楽譜を読んでみよう その2
1.好きな曲を選ぼう
好きな曲を選ぶに越したことはない。ラクに読んでみたいのなら、楽器が少なくて、遅い曲にしよう。この場合、ピアノソナタがちょうどよいだろう。大抵、速い楽章と遅い楽章がある。当然、楽譜は2段しかない。
しかし、実際に楽譜を読んでみようと思う人は、おそらく管弦楽の曲を読みたいと思うのではないだろうか。それも結構。私が最初に買った楽譜は、交響曲第1、2、5、8番だった。苦労は多いが、それに見合った面白さはお約束しよう。何度読んでも新しい発見がある、それが楽譜なのだ。
もし可能なら、主役がはっきりしている曲、つまり協奏曲を選ぶとわかりやすい。特にピアノ協奏曲は追いかけ易いだろう。バイオリンと管弦楽のためのロマンスop.50(下例)は、主役のバイオリンが常に演奏していて遅めの速度でもあり、そこそこ面白く短い作品なので楽譜を読む練習には好都合である。
↑「ロマンス」は、主役のバイオリンが最初から演奏してくれる。クラリネット、トランペット、ティンパニ等が無いので簡素な様子を示している。
2.楽譜の仕組みを知ろう
知っている人には申し訳ないが、基本の基本として、管弦楽の楽譜を説明してみる。
各段の左端に2種類のくくりの記号があるので、楽器のグループをそこで判断できる。楽器の構造によるくくりの記号@と、同じ種類の楽器によるくくりの記号Aの2種類だ。基本的に高い音を出す楽器が上、低い音を出す楽器は下に並ぶ。昔は並びがかなり柔軟だったが、19世紀も後半になると並びが固定されてきた。まれに妙なくくり方をした楽譜もあるが、気にしない。
古典派の管弦楽なら、9段から16段くらいである。
右は「フィデリオ序曲」の冒頭の例。上から木管楽器(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット)、金管楽器(ホルン、トランペット、トロンボーン)、打楽器(ティンパニ)、弦楽器(第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス)という現代のお約束。この例では楽器名はイタリア語で、語尾が
i
になっているのは複数形。ポケットスコアでは、2〜3本の同じ楽器を1段で表示してしまう。弦楽器は複数人が当然であるが、全員が同じ音を出すのが通例なので、楽器名は単数形になっている。ホルンが4本なので2段になっているのがわかる。実際にはトランペットのほうがホルンより高い音を出すが、習慣上ホルンが上に来る。
古典派の管弦楽では通常同じ種類の管楽器が2本ずつ(例えばフルートが2本)で、これを2管編成といい、文章の流れによっては「2管」と略す。同じように3管編成、4管編成と増えていくが、これはロマン派以降の話。
音楽の授業では段の最初に♯や♭をまとめて書くことを教えるが、その常識が通用しない習慣もある。たとえばティンパニとか。クラリネット、ホルンなどの移調楽器は説明が難しいので、ここでは無視しておく。学校で習わないハ音記号も、いずれわかるので無視しよう。
たった1小節を出しただけなのに、かなり複雑に思うだろう。しかし楽譜の難易度としては、やっと並のレベルだ。下に上級クラスとでもいうべき4管編成の楽譜を示しておこう。見方の基本は変わらないので、段が多くても後を追うのはそれほど難しくはない。
↑R.シュトラウス「アルプス交響曲」。楽器名はドイツ語。
3.楽譜を読むのに予備知識は必要か
今の音楽の教科書から判断すると、義務教育終了程度でよいと思う。楽譜にはいろいろな書き方や記号があるが、それらの多くは義務教育程度の音楽の授業では学ばないことばかりなので、かえって気にする必要が無い。いやもう、高校の音楽の授業を受けても結局わからない。つまり、学校教育では大したことは学ばないのだ。そりゃそうだ。
幸いなことに、特にクセのある演奏者(*1)でない限り、楽譜に書いてある内容をだいたいそのまま普通に演奏してくれるので、記号がわからなくても余計な心配はいらないのだ。よく考えればあたりまえのことだ。
もうひとつ注意をあげておくなら、バロック音楽では楽譜に書かれていないこと(*2)をアドリブで付け加える場合があるくらいか。
*1
一部で妙にちやほやされる演奏者には、クセのある人が多い。フルトヴェングラーとかグールドとかアーノンクールとか。
*2
旋律が変わってしまうのではなく、音の飾り付けに関するものが多い。
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(2011/5/30)