歌 舞 伎 − 観 劇 記 - |
平成20年
1月:雷神不動北山櫻
2月:小野道風青柳硯、菅原伝授手習鑑/車引、積恋雪関扉、仮名手本忠臣蔵/祇園一力茶屋
4月:風林火山/晴信燃ゆ
5月:毛谷村、藤娘、三社祭、勢獅子、一本刀土俵入り
7月:義経千本桜
8月:つばくろは帰る、大江山酒呑童子
9月:源平布引滝、枕獅子
10月:鶴八鶴次郎
12月:高時、京鹿子娘道成寺、佐倉義民伝
初春花形歌舞伎/成田山開基1070年記念
平成20年1月 新橋演舞場
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
通し狂言 雷神 不動北山櫻 (なるかみ ふどうきたやまざくら) |
鳴神上人、粂寺弾正 早雲王子、安倍清行 不動明王 海老蔵 雲の絶間姫 芝 雀 関白基経 門之助 文屋豊秀 段治郎 |
寛保2年(1742年)に初演され記録的な大当たりをとった作品。当時の二代目團十郎が一人で3役を勤めたものを、今回は海老蔵が一人で5役に挑むという話題作。 時は平安時代の初め、朝廷の人々に裏切られたことを恨みに思う高僧・鳴神上人は、自らの行法で京都北山の滝壺に龍神を封じ込めてしまう。その為に日照りが続き、朝廷の人や農家の人が困り果てる。さらに天下を掌握しようとする悪人やこれを防ごうとする善人達が入り乱れて、様々な人が縦横無尽に活躍するという勧善懲悪の話が絡んでくる。 まさに楽しいお芝居である。筋なんてどうでも良い。それぞれが楽しく演じ、派手なアクションを見せる(典型的な荒事)。そして最後は不動明王となった海老蔵の歌舞伎始めての空中浮遊で大団円。拍手喝采である。 海老蔵の若さ溢れる演技に乾杯。まさにそんな芝居であった。 |
歌舞伎120年/初代松本白鸚二十七回忌追善/二月大歌舞伎
平成20年2月 歌舞伎座
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
小野道風 青柳硯 (おののとうふう あおやぎすずり) 柳ヶ池蛙飛の場 |
小野道風 梅 玉 独鈷の駄六 三津五郎 |
小野道風は柳に蛙が飛びつく様を見て、橘逸勢の謀反の企みを悟り、独鈷の駄六や橘逸勢の手下たちを退治する。 有名な柳に飛びつく蛙の伝説の原拠となったもの。昭和41年初代吉右衛門が道風、初代の白鸚が駄六を演じた時以来の上演。 道風と駄六の相撲の手を取り入れた立ち回りが愉快であった。 |
菅原伝授手習鏡 車 引 (くるまびき)) |
松王丸 橋之助 梅王丸 松 録 杉王丸 種太郎 藤原時平 歌 六 |
菅丞相の舎人梅王丸と斎世親王の舎人桜丸の前に、互いの主人を追い落とした藤原時平が通りかかる。二人は恨みを晴らそうと狼藉を働くが、時平の舎人である松王丸に押し留められる。 そして、牛車から時平が現れるとその威勢に二人とも気圧されてしまう。 御馴染みの出し物であったが典型的な荒事で、楽しめた。 |
積恋雪関扉 (つもるこい ゆきのせきのと)) 常磐津連中 |
関守関兵衛 実は大伴黒主 吉右衛門 良峰少尾将宗貞 染五郎 小野小町 実は小町桜の精 福 助 |
京都逢坂の関に庵を結び、亡き仁明天皇の菩提を弔っている良峯小将宗貞の許へ恋人の小野小町がやってくる。 関守の関兵衛は二人の馴れ初めを尋ね、3人で踊りを楽しくが、関守が割符を落としたのでその素性を怪しんだ宗貞は、小町をその場からそっと立ち去らせる。 この関守を初代の白鸚が演じ、大評判を取ったと言う常磐津の大作である。 桜の精である小町が登場するシーンは、流石に見応えがあった。木の幹かその姿が浮かび上がった時は、思わず喝采であった。 |
仮名手本 忠臣蔵 (かなてほん ちゅうしんぐら) 祇園一力茶屋の場 |
大星由良之助 幸四郎 寺岡平右衛門 染五郎 遊女おかる 芝 雀 大星力弥 高麗蔵 |
