歌 舞 伎
− 観 劇 記 -

平成16年

1月:おはつ


2月:市野原のだんまり、彦山権現誓助、茨木、良弁杉由来

3月:大石最後の一日、達陀、義経千本桜

4月:番町皿屋敷、棒しばり、義経千本桜


5月:四季三葉草、暫、紅葉狩、伊勢音頭恋寝刃
(11代目市川海老蔵襲名披露)

6月:お江戸でござる

7月:二階の奥さん、大阪ぎらい物語、はなのお六

8月:蘭平物狂、仇ゆめ

9月:西太后

10月:寿猩猩、熊谷陣屋、都鳥廓白浪

11月:鬼一法眼三略巻、郭文章、河内山

12月:鈴ヶ森、阿国歌舞伎夢華、たぬき、今若桃太郎


1月公演
平成16年1月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

おはつ

     
  マキノ・ノゾミ作

  鈴木 浩美演出  


お初
    松 たか子

直助
     佐々木蔵之介

正太郎
     小市慢太郎

沖田総司
     北村有起哉

近藤勇
     渡辺いっけい

おれん
     江波 杏子


  今回は、歌舞伎を休み、新橋演舞場に行った。座長を務める松たか子の熱演を見るためである。
  
  幕末、大阪新町の店「かや乃」の労咳病みの女郎お初の物語である。お初には将来を約した馴染み客の正太郎がいたが、近藤勇との身請け話が持ち上がっていた。
  正太郎の幼い時からの友人で剣の免許皆伝の直助が、正太郎の変わりになり、近藤勇との果し合いを買って出た。それを見て、お初は、自分のために生命を投げ出してくれた直助こそが、自分の命を賭けた本当の恋の相手であることを悟る。
  ところが、直助は元新撰組の浪人を、不本意ながら殺めていたため、下手人として追われる身であった。そして思わぬ方向に話が展開していくことになる。
  お初は、労咳のため余命幾ばくもない身で、直助と共に、出来るだけ生きぬいていこうと決心し、新しい道を歩みだした矢先に悲劇が起きる・・・。
  直助役の佐々木蔵之介が、松たか子以上に熱演であった。狂言回し役の北村有起哉、そして江波杏子が舞台を締めていた。
  今回の演出は一つ一つが見事で、新鮮であった。練りに練った脚本という感じがした。


2月大歌舞伎

平成16年2月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

市原野の
  だんまり
    
  
(いちはらののだんまり)

  常磐津連中  

平井保昌
      梅 玉

鬼童丸
       玉太郎

袴垂保輔
       左團次


  京都の市原野という野原を舞台に、、笛を吹きながら通り過ぎる平井保昌に、盗賊の袴垂保輔が出会い、切り結ぶ様をだんまり模様で舞踊化したもの。
  だんまりとは、暗闇で黙ったまま探り合う様子を言う。昭和13年以来の上演とのこと。



彦山権現
  誓助釼

(ひこやまごんげん
 ちかいのすけだち)

  毛谷村

毛谷村六助
      吉右衛門

一味斎娘お園
       時 蔵

  毛谷村に住む六助心優しい剣術の名手が孤児の弥三郎を引き取り育てることになる。そこへ虚無僧姿の腕自慢の娘お園が現れて、子供を取り返そうとする。
  ところがこのお園は、六助の剣術の師匠の娘で、許婚であった。それが分かった時のお園の急に女らしく豹変する様は見事である。
  お園の妹の子供が弥三郎で、その父と母が殺されたことを聞かされ、共に力を合わせ敵討ちを行うという物語。
  吉右衛門は小気味良く、また時蔵がなかなか見せてくれた。



新古演劇十種の内
茨 木
(いばらき)

長唄囃子連中

茨木童子
      玉三郎

渡辺源次綱
       團十郎
 
  玉三郎の茨木童子は、初めてであった。前回は芝翫であったが、今回の玉三郎は随所に新味を出していた。品格のある老婆役から鬼に変化して立ち回る様は見事であった。メイキャップや表情も工夫を凝らし鬼の凄みを増していた。
  羅生門で鬼の片腕を切り取った渡辺源氏綱の所に、伯母に化けた鬼・茨木童子が腕を奪いに来て、大立ち回りを演じる御馴染みのものであるが、何度見ても良いものである。



