歌 舞 伎
− 観 劇 記 -

平成17年

1月:鳴神、土蜘、新皿屋月雨暈


3月:ヤマトタケル

5月:瞼の母

6月:盟三五大切、良寛と子守、教草吉原雀

7月:十二夜

8月:もとの黙阿弥

月:正札附根元草摺、菅原伝授手習鑑、豊後道成寺、東海道中膝栗毛

10月:恋ぶみ屋一葉

11月:日向嶋景清、鞍馬山誉鷹、連獅子、大経師昔暦

12月:弁慶上使、猩々・三社祭、盲目物語


初春大歌舞伎

平成17年1月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記
歌舞伎18番の内
鳴 神
(なるかみ)

  1 幕

  大薩摩連中
  
  

鳴神上人
        三津五郎

雲の絶間姫
        時 蔵

所化白雲坊
       秀 調

所化黒雲坊
        桂 三
白井


  朝廷に恨みを抱く鳴神上人は、三千世界の竜神を、大滝の滝壺に封じ込めてしまう。そのため、一滴の雨も降らず、日照り続きで、民衆は苦しみに喘ぐ日々を余儀なくされている。
  そこで、朝廷は雲の絶間姫を上人のもとに遣わし、色香で上人を堕落させ、龍神を解き放ち、雨を降らせようとするお話。
  絶間姫が、上人を誘惑する様が実に愉快に描かれている。高僧役の三津五郎が、美女に篭絡され、破戒の道を辿っていく様が迫真的で、騙されたと知った時の、鳴神の怒りを豪快に演じきった舞台である。
  時蔵の姫も、なかなか魅力的な役を演じていた。脇を固めた、白雲坊、黒雲坊も良かった。


河竹黙阿弥 作
新古演劇10種の内

土 蜘
(つちぐも)
  
  長唄囃子連中

僧範実は土蜘の精
        吉右衛門

源頼光
        芝 翫


太刀持ち音若
        児太郎

侍女胡蝶
        福 助

        
平井保昌
       段四郎

        

  平安時代、病の源頼光の所に、薬を持って侍女の胡蝶が来る。そして、慰みにと都の紅葉の名所の様子をしっとりと踊り聞かせる前半。
  そして、次に比叡山の僧範籌を名乗る男が訪れてくる。が、次第に尋常でない振る舞いをするようになり、太刀持ちの音若に見破られる。
  僧は、土蜘(くも)の精であった。命を受けた平井保昌は四天王と土蜘退治に出かけ、見事退治するという筋。
  土蜘が、千筋の白糸を放射状に繰り出す見事な立ち回りは圧巻であった。

河竹黙阿弥 作

新皿屋舗
  月雨暈

(しんさらやしき
  つきのあまがさ)

  魚屋宗五郎
  
  2 幕

魚屋宗五郎
        幸四郎

女房おはま
        時 蔵

小奴三吉
       染五郎

磯部召使おなぎ
        高麗蔵



  
  魚屋宗五郎は、屋敷奉公に出た妹が不義の咎でお手打ちとなったと聞いて、悲嘆にくれていたが、召使おなぎから、悪人達の密事を立ち聞きしてしまっため、罪を着せられて殺されたこと知る。
  日頃の酒乱のため、酒を断っていたが、こんな酷い話は無いと、女房おはまの静止も聞かず、酒を煽り始める。そして、酔った勢いで、屋敷へ乗り込み・・・・
  飲む前の殊勝な宗五郎が、酒を飲むたびに人が変わり、命を投げ出して屋敷に乗り込む様は、もうお見事であった。
  後を追う女房おはまを演じる時蔵は流石に、難しい役を良くこなしている。染五郎の三吉も軽妙な役回りを見事に演じていた。
  何度見ても、いい芝居である。



3,4月公演

平成17年3月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

スーパー歌舞伎
ヤマトタケル


  梅原 猛作
  市川猿之助
      脚本・演出
  
  

