歌 舞 伎
− 観 劇 記 -

平成19年

2月:仮名手本、忠臣蔵

3月:阿国

4月:當年祝春駒、頼朝の死、男女道成寺、菊畑

5月:泥棒と若殿、勧進帳、与話情浮名横櫛、女伊達

7月:
十二夜

8月:銭形平次/蛍火の女

10月:赤い陣羽織、恋飛脚大和往来、羽衣

11月:種蒔三番叟、傾城反魂香、素襖落、曽我綉侠御所染




二月大歌舞伎

平成19年2月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

通し狂言
仮名手本
 忠臣蔵

(かなてほん
   ちゅしんぐら)

大序
 鶴ヶ丘社頭
  兜改めの場

三段目
 足利館門前
  進物の場
 同松の間
  刃傷の場
 
四段目
 扇ヶ谷塩谷冶判官
  切腹の場

 同表門
  城明渡しの場

浄瑠璃
 道行旅路の花婿


   

高師直
        富十郎

塩冶判官
       菊五郎

大星由良之助
       幸四郎

早野勘平
       梅 玉

腰元お軽
      時 蔵

  御馴染みの仮名手本忠臣蔵だ。今回は昼の部のみ観たが、夜の部では、五段目から十一段目まで演じられる。
  山崎街道鉄砲渡しの場、二つ玉の湯、与一兵衛内勘平腹切の場、祇園一力茶屋の場、高家表門討入りの場、奥庭泉水の場、そして炭部屋本懐の場と大団円を迎える次第だ。

  開幕前の仮名手本忠臣蔵恒例の人形による「人形口上」、そして、幕が開くと、人形の様に頭をもたげた登場人物が、一人一人、息を吹き込まれ、顔を上げてくる儀式的演出は心憎い。
  さて、物語は詳しい説明もいるまい。高師直に散々侮辱された塩冶判官が終に刃傷沙汰を起こし切腹。そして家名断絶、城明渡し・・・・
  人間国宝の富十郎の憎まれ役(高師直=吉良)ぶり、菊五郎の苦渋の演技(塩冶判官=浅野)、そして部下をまとめ城開場に至る場での決断(大星由良の助=大石内蔵助)の競演は、圧倒的であった。道化役の師直の家来(翫雀)も、なかなか楽しく見せてくれた。
  昼の部最後の浄瑠璃、お軽と勘平の名場面である。東海道五十三次を歩いている時、舞台となった藤沢の街道沿いには二人の記念碑があるのを思い出した。
  今日は節分、最後に出演者による豆まきが行われた。鬼も2匹登場する華やかさであった。歌舞伎座の大入袋に入った豆は、家に帰って酒のつまみとなった。

三月東京公演

平成19年3月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

ミュージカル
阿 国
   (おくに)



 原作
  皆川博子
  「二人阿国」

 演出
  栗山民也

   

出雲の阿国
      木の実ナナ

乞食の大将三郎左
     上条恒彦

かぶき者猪熊少将
     池畑慎之介




  天下が豊臣から徳川へ移り、戦乱の世がようやく治まった頃。京都の四条河原では、諸国から集まった芸人達で連日賑わっていた。それを仕切っているのが乞食の大将である。
  そこへ新しい芸人一座が到着。口上によって現れたのが、巫女姿の阿国であった。強引に河原で狂ったように踊りだすと、あっという間に河原の人気者となり、天下一と持て囃される。
  しかし、太平の世となり、河原での公演が禁止され・・・・  
  乞食大将と、若い第二の阿国、そして貴族でかぶき者の猪熊少将との恋をからめ、舞台を小気味良く盛り上げて行く。
  生の演奏で、音楽は初演から担当している上々台風も、なかなか良かった。猪熊少将の池畑慎之介はさすがであった。




四月大歌舞伎
二代目中村錦之助襲名披露

平成19年4月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

當年祝春駒
  (あたるとし
    いわうはるこま)



  長唄囃子連中
 

   

曽我五朗
         獅 堂

曽我十朗
        勘太郎

工藤祐経
         歌 六


  曽我五郎と十郎が、馬の頭を付けた跨り棒(またがりぼう、春駒)と言う玩具売りに姿を変え、工藤の館に入り込む・・・・・
  御馴染みの登場人物による晴れやかな祝儀舞踊


景山青果作
頼朝の死
   (よりとものし)