良弁杉由来
(りょうべんすぎのゆらい)

 志賀の里
 桜の宮物狂い
 二月堂

水無瀬後室渚の方
      鴈治朗

良弁大僧正
       仁左衛門

  鴈治朗の渚の方を観るのは2度目である。3年前に観た時も感動したが、今回はそれ以上であった。
  渚の方が、山鷲にさらわれたわが子を錯乱しながら追いかける様、狂女として子供にからかわれながら行方を捜す姿、そして乞食に身を落とした老婆の演じ分けは相変わらず見事なものである。
  鷲にさらわれた子供が、東大寺の大僧正となっており、その再開シーンはもう涙ものであった。
  鴈治朗の年季の入った演技に感服、仁左衛門の大僧正役はさすがであった。


3月大歌舞伎

平成16年3月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記
真山青果作
真山美保演出

元禄忠臣蔵
大石
 最後の一日
    (おおいしさいごのいちにち)

  

大石内蔵助
      幸四郎

おみの
       孝太郎

磯貝十郎左衛門
       信二郎

堀内伝右衛門
       我 當

  ご存知赤穂浪士の討ち入り後、細川越中守の屋敷に預けられた大石内蔵助と十数名の浪士たち。
  そこに志津馬と名乗る小姓が現れる。この小姓は、浪士の磯貝十朗左衛門と婚礼の約束をしたおみのの男装姿であった。磯貝が結納の日に姿を消した真意を知りたいと対面の申し込みをする。
  幕府の決定を待つ浪士たちと細川家のやりとり、切腹の上意を告げるためにやってきた荒木十左衛門(東蔵)をからめ、見応えのある芝居に纏められている。
  おみの(孝太郎)の力演が光っていた。
大石の幸四郎も味が出ていて良かった。
萩原雪夫作
春を呼ぶ二月堂お水取り
達 陀

  (だったん)

  藤間勘斎振付
  中能島欣一作曲
  柏伊三郎作曲
僧集慶
      菊五郎

青衣の女人
       菊之助

堂童子
      松 緑

  毎年3月に行われる、奈良東大寺二月堂の行事「お水取り」を題材に舞踊化したもの。昭和42年に、2代目尾上松緑の発案で実現したユニークで、スケールの大きい、豪快な舞踊劇。
  最後の僧による群舞は圧倒的な迫力であった。



義経千本桜
(よしつねせんぼんさくら)

 木の実
 小金吾討死
 すし屋

いがみの権太
      仁左衛門

主目小金吾
       愛之助

娘お里
       孝太郎

弥助実は平維盛
      梅 玉
 
  義経千本桜の中心人物3人(知盛、狐忠信、いがみの権太)の内、今回は権太にかかわる部分の上演である。
  夫の平維盛(これもり)を探す旅の途中の若葉内侍(東蔵)、嫡男六代と供の主目小金吾が、いがみの権太に金を騙し取られ、さらに追っ手により小金吾が討ち取られてしまう。 
  捜し求めていた繊盛が、奉公人に身を変えて住んでいたのは、いがみの権太の実家のすし屋であった。そこへ、源氏の追っ手梶原景時が詮議にやってきてと物語は進んでいく。
  仁左衛門が小気味のよい小悪党を演じ、格好よかった。孝太郎のお里も本物の女以上に、乙女心を旨く演じている。
  なかなか良く出来た芝居であった。

4月大歌舞伎

平成16年4月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記
岡本綺堂作

番町皿屋敷
    (ばんちょうさらやしき)

  

青山播磨
      三津五郎

腰元お菊
       福 助

淺川後室真弓
       田之助


  旗本奴の青山播磨は町奴といざこざを起こした所を、日頃から頭の上がらない、伯母の渋川後室真弓に見咎められ、いい加減に嫁を貰い、落ち着けと縁談を迫られてしまう。しかし、播磨には将来を約束した腰元のお菊がいた。
  縁談の噂を聞いた腰元のお菊が播磨の本心を知りたくて、家宝の皿をわざと割り、播磨の心を試そうとする。
  ことはうまく行き、播磨の本心を知ることが出来たが、お菊の播磨を疑った心の内が露見し、逆に播磨の怒りを買ってしまう。
  
