ?!」
ささやくような抗議がなされたが、
「そうだな。だから静かにしてろよ」
そう言ってやんわりと手をどけさせると、ジッパーを引き下ろした。
「そんな…」
信じられないという表情で見つめる視線にかまわず、俺は竹崎の下着の中から、まだなんの兆しも見せていないものを取り出した。
 手のひらでかるく弄ぶと、ぴくりと震えた。その表面に、やわらかくキスを落とす。
「んっ…」
声を我慢して、鼻から抜けていく音が色っぽい。煽られるように、口に含んだ。
「……!」
舌でくるみ、転がし、成長する過程を楽しむ。溜まっているのか、反応は早かった。
 喉の奥まで飲み込み、口中で刺激する。ゆるゆると吐き出し、先端だけを咥えてちろりと舐める。右手で外側の塊をやさしく揉み、時おり裏の筋に指を伝わせる。
「ふ……ぅ…」
 やがて、すっかり育ちきったそれからしょっぱいものが滲んできた。口から出し、俺の唾液だけではない液体に濡れそぼる先端を親指でこすってやると、涙目になった竹崎の全身がびくびくと反応した。
 押し殺した荒い息づかいが、無人のフロアに響く。長時間座りっぱなしのPEのために用意された造りのいい椅子が、時々きしむ音を立てた。
「は…まださ……」
泣きそうな声がこぼれる。俺の頭に添えられた手が力を帯び、長い指が髪を甘くかき混ぜる。俺の方がたまらなくなりそうだったが、我慢した。これはあくまで「息抜き」で、仕事の邪魔をする気はないのだ。
「……あ、もっ」
頭をつかむ指に力がこもった。俺が手と唇を絞り上げるように動かすと、
―――っ!」
竹崎は身体を大きく震わせて、達した。勢いよく迸った濃い目の液汁を、俺は躊躇なく飲み込んだ。
 大きく上下する胸の向こうに、紅潮した顔が見える。俺は口に含んでいたものをきれいに舐め上げてから、顔を上げた。
「すっきりしたか?」
俺の質問に、竹崎は呆けたような目をしてうなずいた。
「……あ」
その目が、しきりにまばたきを繰り返す。
「…だめだ……、ねむ……」
射精後に眠くなるのは男の生理現象。まして食後で徹夜明け、この睡魔に抗える奴はいないだろう。
「すこし寝ろ。起こしてやるから」
その言葉を聞いた竹崎の身体から、ふうっと力が抜けた。
 後始末を終え、身体を起こすと、有能PEはすっかり夢の世界だった。目が覚めたら、きっと作業もはかどるはずだ。
 乱された髪に左手で手櫛を入れながら、ふと、ウィンドウだらけの画面に目をとめた時。いいアイディアがひらめいた。

 翌日。出勤してマシンを起ち上げたところ、社内メールが1通届いていた。
『おかげさまでうまくいきました』
短いメッセージに、
『どういたしまして』
同じように短く返信してから、改めて新規メールの作成画面を開く。そして「社内目安箱」という、社長直通で投書ができるアドレスに一筆書いた。
 効果は早くも、その日の午後に現れた。
「おい浜田」
外回りから帰って来た俺に、同僚の安井が声をひそめて話しかけてきた。
「聞いたか? 田川の話」
「いいや?」
「さっき上の方に呼び出しくらってたんだけどな、会社からエロサイト覗いてたのがバレて減給だってよ」
「へえ」
田川が処分されたことには驚かなかったが、減給という内容には少なからず驚いた。
「こないだチェックがあったばっかだから油断してたらしいぜ」
俺は別に投書の中で田川を名指ししたわけじゃない。ただ、時々抜き打ちで行われているインターネットのアクセス履歴チェックを、ちょっと早めるように提案しただけの話だ。しかし減給処分とは、よほど頻繁に見に行っていたのだろう。やっぱり、ろくでもない男だ。
「だから止めろって言ったのになあ」
ぼやく安井に、俺は内心ほくそ笑みながら、そ知らぬ顔で言った。
「まあ、自業自得ってやつだな」


−終−