   一幕


源頼家
         梅  玉

畠山重保
        歌  昇

甘御台政子
         芝  翫


  頼朝の三回忌に嫡男の頼家が姿を見せないと騒ぐ群衆。また落馬が原因で死亡した時に、側に居たという畠山重保も法要に参加しなかった。
  頼朝の死の真相を知る重保は自責の念に囚われるが、やはり真相を知る頼朝の妻の政子より口止めされている。
  個人より幕府の存続を優先させる政子と、父の死に疑問を持つ頼家との葛藤を絡めて緊張感を一気に高めていく・・・
  実に良く出来た歌舞伎である。大胆な舞台設定と流麗な台詞の応酬、登場人物の心情と合わせ胸を打つ芝居となっている。
  歌昇、梅玉の熱の入った演技と、芝翫の抑えた演技が光った。


男女道成寺
   (めおとどうじょうじ)

   常盤津連中
   長唄囃子連中


白拍子桜子
         仁左衛門

白拍子花子
        勘三郎

所化
          獅  堂


  舞台中央に吊り下げた大きな鐘。そこに鐘の供養に現れた白拍子桜子、花子が奉納の舞いを優雅に舞う。
  ところが、舞ううちに桜子の烏帽子が取れ、実は狂言師左近であることがわかってしまう。
  多数の坊主に囲まれての奉納舞が華麗であるとともに美しい白拍子から狂言師への早変わりが見ごたえがあった。

  

鬼一法眼三略巻
菊畑
   (きくばたけ)

   一幕
   

虎蔵実は牛若丸
        錦之助

智恵内実は鬼三太
        吉衛門

吉岡鬼一法目
         富十郎

皆鶴姫
         時  蔵


  菊が咲き誇る吉岡鬼法目の館の庭。この館に奉公している奴の智恵内は、実は幼い時に別れた鬼一の弟で、兄が敵方である平家に与する真意を探ろうとしている。
  また、智恵内の主君である牛若丸は秘蔵の兵法虎の巻を手に入れようと姿を変え奉公している。
ところが、牛若丸に好意を抱く、鬼一の娘・皆鶴姫に素性を知られてしまう・・・
  中村信二郎改め、二代目中村錦之助が瑞々しい若衆姿の牛若丸を演じていた。
  劇中で、襲名口上があったが、今後の活躍が期待される。なお初代錦之助(萬屋錦之助)は二代目の叔父にあたる。

  


團菊祭五月大歌舞伎

平成19年5月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

山本周五郎原作
矢田弥八脚色
大場正昭演出

泥棒と若殿
  (どろぼうとわかとの)

  一幕六場
 

   

松平成信
         三津五郎

伝九朗
        松  録


  大聖寺の領主の次男成信は、家老の陰謀により廃屋同然の屋敷に幽閉され、食べるものも事欠く状態であった。そこに入って来た泥棒の伝九朗は、盗むものが無いばかりか食べ物も無い有様を見て同情し、逆に成信の身の回りをするようなる。
  悲運の若殿と泥棒の間に芽生えるおかしくも心温まる心の通い・・・
  脚色も良いが、なかなかのものであった。ただ初日であったせいもあるが、台詞や所作のとちりが目立ったのはいただけない。
  松録はこういう役をやらせると、流石天下一品である。


歌舞伎十八番の内
勧進帳
   (かんじんちょう)


  長唄囃子蓮中


武蔵坊弁慶
         團十郎

富樫左衛門
        菊五郎

源義経
         梅  玉


  御馴染みの勧進帳である。今回は團十郎の弁慶に、菊五郎の富樫であった。天覧歌舞伎百二十年記念と謳っての舞台である。
  都落ちの途中の義経主従が、山伏姿に変装して、安宅の関を通り抜けようとするが、関守の富樫にその正体を見破られてしまう。
  安宅の関での主人を守ろうとする弁慶と富樫の熱の入った掛け合いは、毎度の事であるが、見ていて気持ちが良い。

  
三世瀬川如阜作
与話情浮名横櫛
   (よわなさけ
     うきなのよこぐし)

  木更津海岸見染の場
  源   氏   店の場


与三郎
         海老蔵

お富
        菊之助

和泉屋多左衛門
          左團次


  木更津の顔役の愛妾であるお富と、大店伊豆屋の若旦那与三郎が浜辺で知り合い、逢瀬を重ねる仲となるが、顔役に知られ、与三郎は瀕死の重傷を負い、お富は身投げをする。
  ところがお富は和泉屋に助けられ囲い者となる。そこへ傷だらけの与三郎がやってくる・・・
  御馴染みの切られ与三とお富の物語である。 海老蔵、菊之助が、惚れ惚れするような美男美女を、粋な台詞を駆使して見事に演じていた。お富が、客席の中を歩く演出も新鮮であった。
  