愚かしいお菊を福助が健気に演じ、また三津五郎が一途な播磨を旨く演じていた。田之助の真弓は、重厚な女丈夫を気持ち良さそうに演じていた。
  

岡村柿紅作

棒しばり

  (ぼうしばり)

  長唄囃子連中
太郎冠者
      三津五郎

治郎冠者
       勘九郎

曽根松兵衛
      弥十郎

  前回(平成15年)は、勘太郎と染五郎の若さ溢れる棒しばりを見たが、今回は三津五郎と勘九郎である。流石、年の功でもないが、今回は深みあるの別ないい味を出していた。
  主人の曽根松兵衛は酒に目のない太郎冠者を後ろ手にしばり、次郎冠者には6尺棒を担がせたまま縄で縛った上で留守を任せる。  主人の居ない間に、縛られ両手の不自由な二人が、力を合わせ、酒蔵から酒を取り出し、酒盛りを始め、酩酊し踊りだすという、コミカルな舞踊劇である。
  踊り達者な二人の競演は見応えがあり、また愉快であった。



義経千本桜
(よしつねせんぼんさくら)

 渡海屋
 大物浦
   (とかいや)
   (おおもつのうら)
渡海屋銀平
実は新中納言知盛

      仁左衛門

源義経
       福 助

武蔵坊弁慶
       左團次

相模五郎
       勘九郎

入江丹蔵
      三津五郎

女房お柳
実は典侍の局
       芝 翫
 
  義経千本桜の中心人物3人(知盛、狐忠信、いがみの権太)の内、今回は知盛が主人公であった。前回(3月歌舞伎)のいがみの権太を演じた仁左衛門が、今回は知盛に初挑戦とのことであった。

  船問屋、渡海屋の主銀平は、都落ちする義経一行をかくまっていたが、実は、船出後に、一行を海上で打ち落とす計略を立てていた。銀平は、壇ノ浦で死んだはずの平家の中納言知盛で、ここで、姿を変え、義経への復讐の機会を狙っていた。
  しかし、事が露見し、計画は失敗となり、瀕死の重傷を負った知盛は、岩場から大きな碇を背に、海に豪快に身を投げ死んでいく。
  この、知盛の最後の投身のシーンは、迫力があり、見事であったが、瀕死の重傷の演技(演出)は、少々くどく感じた。見せ場であるだけに残念であった。

11代目市川海老蔵襲名披露
5月大歌舞伎


平成16年5月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

四季三番草
    (しきさんばそう)

  清元道中


       梅 玉

三番嫂
       松 緑

千 歳
       芝 雀


  今回は、NHKの連続ドラマで宮本武蔵を演じた市川新之助の海老蔵襲名披露とのことで、通常より観劇料が高いにも関わらず満員であった。
  襲名披露は何時もの事ながら華やいだ気分になるものである。歌舞伎人気も衰えることが無いと感じる一日であった。今回は、客も和服姿が何時に無く多かった。


  その幕開けにふさわしいのが、清元の名曲として有名な四季三葉草であった。
  翁と三番草を立て役が演じ、千歳を女方が演じる舞踊でしっとりと見せてくれた。

歌舞伎18番の内

 暫

  (しばらく)

  大薩摩連中
鎌倉権五郎
       
海老蔵
    (新之助改め)

加茂義綱
       
芝 翫

鹿島震斎
       
三津五郎

成田五郎
       
左團次

清原武衛
       
富十郎

  新海老蔵が初役で挑む、注目の舞台である。荒事の大役をどう演じるか、見る前から楽しみの一番であった。
  天下を狙う悪人清原武衛が、鎌倉の鶴ヶ丘八幡宮へ参詣。そこで加茂義綱を成敗しようとすると、舞台背後から「暫く(しばらく)」の大音声。声の主が加茂家の忠臣鎌倉権五郎(海老蔵)である。
  舞台に登場し、悪人どもを成敗し、ゆうゆうと引き上げていく様はまさに歌舞伎18番。痛快で、見事にこの大男権五郎を、新海老蔵が演じきった。これからのますますの活躍が期待できる舞台であった。
  脇に豪華な役者を揃え、舞台も締まったものであった。
 