ヤマトタケル
      市川 右近

タケヒコ
     市川 段治郎

熊襲弟タケル
     市川 猿弥

弟橘姫
     市川 春猿


兄橘姫
     市川 笑也



     金田 龍之介



  謀反を企む双子の兄を、間違って殺害した小碓命(おうすのみこと、後のヤマトタケル)は、父帝の怒りを買い、未だ大和に従わない九州の熊襲(くまそ)の単独での征伐を命令される。
  唯一人乗り込んで、熊襲の首領タケル兄弟を打ち、大和に戻るが、帝の怒りは解けず、今度はタケヒコと蝦夷征伐を命じれる。
  途中、弟橘姫(おとたちばなひめ)を失うが、見事蝦夷を平定し、その帰路、伊吹山の山神を打つが怪我をし、命を失うと言う御馴染みの物語。
  絢爛豪華な舞台と衣装、場面転換の見事さ、感動的なラスト、そして役者の力演と相俟って、最高のエンターティメントとして纏められている。まさにスーパー歌舞伎の原点である。
  


5月公演

平成17年5月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

長谷川 伸作
瞼の母


  村上 元三監修
  金子 良次演出
  
  

番場の忠太郎
      舟木 一夫

金町の半次郎
     櫻木 健一

半次郎母おむら
     一條 久枝

半次郎妹おぬい
     吉野 悦世

夜鷹おとら
     英 太郎


水熊のおはま
     香川 桂子


水熊娘お登世
     長谷川 かずき

  江州(滋賀県)うまれのやくざ渡世の忠太郎は、5歳の時に生き別れになった母を慕って江戸に来ていた。
  名前も顔も知らない母を探し回っていたが手がかりがつかないまま一年以上が過ぎていた。
  柳橋の料亭水熊の前で、乱暴されている夜鷹おとらを助けたところから話が展開していく。おとらより水熊の女将おはまが、以前に江州に息子を一人残してきたという話を聞きだす。
  意を決しておはまに会いに行くが、一人娘お登世に婿をとる予定のおはまは、実の子と知りながら、冷たく追い返してしまう・・・
  御馴染みの芝居は、見る方も余裕をもって見ること出来る。展開が解っていても、名作は何度見ても良い。いつも新しい楽しみがある。
  舟木一夫は、当然はまり役であるが、今回は、一條久枝、香川桂子の脇役が良かった。
  金子良次の演出も良かった。
  



6月大歌舞伎

平成17年6月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

四世鶴屋南北生誕250年


四世鶴屋南北作
郡司正勝補綴・演出
織田絋二演出

盟三五大切
  (かみかけて
    さんごたいせつ)

  三幕六場
  
  

薩摩源五兵衛
       吉右衛門

笹野屋三五郎
       仁左衛門

芸者小万(実は妻お六)
       時  蔵

六七八右衛門
       染五郎

芸者菊野
       孝太郎



  いろいろあって、久しぶりの歌舞伎観劇であった。それも桟敷席である。2度目であったが、やはり歌舞伎座の桟敷席は最高である。周囲の人を気にせずに、思う存分芝居を楽しめる。
  今回は御馴染みの三五大切で、私自身も二度目であった。もっとも前回は役者が違い、源五兵衛役は幸四郎、三五郎役は菊五郎であった。
  同じ芝居でも役者が違うと、別の芝居を見ているようで、こうも違うものかと思った。
  話は、船頭の笹野屋三五郎は、父親が旧主のために必要とする百両を調達するため、妻のお六を芸者小万と名乗らせ、稼がせている。
  その鴨が、お万に惚れ込んでしまった薩摩源五兵衛である。そして三五郎と小万は共謀して、源五兵衛の手に入れた百両を奪ってしまう。怒った源五兵衛は・・・
  吉右衛門の源五兵衛はなかなか難しい役を旨くこなしている。三五郎の仁左衛門、源五兵衛の元家来六七八右衛門の染五郎、そして小万の時蔵と評判どおり見せてくれた。
  今回は作者四世鶴屋南北生誕250年を記念しての上演であった。
  