  

鬼一法眼三略巻
女伊達
   (おんなだて)

   長唄囃子連中
   

木崎のお駒
        芝  翫

中野崎鳴平
        門之助

淀川の千蔵
         翫  雀


  吉原仲の町に颯爽と現れた木崎のお駒が、淀川の千蔵と男伊達の鳴平も太刀打ちできない勇ましさを見せる。
  まさに、江戸の域、女伊達振りである。メリハリの利いた長唄舞踊を見せてくれた。


  



七月大歌舞伎

平成19年7月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

シェクスピア原作
小田島雄志訳
今井豊茂脚本
蜷川幸雄演出

十二夜
  (じゅうにや)

     

琵琶姫
      尾上菊之助

織笛姫
      中村 時蔵

大篠左大臣
      中村錦之助

左大弁臣
      市川左團次

麻阿
      中村亀治郎

丸尾坊太夫
捨助
      尾上菊五郎

舟長磯右衛門
      市川段四郎


  一昨年に続いて2度目の観劇であった。今回再演の初日に行ったが、先月(6/28)まで福岡公演をしていたため、演出も、役者も手馴れたもので、危なげないばかりか、感動的であった。
  それほど、演出は決まっており、また役者は乗りに乗っている感じであった。
  お話の詳細は、前回(平成17年)の観劇記に譲るとして、今回は簡単にまとめてみる。
  航海中の船が難破して、双子の兄弟、琵琶姫と兄の斯波主膳之助とは、離れ離れとなってしまう。
  舟長に助けられた琵琶姫は男の姿となって左大臣に仕える。その主人左大臣は公家の織笛姫に片思い中で、男装の琵琶姫に恋の仲立ちを頼むと・・・・
  と話は展開していく。例によって、話がいろいろとややこしくなるが、鏡を大胆に使った演出で、このシェクスピアのロマンティック・コメディを実に見事に歌舞伎化して、素晴らしいものとしている。
  左團次や菊五郎、錦之助、亀治郎、菊之助、時蔵・・・・・と、すっかり油が乗っている。菊之助の男役、女形、そして極めつけは男装の女形(男が女の男装役を演じる)は、惚れ惚れするぐらい見事に決まっていた。
  実に楽しい舞台であった。



八月公演

平成19年8月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

芸能生活45周年
舟木一男特別公演

銭形平次
  蛍火の女

  
     

銭形平次
      舟木 一男

遊女お新
      長谷川稀世

女房お静
      葉山 葉子

八五郎
      櫻木 健一

虫売り宇之吉
      柴田 てる彦

清吉娘・おもん
      長谷川かずき

清吉
      丹羽 貞仁


  賭け事で多額の借金を造った深川の饅頭屋の主人の元に、貸し金の取立てにヤクザの親分が来るが、その帰途に何者かに殺されてしまう。
  その下手人として、遊女お新の身請けを考えている虫売り宇之吉が捕まる。しかし、何か訳があり、実犯人と違うと睨んだ平次は調べていくと、犯人は遊女お新であった。しかし、犯行動機が解らない。やがて、加賀に伝わる「山中節」と、訳あって引き離された母と娘の情愛が絡んでいることを突き止めて行く。
  舟木の格好良い平次が決まっていた。最後の殺陣も様になっていた。平次の二刀流ではなく、二丁十手の殺陣は傑作であったが、今回は、遊女お新の長谷川稀世と、お静の葉山葉子が光っていた。
    



十月公演

平成19年10月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

文化庁芸術祭参加
木下順二作
稲田善之演出

赤い陣羽織
 (あかいじんばおり)  
     
     1幕3場

     

おやじ
        錦之助

女房
        孝太郎

お代官
        翫  雀

代官の奥方
        吉  弥


  風采は上がらないが人の良いおやじと、美人で出来すぎた女房。その女房に岡惚れしていた代官が、おやじを捕らえ、その間に自分のものにしょうとする。
  逃げ出して、家に帰ってみると代官の赤い陣羽織と着物が炉辺に脱ぎ捨てられている。
  おやじはその着物と陣羽織を着て、代官所に行き、その奥方を襲い復讐しようとするが・・・
  実に愉快な舞台である。錦之助、孝太郎、翫雀、そして吉弥と皆、持ち味を出し、役に嵌っていた。
    


恋飛脚
  大和往来
  
  (こいびきゃく
    やまとおうらい)
   
   封印切
   新口村

     