河竹黙阿弥作
新歌舞伎18番の内

紅葉狩
 (もみじがり)

  常磐津連中
  竹本連中
  長唄連中
更科姫実は戸隠山の鬼
      菊五郎

山 神
       菊之助

平維茂
       梅 玉
  
  紅葉が見事な信濃の戸隠山。平維茂は家来を連れ、紅葉狩りにやってくる。そこで、高貴な姫に酒宴に誘われるが、実はこの姫は戸隠山の鬼であった。
  本性を現した鬼との激しい立ち回りと、常磐津、竹本、長唄の3方掛け合いの舞台はなかなか見応えのある、華やかなものであった。歌舞伎舞踊の大作。


伊勢音頭
  恋寝刃
 (いせおんど
    こいのねたば)

  油 屋
  奥 庭

   一幕二場
福岡貢
      團十郎

料理人喜助
       海老蔵
       
お紺
       魁 春

仲居万野

      芝 翫

 
  伊勢の御師(おんし)、福岡貢は、主筋の探している刀の折紙(おりがみ、鑑定書)の行方を尋ねて奔走。しかし、遊郭油屋の座敷で仲居万野の企みに乗せられ、恋人お紺に偽りの愛想ずかしをされて逆上。
  手にした刀で次々と人を殺めてしまう ・ ・ ・。
  無事、折紙と刀が手元に戻り、大団円となる話ではあるが、一寸ストーリーに無理を感じた。
  しかし、團十郎の熱演と、芝翫の演技が見事で、喜助役の海老蔵も若々しく良かった。
  この日の舞台の後に急病との事で團十郎が舞台を降りる事になったのは心配である。息子の海老蔵襲名披露の準備の心労が重なったのか、無事の回復を祈っりたい。

6月公演

平成16年6月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記
松竹喜劇
お江戸でござる

  
  日本橋長崎屋
     オランダ屋敷

 滝 大作  作・演出
 吉村 忠矩  演出

 制作協力
  NHK
  エンタープライズ21

長崎屋女将
    竹下 景子

同亭主
    菅野 采保之

薩摩浪人
    松村 雄基

インチキ医者
    前田 吟

筆頭与力
    青山 良彦

奉公人
   
 原口 剛
    重田 千穂子
     角替 和枝

    魁 三太郎
    桜 金蔵 他


  今回は、NHKのTVドラマで御馴染みの「お江戸でござる」の舞台版である。もっとも、4月より、NHKのドラマは「道中でござる」と模様替えしているが・・・

  時は幕末、場所は日本橋名物の長崎屋通称オランダ屋敷。切り盛りしているのは、例によって気弱でグータラの亭主ではなく、女将である。
  そんな時、黒船騒動の影響で、オランダ屋敷が閉鎖させられてしまう。頭にきた女将は、薩摩浪人と組んで、長崎屋を攘夷派浪人の溜まり場にしてしまう。
  と、奇想天外な物語展開となるが、江戸庶民のしたたかさを、喜劇として旨くまとめ、盛り上げている。
  竹下景子の女将ぶりはさすがに旨い。薩摩浪人役の松村雄基がカッコいい役をこなしている。
  女将の姉役の新橋耐子、同心の田口計、
奉公人の原口 剛、重田千穂子、角替和枝などが脇を締めていた。
  テレビとは違い、やはり舞台はいいものである。

 


7月公演

平成16年7月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

松竹新喜劇
喜劇100年

七夕名作
喜劇まつり

 

 
 茂林寺 文福作
 米田 亘演出 
 二階の奥さん



 鍋井 克之作
 館 直志脚色
 みやながゆうへい演出
 大阪ぎらい物語



 一堺 漁人作
 茂林寺 文福脚色
 米田 亘演出
 はなのお六

  

    藤山 直美

    淡島 千景
  
    小島 秀哉


    三林 京子

    小島慶四郎

    入江 若菜

    入川 保則

    大津 嶺子


  