坪内逍遥作

良寛と子守

 
二世藤岡勘祖 振付
  清元道中
  竹本連中


良寛
      富十郎

子守およし
      尾上右近
  
  越後国の地蔵堂前。子守のおよしが子供達と遊んでいる。そこへ、ほろ酔い加減の良寛が通りかかり、子供達と遊ぶさまを描いた舞踊劇。
  富十郎の長男大、と未だ2歳前の長女渡辺愛子が出演していた。これはご愛嬌であった。


教草吉原雀
  (おしえぐさ
   よしわらすずめ)
  
  長唄囃子連中


鳥売りの男
       梅 玉

鳥売りの女
       魁 春

鳥刺し
       歌 昇



  豪華な舞台と、長唄の名曲として知られる風俗舞踊である。
  江戸の吉原仲之町に現れた鳥売りの夫婦と、鳥刺しの男が、その由来を語り、息の合った見事な踊りを披露する。
  ただただうっとり。最後の変化はただただもう、お見事。脱帽であった。



7月大歌舞伎

平成17年7月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

W.シェイクスピア作

小田島雄志訳
今井豊茂脚本

蜷川幸雄演出

十二夜
  (じゅうにや)

  三 幕
  
  

斯波主膳之助、琵琶姫
       菊之助

織笛姫
       時 蔵

大篠左大臣
       信二郎

右大弁安藤英竹
       松 緑

丸尾坊太夫、捨助
       菊五郎



  あのシェイクスピアの名作「十二夜」が、蜷川幸雄の演出で、歌舞伎座で初上演。NHKや他のTVでも、いろいろ話題になった作品である。
  幕開きから、凝りに凝った舞台には圧倒された。特に舞台全面に鏡を用いた演出は見事であった。  シェイクスピアのロマンティック・コメディーを歌舞伎化するというのであるから、演出も凝りに凝っている。
  双子の兄妹が、海賊に襲われた上に嵐に遇い遭難。妹の琵琶姫は男装し、獅子丸と名乗り、大篠左大臣のもとに小姓として奉公。
  左大臣は公家の織笛姫に心を奪われているが、織笛姫より全然相手にされないため、小姓獅子丸に恋の使いを命じるが、何と織笛姫は小姓の獅子丸(実は琵琶姫=女)を好きになってしまう。
  一方琵琶姫は、左大臣が好きで、また右大弁の安藤英竹と丸尾坊太夫もまた織姫に恋心を抱いている・・・・・
  そこへ、琵琶姫と瓜二つの兄斯波主膳之助(二役)がやってきて、琵琶姫と間違えられて一騒動。
  そして、互いに縺れた恋を、どう纏めて行くかというお話。
  歌舞伎とはいえ、原作はシェイクスピアである。あの台詞回しはもうシェイクスピのものであるが、よくぞここまで歌舞伎として纏め上げたものである。
  二役、いや三役の菊之助が、さすがに旨く演じ分けていた。とぼけた松緑や恋狂いの菊五郎も愉快であった。
  しかし、舞台も豪華で、役者も力演していたが、芝居としては、もう一つの所があった。話の展開にも無理があり、脚本の練り直しが必要と感じた。
  次回の上演に期待しよう。
  


8月公演

平成17年8月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

井上いさし作

木村光一演出

もとの黙阿弥
  (もとのもくあみ)

  浅草七軒町界隈

  三 幕
  
  

座頭・坂東飛鶴
       高畠淳子

番頭
       村田雄浩

川辺男爵家跡取り
       筒井道隆

川辺家書生
       柳家花緑

川辺家姉加津子
       池畑慎之介


政商長崎屋商会真五郎
      
 辻萬長

長崎屋娘お琴
        
田畑智子

長崎屋女中お繁

       横山めぐみ

  これは面白かった。良く出来ている。
  舞台は浅草七軒町の小さな劇場・大和屋。しかし、今は興行停止処分中。仕方無しに、座頭と番頭は「坂東飛鶴よろず稽古指南所」なる看板を出し、日々の糧を稼いでいた。
  そこへ、川辺男爵の跡取りと、書生が訪ねてきて、踊りを習いたいという。縁談の相手と鹿鳴館の大舞踊会で踊らないといけない羽目に成ったとのこと。
  そこへ、今度は長崎屋商会の娘と女中がやってきて、同じく踊りを教えて欲しいという。
  二人は、まだ互いに顔を知らない縁談相手であった・・・・その非喜劇の顛末はと最後まで見事な展開である。
  浅草オペレッタあり、新劇ありと、サービス満点の上演である。特に楽隊を使った舞台は盛り上がった。
  