亀屋忠兵衛
        藤十郎

傾城梅川
        時  蔵

井筒屋おえん
        秀太郎

丹波屋八右衛門
        三津五郎

父孫右衛
        我  當


  御馴染みの封印切である。飛脚の忠兵衛は、傾城梅川の身請けの手付金を払ったが、後金の工面が出来ずにいる。そんな折、丹波屋が、梅川を身請けしたいと金を持って井筒屋にやってくる。
  それを知った、忠兵衛は、思わず屋敷に届けるはずの為替の金の封印を切ってしまう。
  梅川を身請けしたのは良いが、今度は追われる身。やっと雪の降るしきる実家の水口村に辿り着く。そこで父親と再会し、再び雪の中を去っていく・・・  
  典型的な上方和事の傑作である。今回で2度目であるが、何度見ても良い芝居である。
  梅川役の時蔵、丹波屋の三津五郎、父親役の我當が舞台を締めていた。雪景色のシーンも感動的であった
    

羽  衣
  
(はごろも)
     
  長唄囃子連中


天女
        玉三郎

伯竜
        愛之助


  海辺に舞い降りた天女の松の木に架かる天の羽衣を持ち帰ろうとする漁師伯竜とそれを取り戻そうとする天女・・・
  三保の松原、羽衣の伝説をもとにし、能の風情を取り入れた新しい振り付けによる舞台である。  
  羽衣を取り返すまでの踊りは流石に玉三郎、実に感情の起伏が旨く表現され、如何にも天女らしい優雅な舞いであったが、取り返した後の天女の舞いは期待が大きかっただけに、もう一工夫欲しい感じがした。
   愛之助の男ぶりもなかなか良かった。 



十一月吉例顔見世大歌舞伎

平成19年11月 歌舞伎座

演 目 役 者 観 劇 記

種蒔き三番叟
 (たねまきさんばそう)  
     
     清元連中
     囃子連中

     

三番叟
        梅 玉

千歳
        孝太郎


  天下泰平や五穀豊穣を祈る能の「翁」を歌舞伎化したもの。芝居繁盛の願いも込めた祝儀舞踊。
  まさに、顔見世の幕開きを飾る華やかな舞踊であった。


近松門左衛門
傾城反魂香
  
  (けいせい
    はんごんこう)
   
  土佐将監
    閑居の場

  
   
     一幕  

浮世又平
        吉右衛門

女房おとく
        芝 雀

土佐修理之助
        錦之助

土佐将監
        歌 六


  絵師の又平は妻のおとくと師匠の土佐将監のもとを訪れ、土佐の苗字を許して貰えるよう願いでるが、他の弟子のような功績も無い又平は門前払いとなる。
  望みを絶たれた夫婦は死を決意し、今生の名残の自画像を手水鉢に描くと、その絵が石を貫き、手水鉢の裏側に抜ける奇跡が起きる。
  と展開して行く。実直で世渡りの下手な又平の絵への一途な情熱が奇跡を生み、大団円となるが、この難しい役を吉右衛門が見事に見せてくれた。


新歌舞伎十八番内
素襖落
  
(すおうおとし)
     
  竹本連中
  長唄囃子連中


太郎冠者
        幸四郎

姫御寮
        魁 春

次郎冠者
        高麗蔵

大名某
        左團次


  同名の狂言を歌舞伎化したコミカルな舞踊劇。主人である大名の使いで訪れた先で、姫御寮に酒を振舞われ、選別に素襖(直垂(ひたたれ)の一種)まで貰うが、酒の飲みすぎで酩酊状態。頂いた素襖を落としても気がつかない有様・・・
  愉快であった。幸四郎の大酒の飲みっぷりや、酒乱ぶりもなかなか見せてくれる。


河竹黙阿弥作
曽我
   御所染
 
(そがもよう
  たてしのごしょぞめ)

  御所五郎蔵

     二幕


御所五郎蔵
        仁左衛門

皐月
        福 助

星影土右衛門
        左團次

甲屋与五郎
        菊五郎


  侠客の御所五郎蔵は、街で星形土右衛門と鉢合わせになり、一触即発状態となるが、甲屋与五郎がその場を取り繕う。
  この二人は元同じ家中のもので、今は共に浪人となっているが、今は傾城となっている一人の女性を巡る恋敵であった・・・
  幕開きから、左右二つ設けられた花道を、二人が共に手下を連れ登場する様は圧巻であった。
  キリッとした男伊達の風情が漂う前半から、思いやりが誤解を招き、不幸の連鎖となる後半へと一気に見せてくれる芝居であった。



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