  いやぁ、実に楽しい観劇であった。喜劇祭りに相応しい題目で安心して笑えた。まさに、暑気払いに相応しい舞台である。

二階の奥さん
  今や高齢化社会、観客も元気なご夫人とお年寄りが多い世の中。
  今回の舞台は元気のあまり息子の嫁より若い孫のような娘と結ばれ、その娘さんのおなかの中にはすでに3ヶ月の子供がいるという、定年退職後の妻に先立たれた一人身のお父さんのものがたり。
  流石に照れくさくて、妹や息子夫婦にその事実を告げることが出来ずに、その娘を2階に間借りしている人の奥さんにして、取り繕うとしたことからの悲喜劇。
  いやはや、楽しい舞台であった。

大阪ぎらい物語
  大正の末、大阪の老舗「河内屋」が舞台。大旦那を亡くした後、勝気なご寮さん(淡島千景)が実権を握り暖簾を守っている。
  そんな時、長女(藤山直美)がこともあろうに店の手代と恋仲になり、このままでは老舗の暖簾に疵がつくと御寮さんが一計を案じるが・・・・
  まるで、娘役の藤山直美の一人舞台。抱腹ものであった。ものの見事な人情喜劇として良く纏まっている。


はなのお六
  三つ葉葵の白旗は、徳川家代々に伝わる宝物。それが、思わぬ天狗風に誘われて、行方不明となる。見つからなければ、保管していた有馬家の当主は切腹もの。
  そこへ、大和の百姓娘お六(おろく、藤山直美)が、やってきて、得意の鼻利きで、見事探し出すと言う物語。
  これこそまげもの喜劇の本領。天真爛漫で、相手が殿様であろうが、口の利き方や、礼儀作法は一切お構いなし。その滑稽さで最後まで見るものをぐいぐいと引っ張っていくおもしろさ。
  藤山直美の真骨頂であろう。親の藤山寛実ゆずりの芸達者ぶりは見事であった。

 


8月納涼歌舞伎

平成16年8月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

浅田 一鳥作

倭仮名在原系図
蘭平物狂
(らんぺいものぐるい) 

 
 

  

奴蘭平、実は伴義雄
       三津五郎


与茂作
       橋之助

水無瀬御前
       孝太郎


義雄の一子繁蔵
       児太郎

在原行平
       勘九郎

  
  久しぶりに歌舞伎観劇となった。暑い最中に行ったが、相変わらずの人気で、満員であった。
  物語は、親の仇である在原行平を討とうと、奴・蘭平に身をやつした伴義雄は機会を窺っていたが、事の次第は行平に見破られていた。
  何とか、蘭平の家(伴家)を再興させたいと思っていた行平は、蘭平の子繁蔵に手柄を立てさせようと追っ手に加える。
  それを知らぬ蘭平は大勢の追っ手に追われ大立ち回りを演じ、最後に我が子繁蔵の縄にかかるという物語。
  親子の情を絡めた台本は一寸表現不足ではあったが、三津五郎演ずる蘭平の大立ち回りは迫真的であった。歌舞伎の立回りが伝統芸に甘んじ、マンネリ化しているが、今回の立回りは、工夫が凝らされ、引きつけられた。
  また、子役の児太郎(一子繁蔵)の演技は、凛々しく、観客の盛んな拍手を浴びていた。

  
北条 秀司作

仇ゆめ
(あだゆめ)
 


       勘九郎

深雪太夫
       福 助

舞の師匠
       扇 雀

揚屋の亭主
       染五郎 

  壬生村に住む狸が、島原の遊女深雪太夫に恋をした。ところが太夫は、舞の師匠に夢中であった。そこで狸がその師匠に化け、太夫をその気にさせたところに、本物の師匠が現れる。
  本物の師匠は、太夫を特に好きでもないが、太夫は狸にのせらせその気になっているから、話がややこしい。
  さぁ、どうしょう。と展開していく話はおもしろい。狸役の勘九郎が、軽妙な演技で笑わせる。太夫のラストシーンの狸を労わるところも見応えがあった。太夫役の福助は相変わらず見事であった。