祇園町で遊興に浸っている大星由良之助(大石内蔵助)の真意を確かめようと赤垣源蔵(友右衛門)や寺岡平右衛門達や、敵方に内通する斧九太夫(錦呉)らがやってくる。 平右衛門の妹おかるは、力弥からきた密書を盗み見してしまう。これを知った由良之助はおかるを身請けして殺害しようとする。 由良之助の真意を知った平右衛門は妹のおかるを・・・・ と展開する。御馴染み仮名手本忠臣蔵である。虚虚実実の展開が毎度の事ながら見事である。幸四郎の泥酔振りも年季が入っていた。 この出し物が初代白鸚の襲名披露公演であったとのこと。 |
四月
平成20年4月 日生劇場
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
井上靖原作 石川耕士脚本演出 風林火山/ 晴信燃ゆ (ふうりんかざん) |
武田晴信、山本勘助 市川 亀治郎 板垣信方 JJサニー千葉 武田信虎 笠原 章 大井夫人 仁科 亜季子 結布姫 盛田 菜生 駒井政武 橋本じゅん 三条夫人 尾上 紫 |
NHK連続ドラマの脚本をアレンジして、歌舞伎の手法を随所に取り入れた芝居。 武田晴信(信玄)を主人公にして、守役板垣信方、軍師山本勘助を中心に3時間半の舞台に見事纏め上げている。 嫡男として生まれながら父に疎まれた若き日から、その父を駿河に追放し、国主となり、諏訪を併合し、信濃へ進出して行く晴信の物語を軸に描いている。 晴信、勘助の二役早替りも見せてくれた。また廻り舞台を有効に使った時間経過描写と、戦場に向かう様を強烈な逆光で描いた演出、舞台と客席を一体化した空間設定、随所の狂言回し、時間の経つのも忘れるほどの密度の濃い展開等、少し過剰気味の所もあったが、脚本と演出の見事さに感服。 登場人物一人ひとりの人物描写も良く出来ていて楽しめた。 最後の馬に乗った晴信の宙乗りも千住明の音楽と共に、盛り上りを見せていた。良い大団円であった。 |
五月大歌舞伎
平成20年5月 新橋演舞場
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
彦山権現誓助剣 毛谷村 (けやむら) |
毛谷村六助 染五郎 お園 亀治郎 杣斧右衛門 吉之助 京極内匠 錦之助 |
豊前国彦山の麓、毛谷村に住む六助は百姓であるが剣術の使い手。みなし子を託されて養っているところに、虚無僧姿の女が現れるが、その女が六助の剣術の師匠の娘であるお園であった。 師匠が京極内匠の騙し打ちにあい殺されたことを知り、師匠の敵討ちに出立する。 最初の木刀による剣術の試合や、お園の父譲りの剣の技と云い、舞台としてはなかなかの立ち回りを見せてくれた。 亀次郎の虚無僧姿による立ち回りや、素性が知れてからの女らしい振る舞いも良かった。 |
藤 娘 (ふじむすめ) |
藤の精 福 助 |
松の古木に絡んで咲き誇る藤の花のもとに、黒い塗り笠を被り、藤の枝を手にした藤の精の登場・・・・是だけで見せてくれる御馴染みの藤娘である。 次第に酒に酔って行く様も艶やかであった。流石に福助、そんな舞台である。 |
三社祭 (さんじゃさい) |
悪玉 染五郎 善玉 亀治郎 |
二人の漁師が、浅草寺の観音像の縁起や、悪玉と善玉の面を付け、悪づくし、善づくしを踊る楽しい舞踊。息の合った若い二人が、見事な競演を見せてくれた。 |
勢獅子 (きおいじし) |
鳶頭 歌 昇 鳶頭 錦之助 |
山王祭で賑わう江戸の町。そこに集まってきた鳶頭達が、次々と披露する賑やかな踊り。無条件に楽しめるものであった。 獅子の舞など、傑作であった。 |
長谷川伸作 一本刀土俵入り (いっぽんがたな どひょういり)) |
駒形茂平 吉右衛門 お蔦 芝 雀 船印彫師辰三郎 錦之助 掘下根吉 染五郎 |
