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ヴァージナルの前に立つ女性と座る女性

 ヴァージナルの前に立つ女性と座る女性は、以前にコメントしなかった作品に掲載していました。

 以前にこの作品にコメントしなかった理由は、この女性たちの顔が、肖像画みたいでトキメキを感じなかったためです。また、色々の物の配置も平凡で、好きになれませんでした。


 コメントしてみようと思ったのは、名画に教わる名画の見かた・56ページで二枚で一つと考えることを教わったからです。そう考えていくと、この二つの絵は面白いです。見事に対をなすのです。


 まず、立てっている女性は、左の顔を前にこちらを見ています。座っている女性は、右の顔を前にこちらを見ています。対称的です。立っている女性では、左に窓があり、座っている女性では、カーテンが左にあり、窓はありますが、光が入って来ていません。立っている女性の絵では、手前の右にいつものイスがあり、座っている女性の絵では、手前左にヴィオラ・ダ・ガンバが描かれています。


 しかし、この二つの絵の1番のポイントは、壁の画中画にあります。立つ女性の背景の画中画は、ヤン・ウェイナンツ?によるとされる、空の青さが引き立つ風景画と、今まで描かれかかって消されていた、キューピットの絵が、ついに描かれました(⇒フェルメールは、キューピットがお好き?)。この絵は、オット・ファン・フェーンの銅版画からヒントを得たものとされています(⇒フェルメール・122ページ)。キューピットは、『貴方だけを愛している』という寓意がこめられています。


 一方座っている女性の絵の中に描かれている画中画は、『取り持ち女』です。これは、合奏の中でも画中画として描かれています。この絵の意味するものは、快楽・性欲で、キューピットと全く異なります。


 一方共通点としては、首輪のようなネックレスと袖の細かい描写のドレスで、これは皺まで細かく描かれています。特に、立てっている女性の赤い刺繍のようなリボンは、大変細かく、『レースを編む女性』の糸を思い出します。また、足元の市松模様とタイルも共通項目です。

ヴァージナルの前に立つ女性 ヴァージナルの前に座る女性

 
 この二つの絵は、制作年は異なるとされています。立つ女性が描かれたのが1670年前後、そして座る女性が描かれたのが、1675年頃です。座る女性は、現存するフェルメール作品の最後の作品かもしれません。


 このように見ていくと、二つの絵が表すものは、矛盾する存在としての、人間そのものかもしれません。


(2002年10月10日作成)



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