9月公演

平成16年9月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

孫 徳民作
石川 耕土脚本
市川 猿之助演出

西太后
(せいたいごう) 

   

西太后
      藤間 紫

東太后
     市川 門之助


恭親王
      市川 右近

宦官、李蓮英
     
市川 笑也

冠連材
      中村 歌六

同治帝
      市川段治郎

珍妃
     市川 猿弥

大臣
      安井 昌二

  
 
 中国最後の王朝・清で権力を欲しいままにしたと伝えられる藤間紫の演じる西太后である。1995年に初演され、話題となった芝居だ。女優は藤間紫ただ一人で、他はスーパー歌舞伎で御馴染みの一座の女方によって演じられている。
  舞台は、1861年、清国では皇帝の偉豊帝に死期が迫っていた。唯一、男の子を産んだのが蘭(後の西太后)であった。
  6歳の幼い帝が即位すると、大臣たちは生母であり、男勝りの能力を備えた蘭を亡き者にしようとするが・・・
  陰謀と策略が渦巻く宮廷内で、西太后の地位を得た後は、母であること、女であることも捨て、苦しみながらも、衰退して行く国のために身を捧げていく様を感動的に描いている。
  なお、一般的に西太后のイメージは悪いが、これは西洋列国が作り上げたもので、真実の姿はそんなものではなかった・・・
  そんな西太后を演じる藤間紫が、上手から登場するだけで舞台が引き締まる感じがするのであるから大したものである。圧倒的な存在感を示す藤間紫である。
  それを支える恭親王の右近、そして終始舞台の中央で、藤間に仕える宦官の笑也等々が舞台を盛り上げ、実に見応えのある感動的な芝居となっている。
  藤間紫が81歳とはとても思えぬ力演であった。笑也がいつもと違う役所(やくどころ)を好演し、喝采を浴びていた。
  
 



芸術祭十月大歌舞伎
(平成16年文化庁芸術祭参加)

平成16年10月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

西亨作曲
八代目三津五郎振付

寿猩猩
(ことぶきしょうじょう)


猩猩
        梅 玉

酒売り
        歌 昇



  猩猩(しょうじょう)とは、中国の想像上の霊獣。広辞苑によれば、体は狗(いぬ)や猿の如く、声は小児の如く、毛は長く、そして朱紅色で、面貌人に類し、人語を解し、酒を好むという。
  唐に住む酒売りが、猩猩に会いに行き、その舞を見た後、猩猩からいくら汲んでも酒が尽きないという結構な酒壷を授かるというおめでたい舞踊である。
  猩猩役の梅玉の、能の様な動きと、酒を酌みながらの軽やかで華やかな踊りと、朱紅色の髪と衣装とが良くマッチしていた。
  能の「猩猩」を歌舞伎舞踊化したもの。



一谷軍記
(いちのたに
  ふたばぐんき)
熊谷陣屋
(くまがいじんや)

  一幕

熊谷直実
        幸四郎

相模
        芝 翫

藤の方
        時 蔵
源義経
        梅 玉
弥陀六
        段四郎


  御馴染み熊谷直実ものである。直実の陣屋には、初陣の息子小次郎を心配する直実の妻相模と、やはり我が子平敦盛を気遣う藤の方が待機している。
  そこに、直実が帰ってきて、敦盛の首を討ったという。義経の首実験に供されたのは、何と自分の子、小次郎の首であった。
  後白河院の落胤である敦盛を助けよという義経の内意を得て、直実は我が子を身替りとしたのだ・・・・
  命を救われた、敦盛が弥陀六(実は平宗清)に無事託されるのを見届けると、直実は出家を決意するという物語である。
  直実役の幸四郎、相模役の芝翫(しかん)、弥陀六役の段四郎の熱演、存在感が光った。


河竹 黙阿弥作
河村 登志男監修

傾城花子、忍の惣太
都鳥廓白浪
(みやこどり
  ながれのしらなみ)) 

  三幕
   

傾城花子
実は松若丸
        菊五郎

宵寝の丑市
       左團次


お梶
        時 蔵

忍ぶの惣太
         仁左衛門


梅若丸
        孝太郎

  
 