9月大歌舞伎

平成17年9月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

正札附
  根元草擦

(しょうふだつき
    こんげんくさずり)

   長唄囃子連中
  
  

曽我五郎時到
        橋之助

小林妹舞鶴
        魁 春

  曽我五郎が、逆沢瀉の鎧(よろい)を小脇に抱え、父の敵のもとに駆けつけようとすると、舞鶴が、五郎を引き留めようと、鎧の草摺(くさずり、鎧の胴の下に垂れた裾)に手をかけて互いに引き合う舞踊劇。
  魁春の演じる舞鶴が、なんとも女らしく、華やかであった。
  

菅原伝授
   手習鏡

(すがわらでんじゅ
    てならいかがみ)

  賀の祝
  
  一幕


桜丸
        時 蔵

桜丸女房八重
        福 助

梅王丸
        歌 昇

松王丸
        橋之助

白太夫
        段四郎

 
 三つ子の兄弟であるが、仕える主君が敵対しているため、仲たがいしている兄弟。
 今日は、父である白太夫の70歳の誕生日の為、兄弟ともども女房連れで父の元に集まるが、梅王丸と松王丸は、顔を合わせるなり喧嘩を始める始末。
 そんな中、桜丸は、悲壮の覚悟をしている。菅原道真の流罪の原因を作ってしまったことを悔い、自害しようとしている・・・
 祝賀気分の中、死を決した息子を思いやる白太夫の心の機微、そして妻八重は、と悲劇はクライマックスへと向かっていく。
 前半の兄弟の豪快な喧嘩と後半のドラマは見事な構成で、最後まで見せてくれた。


豊後道成寺
(ぶんごどうじょうじ)

   清元連中

清姫
        雀右衛門
       
 多くの娘道成寺ななかで、今回は、清元らしく、流麗で、道成寺の本筋をさらりと描いた舞踊。人間国宝である雀右衛門(大正9年生まれ、85歳)の独演。

十辺舎一九原作
木村綿花 作
奈河彰輔 脚本演出

弥次郎兵衛、喜多八
東海道中
    膝栗毛


 江戸日本橋の場から
 尾張地球博の場まで

 一幕

弥次郎兵衛
        富十郎

喜多八
        吉右衛門

投げ節お藤
        福 助

巫女細木妙珍
        歌 江

尾張万博守
        梅 玉
 
 富くじがあたり、お伊勢参りに出かける弥次郎兵衛と喜多八。
 朝、暗いうちにお江戸日本橋を旅立ち、川崎、小田原と愉快な旅を続けて行く。
 箱根山中では雲助に襲われた旅人を助け、番隋院長兵衛に間違われたり、三島の占い師にはこっぴどく甚振られたり、大井川では嵐に襲われたりと散々な旅となる。
 そして、最後は愛知万博会場へと、奇想天外な展開で楽しませてくれる。
 途中、盗人や敵討ちや、飯盛り女と様々の人と関わりながら、おっちょこちょいで、お人好名コンビの珍道中が面白く演じられている。
 高齢の人間国宝富十郎が、若い役を見事に演じていた。


10月公演

平成17年10月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

斎藤雅文作
江守徹演出

恋ぶみ屋一葉

(こいぶみやいちよう)

   三幕
   
平成17年度
 文化庁芸術祭参加
  
  

