相続がはじまったときに相続する人が複数いた場合は、遺産は相続がはじまった時から全相続人の共有となります。しかし、それでは処分したり使用したりするのに不便ですので、共有となっていた遺産を分割する必要がでてきます。
このように遺産を各相続人に分配することを「遺産分割」といいます。
遺産分割の方法としては、相続人の協議によるもの、家庭裁判所の調停・審判によるもの、被相続人の遺言によるものがあります。
一般的には、被相続人の遺言があれば遺言を優先し(被相続人の意思を尊重すべきであるため)、遺言がなければ相続人全員での協議(遺産分割協議)によります。しかし、相続人間で協議(話し合い)がまとまらなければ家庭裁判所の審判によることもあります。
民法では相続人の相続割合を次のように定めています(これを「法定相続分」といいます)。なお、子供、直系尊属、兄弟姉妹については複数人いることがありますが、このような場合の複数人間の相続割合は原則として平等(頭割り)となります。
・配偶者と子供(代襲相続人を含みます)
→配偶者1/2・子供(2人以上のときは全員で)1/2
注)平成25年9月5日以前の相続においては子供が非嫡出子
のときは嫡出子の1/2となります。
・配偶者と直系尊属
→配偶者2/3・直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
・配偶者と兄弟姉妹(代襲相続人を含みます)
→配偶者3/4・兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4
注)兄弟姉妹の相続については、兄弟姉妹であっても被相続人
からみて父母が同じ兄弟姉妹と片方だけが同じ兄弟姉妹
(異父・異母兄弟)がいる場合がありますが、このような
場合には異父・異母兄弟は父母が同じ兄弟姉妹の1/2とな
ります。
・配偶者だけで、子供・直系尊属・兄弟姉妹がいない
→配偶者100%
・配偶者がなく子供だけ
→子供(2人以上のときは全員で)100%
・配偶者も子供もなく直系尊属だけ
→直系尊属(2人以上のときは全員で)100%
・配偶者、子供、直系尊属すべてなく兄弟姉妹だけ
→兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)100%
なお、民法に定める法定相続分は、必ずこの法定相続分で遺産の分割をしなければならないというものではありません。
遺言があれば遺言が優先され、遺言がなければ遺産分割協議をすることになりますが、法定相続分はその際の目安となるに過ぎません。
ただし、相続税の算定を行うときには法定相続分をベースとして相続税の総額を算定することになります。
被相続人が遺産の分割を禁止した場合を除き、相続人全員の話し合いで遺産分割をすることができます。
遺産分割協議が調えば遺産分割は終わりますが、もし協議が調わなかったり、相続人の誰かが行方不明だったり、協議を拒んでいるようなときは家庭裁判所に調停または審判の申立をするしかありません。
いずれにしても、遺産分割をするには遺産を評価することが必要となります。
遺産分割は、遺産となる物や権利の種類、性質(例えば、宅地か農地か雑種地か、貸家か借家権かなど)や相続人の年齢、職業、生活の状況などの事情を考えて公平に行うことを基準とします。しかし、遺産の状態によってはこの基準にしたがえないこともあります。
遺産分割をするにあたっては遺産を評価しなければなりませんが、遺産の評価は被相続人が亡くなった時ではなく、遺産分割をする時を基準として評価を行います。
遺産分割の方法としては、次のようなものがあります。
・個々の財産を個々の相続人に分ける方法(土地と家は配偶者に、現
金は長男に、株式は長女になど)
・遺産の全部または一部を売却して、売却代金を分ける方法
・遺産を特定の相続人に相続させ、その相続人がもらいすぎる部分を
他の相続人に支払う方法
・以上の組み合わせによる方法
なお、遺産分割協議は相続人全員が同意する必要がありますが、一人でも同意しなかったときは家庭裁判所に遺産分割の調停申立をすることになります。調停で遺産分割がまとまれば終了ですが、遺産分割がまとまらなければ家庭裁判所の審判で決められることになります。
特定の相続人が、被相続人から婚姻や養子縁組のためだったり生活費として生前に贈与されたり遺贈を受けているときの利益を「特別受益」といいます。このように特定の相続人が他の相続人よりも利益を受けているときは、その利益分を遺産分割の際に計算に入れて修正を行って遺産分割した方が公平です。
このため、特別受益が認められる場合には、原則として、その利益分を相続分算定にあたって含めて計算することになり、これを「特別受益の持戻し」といいます。なお、遺留分の定めに反しない限りにおいて、被相続人の意思で持戻しを免除することができます。
また、被相続人と一緒に農業や商店の経営をしてきた子供のように、特定の相続人が被相続人の仕事を手伝ったり、金品を支出したりして被相続人の財産を増やしたり減るの防いだりした場合には、その相続人に対して寄与に相当する額を加えた財産の取得を認める制度があり、これを「寄与分」といいます。
「特別受益」の例としては、結婚するための支度金や持参金を出してもらったとか結婚して住むために家を建ててもらったとか遺言で特別に何かの財産をもらうことになっているなどがあります。このような生前贈与などがされた時点で、贈与などを受けた者が推定相続人であれば、その者は特別受益者となります。特別受益は被相続人が持戻しを免除しない限り相続財産に含めて(贈与などをしていなかったものとして)計算することになりますが、その評価は、贈与などがあった時ではなく相続がはじまった時を基準として行うことになります。
遺産は遺言によって被相続人の意思によって自由に処分できるのが原則です。しかし、被相続人がすべての遺産を赤の他人に贈与すると遺言したら、被相続人の配偶者や子供は生活に困るような事態が起きることになります。
そこで法律は一定の相続人が最低限もらうことのできる遺産額を定めており、これを「遺留分」といいます。
遺留分を持つ相続人は配偶者・子供・直系尊属に限られ、兄弟姉妹には遺留分はありません。具体的な遺留分の割合は、次の通りです。
・直系尊属だけが相続人のとき
→遺留分全体で被相続人の財産の1/3となり、直系尊属が複数人
のときは、これを頭割りすることになります。
・上記以外のとき(相続人が配偶者だけ、子供だけ、配偶者と子供、
配偶者と直系尊属、配偶者と兄弟姉妹)
→遺留分全体で被相続人の財産の1/2となり、相続人が配偶者だ
けのときと配偶者と兄弟姉妹のときは全てが配偶者のもの、子
供だけで複数いるときは頭割り、配偶者と子供または配偶者と
直系尊属のときは法定相続割合によって遺留分が決まります。
また、遺留分を計算する基準となる財産額は、被相続人が死亡した時に持っていた財産の見積額に被相続人が他人に贈与(被相続人が死亡する前の1年間の贈与、期間に関係なく被相続人と受贈者双方が遺留分に食い込むことを知って行った贈与、結婚や生活するための資本としての贈与)した額を加え、その合計額から負債額を差し引いて計算します。
仮に、遺贈や贈与が行われたことによって遺留分を侵害された場合には、遺贈を受けた者、贈与を受けた者の順序で遺留分を取り戻す権利があり、これを「遺留分減殺請求権」といいます。なお、相続人となるはずの者は相続が開始する以前に遺留分を放棄することができますが、意に反して放棄することがないように家庭裁判所に申立をして許可を得なければなりません。
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