 京の吉田家にお家騒動が起こり、一家は没落。嫡子の松若丸は東国に出奔中。それを追って、母と弟の梅若丸が江戸にやってくるが、隅田川の畔で、忍ぶの惣太に殺され、金品を奪われてしまう。
 ところが、惣太は吉田家の元家臣で、誤って主筋の梅若を殺してしまったことになる。
  嫡子の松若丸は、傾城(けいせい)に変装し、吉田家の重宝を捜索中であった。そんな状態で、惣太と松若丸が重宝と金品を巡り・・・・
  惣太の梅若殺しでの「だんまり」、松若丸がラストで傾城花子から松若丸に戻るシーンや、ご飯を食べながら、捕り手と闘う「おまんまの立回り」が見せ場となっている。
  しかし、筋が込み入っており、、盛り上がりが今ひとつであった。脚本に一工夫欲しい感じがした。
  
 



吉例顔見世大歌舞伎

平成16年11月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

鬼一法眼
   三略巻
(きいちほうがん
   さんりゃくのまき)
  菊 畑

吉岡鬼一法眼
        富十郎

智恵内実は鬼三太
        吉右衛門
虎蔵実は牛若丸
       芝 翫

皆鶴姫
       福 助


  舞台は兵法学者吉岡鬼一法眼の館の菊が咲き誇る庭。もと源氏方、源義朝の家臣であったが今は平家側に与している。
  その真意を探ろうと、鬼一の弟鬼三太とその主筋である牛若丸が、奴に変装し奉公している。
  牛若丸に思いを寄せる鬼一の娘皆鶴姫が、二人の素性を知ってしまい・・・・と物語りは展開し、あっという間に大団円となる。
  中々練れた台本である。富十郎、吉右衛門、芝翫が持ち味を出している。福助の女形の妙と、背景の菊の花が舞台を一層華やかに彩っていた。



玩辞楼十二曲の内
郭文章
(くるわぶんしょう)
  吉田屋

  竹本道中
  常磐津連中

藤屋伊左衛門
        鴈治朗

吉田屋貴左衛門
        我 當

女房おきさ
        秀太郎
扇屋夕鶴
        雀右衛門


  大坂の遊郭吉田屋では正月に備え主貴左衛門らが餅つきをしている。そこへみすぼらしい紙で出来た衣装を来た男が訪ねてくる。
  男の正体は、藤屋伊左衛門で、大店の若旦那で、遊女夕鶴の元に通い詰め、親から勘当されている身であった。
  主の好意で、部屋に招き入れられ夕鶴と再会するが・・・・。
  もう、これは伊左衛門(鴈治朗)の一人舞台と言う感じである。上方和事の典型で、気品ある色男ぶりが、頼りなげでおかしい。一挙一動がすべて絵になっている。
  鴈治朗にただただ感服であった。女房おきさの秀太郎がいい女将振りを演じていた。


河竹 黙阿弥作
河村 登志男監修

天衣紛上野初花
 
(くもにまごううえのの
      はつはな)
河内山
 (こうちやま) 
 
  二幕
   

河内山宗俊
        仁左衛門

松江出雲守
       梅 玉


宮崎数馬
        信二朗

腰元浪路
         孝太郎


和泉屋清兵衛
        段四郎

  
 
  上州屋の娘浪路が、奉公先の松江出雲守の下で幽閉されていると聞き、悪巧みに長けた御数奇屋坊主の河内山宗俊がお金欲しさにその奪還を請け負う。
  そして、上野寛永寺の使僧を装い、堂々とした振る舞いで、交渉を成立させ、帰り際に、嘘がばれ正体が見破られても、開きなおって啖呵を切り、悠々とその場を引き上げていく・・・
  仁左衛門は、この役が初めてというが、堂々としたワルぶりや台詞がものの見事に決まっている。腰元の浪路役の孝太郎は相変わらず綺麗である。出雲守の梅玉が憎まれ役を旨く演じていた。

 




十二月大歌舞伎

平成16年12月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記
4世鶴屋南北 作
御存
鈴ヶ森
(ごぞんじすずがもり)
  