前田奈津
       浅丘ルリ子

加賀美涼月
       高橋 英樹

小菊
      光本 幸子

書生羽生草助
      滝川 英治

芸者桃太郎
      河内奈々子


  明治43年。奈津は娘時代に樋口一葉に憧れ、尾崎紅葉の門下生として小説家を志していたが、一葉の死とともにその夢を諦め、今は一葉ゆかりの下谷龍泉寺町で、吉原の遊女や近所の人の手紙の代筆をする恋文屋として暮らしを立てていた。
  同じ紅葉の門下生で、奈津の後輩に当たる涼月は、今は売れ子の小説家となったいた。奈津はかつての文学仲間として、涼月の書く小説の相談役などをしていた。 
  そこに小説化希望の初心な草助が書生として弟子入りしてくる。ところが、この草助は、かつての涼月の恋人で、師匠の紅葉に強引に別れさせられた芸者小菊の子であった。
  死んだと思っていた小菊との21年ぶりの再会やその恋文の代筆をしていた奈津、草助の好きな芸者桃太郎をからめて、明治の下町情緒たっぷりに舞台は心地良く進行して行く。
  それぞれの人生の機微を旨く描いて、実に面白く纏められている。
  
浅丘ルリ子や高橋英樹の舞台を見るのは始めてあったが、余裕をもって、なかなか旨く演じている。脇役も見事であったが、光本幸子の演技が特に光っていたのは流石であった。 


11月大歌舞伎

平成17年11月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

松 貫四作
嬢景清八嶋日記より

日向嶋景清

(ひにむかうしまの
       かげきよ)

   一幕
 
  
  

悪七兵衛景清
        吉右衛門

娘糸滝
        芝 雀

土屋郡内
       染五郎

天野四郎
       信二郎


  源氏との戦いに敗れ、ひとり生き残った平家の大将景清は、自らの眼球を取り出し盲目となり、日向国でひっそりと暮らしている。
  そこへ、2歳の時生き別れた娘の糸滝が訪ねて来る。落ちぶれた姿を娘に見せまいとする父と、父のために、身を売って得た金を渡そうとする娘。
  人形浄瑠璃の「嬢景清八嶋日記」をもとに歌舞伎化したもの。父と娘の親子愛の物語で見せ場の多い舞台である。
  吉右衛門と芝雀の熱演が感動的であった。
  

今井豊茂作

鞍馬山誉鷹

(くらまやま
   ほまれのわかたか)
 
 中村大改め 
 初代中村鷹之資
        披露狂言

 

牛若丸
        鷹之資

鷹匠諏訪兵衛
        富十郎

母常磐御前
       雀右衛門

 
  富十郎の長男、中村大改め、初代中村鷹之資の襲名披露公演。幕の最後の口上は、何度見ても、歌舞伎の醍醐味である。
  鞍馬山で、夜な夜な不審な物音がするという噂が立ち、鷹匠達が詮議に向かう。音の正体は牛若丸が天狗を相手に武者修行をする物音であった。
  と、牛若丸が幼い身で、大勢を相手に立ち回りをする様が、なんとも可愛い舞台であった。


 
河竹黙阿弥作

連獅子

 (れんじし)
 長唄囃子連中
 

狂言師右近、親獅子
        幸四郎

狂言師左近、仔獅子
        染五郎

法華の僧蓮念
       玉太郎

浄土の僧遍念
       信二郎


  今回は、幸四郎と染五郎の連獅子である。
  親が仔を千尋の谷に突き落とすという、厳しい獅子の子育ての様子を踊って見せた後、獅子の精に姿を変え、赤と白の長い毛を様々に操っての毛振りは、相変わらず見事である。
  千尋の谷に突き落とした後の、仔獅子の様子を心配そうに伺う親獅子の様子は、なかなかのものである。
  一方、仔獅子の染五郎の動きはダイナミックで、見応えがあった。最後の親子の毛振りも、揃ってはいなかったが、それを補って余りある活力のある舞台であった。
  間狂言の宗論(玉太郎、信二郎)は綺麗に決まって、大いに楽しまさせてもらった。