  1 幕

白井権八
        七之助

幡隋院長兵衛
        橋之助


  盗賊と化した雲助が多数出没する東海道品川宿はずれの鈴ヶ森。そこへ駕籠で通りかかったのが白井権八。まだ前髪を垂らした美少年である。
  盗賊の餌食になると思われた瞬間、権八の刀が一閃し、大勢の雲助を追い散らしてしまう。その様を見ていたのが大親分の幡隋院長兵衛であった。二人は意気投合し江戸での再開を約すのであった・・・・
  いつも単調な殺陣が、今回のものは見事に決まっている。コミカルな演出も良かった。立ち回りで登場する名台詞も決まっていた。


阿国歌舞伎
    夢 華
(おくにかぶき ゆめのはなやぎ)
  
  長唄囃子連中

出雲の阿国
        玉三郎

名古屋山三
        段治朗

男 国猿
        猿 弥
男 阿近
        右 近

女歌舞伎
       笑三郎
         笑 也
         春 猿

  阿国の率いる歌舞伎踊りは、艶やかで、もう素晴らしかった。玉三郎と澤瀉屋若手勢揃いでの踊りが圧巻であった。
  出雲大社の巫女阿国が、歌舞伎踊りで耳目を集めようと、京の都にやってくる。男国猿や阿近を初め京の人々は阿国の踊りに夢中になる。
  そんなところへ、死んだはずの歌舞伎役者名古屋山三が現れ、お国と仲睦ましく躍りだす・・・
  綺麗で華やかの舞台であった。

大佛次郎作
大場正昭演出

たぬき

  2 幕 4 場

柏屋金兵衛
        三津五郎
女房おせき
        扇 雀

妾お染
       福 助

お染の兄太鼓持蝶作
        勘九郎

狭山三五郎
       橋之助

  はやり病の「ころり」で死んだはずの道楽亭主柏屋金兵衛が、荼毘に付される直前に息を吹き返す。今更うるさい女房のいる家には帰る気にはなれず、妾お染めと第2の人生を楽しく過ごそうと思い、妾のいる家に向かう。
  ところが生前はあれほどいい仲であったはずのお染は、もう別の愛人狭山三五郎を引き込んでいた。
  ショックを受けた金兵衛は、甲州屋長蔵と別人になり猛然と働き、再度財を無し、別人として戻ってくる。
  そして、お染めの兄蝶作と合い、丁々発止の化かしあい、とぼけ合いと話が発展していく・・・・
  結局は元の鞘に納まるのであるが、原作の良さと、三津五郎、勘九郎達の達者な演技で、あっという間に大団円と言った感じであった。
  死んで見て始めて分かる、周囲の気持ちと自分の価値、可笑しくも切なく描かれていた。



渡邊えり子作
藤間勘十郎振付

苦労納御礼
 
(くろうのかいあり
    かんしゃかんしゃ)
今昔桃太郎
 (いまむかしももたろう) 
 
  竹本連中
  長唄連中 

河内山宗俊
        仁左衛門

松江出雲守
       梅 玉


宮崎数馬
        信二朗

腰元浪路
         孝太郎


和泉屋清兵衛
        段四郎

  
 
  これはもう傑作ミュージカルであった。
  鬼退治から幾年月、今では、自分で歩くことも出来ず、醜く太った身体を台車に乗せ、犬と猿に引かせる、だらけ切った姿になっていた。
  これは、鬼が桃太郎を骨抜きにして、国をのっとろうと言う作戦の一環であったが。
  そこへ、鬼が上陸して、鬼の世界に変えて行こうとしていることを知る。気が付くと、周りは鬼ばかりの世の中となってきているが、どうすることも出来ない・・・・
  和楽器に現代的なリズムと踊りを盛り込んだ新手の舞踊劇である。もう最後まで抱腹の展開で、無条件で楽しい桃太郎であった。
  それにしても、勘九郎の踊りは最後までお見事である。タイトルではないがホント、ご苦労様であった。竹本連中、長唄連中の熱演も凄かった。
  まさに年忘れ歌舞伎に相応しい大舞台であった。



平成13年平成14年平成15年平成16年



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