 
近松門左衛門作
おさん・茂平

大経師昔暦

 二幕三場

茂平
        梅 玉

おさん
        時 蔵

女中お玉
       梅 枝

大経師以春
       段四郎

番頭助右衛門
       歌 六


  表具師の大経師以春は、家業の暦の発送時期で忙しかったが、妻のおさんの隙をみては、女中のお玉に言い寄っている。
  そして、今夜お玉の寝所に以春が偲びよって来ることを知ったおさんは、お玉とすりかわって寝所で待っていると、そこにやってきたのは以春では無く、手代の茂平であった。
  お互いにそうとは知らずに密通してしまった二人は・・・・
  御馴染みの近松門左衛門の世話物で、複雑な人間模様が見事に描き分けられている。
  今回はお玉の梅枝と番頭の歌六の演技が目立っていた。またラストのおさん(時蔵)の演技は、迫真的で見事であった。


12月大歌舞伎

平成17年12月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

御所桜堀川夜討

弁慶上使

(べんけいじょうし)

  一幕
 
  
  

武蔵坊弁慶
        橋之助

侍従太郎
        弥十郎

腰元しのぶ
       新 悟

おわさ
       福 助


  義経の子を懐妊し静養中の卿の君のもとに、弁慶が頼朝の上使として訪れる。
  その命は、平家出身の卿の君の首を討てというもの。卿の君の侍従太郎は、腰元のしのぶを身替わりに立てようとするが、しのぶの母おわさに、しのぶの父となる人に合わせるまではと頑なに拒ばまれてしまうが、弁慶がそのしのぶを切ってしまう。
  ところが、しのぶの父が、実は弁慶であることがわかり、心ならずも自分の娘を手に掛け、悔いと悲しみとで豪快に大泣き・・・・
  弁慶が生涯でたった一度契った名も知らぬ相手がおわさで、その子がしのぶであったのだ。生涯で一度だけ大泣きしたのがこの場面・・・と。
  弁慶の別の一面を描いたもので、おわさと弁慶、そして侍従太郎のからみが実に見事である。
  橋之助の弁慶も豪快であった。


猩々
三社祭


(しょうじょう、
    さんじゃさい) 
  

猩々、悪玉
        勘太郎

猩々、善玉
        七之助

酒売り
       弥十郎

 
  水中に棲み、酒が無類に好きな聖獣、猩々。今回は、勘太郎、七之助兄弟による舞台である。
  酒売りのところに、少年の姿となった二匹の猩々が現れ、酒を酌み交わし、酔いとともに、舞を踊り始める。そして、別れに、酒売りに汲めども尽きぬ酒の壷を与え、その場より去っていく。
  若々しく、優雅で息のあった猩々であった。
  そして、三社祭りは、演出が凝っていた。隅田川に浮かぶ船上に、投網を打つ二人の漁師(勘太郎、七之助)がスポットを浴び登場。
  最初は、山車人形風のぎごちない動きの踊りであるが、途中より滑らかで、動きの早い踊りに変化し、最後は速度の速い、躍動的な踊りとなる。
  若さ溢れる、二人の踊りに思わず引き込まれてしまう程、見事な舞台であった。

谷崎潤一郎原作
宇野信夫脚本演出

盲目物語

 (もうもくものがたり)

 三幕六場
 

弥吉、秀吉
        勘三郎

柴田勝家
        橋之助

浅井長政
       薪 車

お市の方
       玉三郎

茶々
       七之助

  信長に政略結婚させられた上、夫の浅井長政を殺されたお市の方を、慰めるのは盲目の弥市の療治と唄であった。
  弥市は密かにお市の方を慕っているが、柴田勝家と秀吉も思いを寄せていた。結局、お市の方は柴田勝家と再婚し、弥市も新しい城(越前)に同行する。
  しかし、勝家は秀吉に攻め込まれ、お市の方と共に天守閣で自刃してしまう。
  やがて、秀吉はお市の方の長女である茶々を側室に迎えるが、弥市は、落ちぶれて流浪の身となるが、なお、お市の方を慕い続けていた・・・・
  舞台で奏でる、お市の方の琴と弥市の三味線、唄が哀切さを漂わせ、演出もさることながら何とも見事な演技である。玉三郎の琴の音はいつものことながら見事であるが、今回の勘三郎の三味線と唄も、なかなか聴かせた。
  

 





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