利根川に近い水戸街道取手宿で、江戸へ向かう相撲取りの駒形茂平は、ごろつきに絡まれるが、是を追い払う。しかし無一文で腹を空かしていた茂平はへばってしまう。それを見た我孫子屋の酌婦お蔦が、手持ちの金子と櫛を与えて励ます。 そして10年後、再び茂平はこの宿場に舞い戻ってくる。御馴染みの名場面の連続した芝居である。 お蔦の芝雀がなかなかであった。利根川縁の船の修理場面のセットはスケールが大きく驚いた。 |
七月大歌舞伎
平成20年7月 歌舞伎座
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
義経千本桜/ 鳥居前 (よしつねせんぼんざくら、とりいまえ) |
佐藤忠信実は源九郎狐 海老蔵 源義経 段治郎 静御前 春 猿 武蔵坊弁慶 権十郎 |
京都伏見稲荷鳥居前。兄の源頼朝に恭順の姿勢を示す義経は西国を目指してここまで来ると、静御前に京都の残るように諭し、宮中より拝領した初音の鼓を預ける。 静を置いて立ち去ると、鎌倉方の追っ手が来て、静を連れて行こうとする。その時、助けに入ったのが狐が化けた佐藤忠信であった。 |
義経千本桜/ 吉野山 (よしつねせんぼんざくら、よしのやま) |
佐藤忠信実は源九郎狐 海老蔵 静御前 玉三郎 |
義経一行が西国へ行かず、吉野山の川連法眼の所に居ることを知り、静は吉野山に向かう。 義経より預かった初音の鼓を打つと、どこからとも無く忠信が現れる。 そして、二人鼓を打ちながら、八島の合戦の様子を物語り、さらに山中に分け入っていく。 途中、忠信が何度と無く、何気なく狐の仕草をするのが見せ場。 |
義経千本桜/ 川連法眼館 (よしつねせんぼんざくら、かわつれほうがんやかた) |
佐藤忠信実は源九郎狐 海老蔵 静御前 玉三郎 源義経 門之助 川連法眼 寿 猿 |
川連法眼に匿われている義経の基に着くと、本物の佐藤忠信が参上していた。 静は鼓を打ち、忠信に化けた狐を呼び出し、斬ろうとすると狐は初音の鼓の皮が自分の親狐の皮で出来ていることを告げ、身の上話をする。 訳を知った義経はその鼓を狐にくれてやる。 喜んだ狐は忍び寄ってきた敵を倒し、最後は宙吊りになって去っていく。大団円である。 と、今回ばかりは海老蔵の独り舞台といって良いほどの活躍である。若さ溢れる狐役は、お見事であった。今まで見た千本桜の中で一番の出来であった。演出も他の出演者も素晴らしかった。 |
八月納涼大歌舞伎
平成20年8月 歌舞伎座
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
川口松太郎原作 斎藤雅文補綴 大場正昭演出 つばくろは帰る 二幕 |
大工文五郎 三津五郎 芸者君香 福 助 安之介 小 吉 八重菊おしの 扇 雀 |
大工文五郎は、東海道小田原宿で孤児の安之助を救い、京都に向かう。依頼された家の普請をしながら、安之介の母君香を探し出すが、子供には合えないと云われ、文五郎は怒るが、やがて、安之介への愛や、会えない事情等がわかり、自分の弟子として引き取ることになる。 川口松太郎18番の母子もので、人情の機微を細やかに描いた傑作であった。 難しい役を福助が感動的に演じていた。小古の安之介も良かった。普請場のセットは迫力があり、その場での弟子とのやりとりも、なかなか見せてくれた。 |
萩原雪夫作 大江山 酒呑童子 (おおえやま しゅてんどうじ) 長唄囃子連中 |
酒呑童子 勘三郎 源頼光 扇 雀 酒田公時 勘太郎 渡辺綱 弥十郎 |
鬼神酒呑童子を退治するように命じられた源頼光と四天王の平井保昌、渡辺綱、坂田公時、碓氷貞光らは山伏に姿を変えて大江山に向かう。 そこへ、可愛らしい童子に姿を変えた酒呑童子が現れ、すすめられるままに酒を呑み、舞踊り、そして酔いつぶれてしまう。 そこを源頼光主従が見事討ち果たすという御馴染みの筋書きの舞踊劇である。 久しぶりの勘三郎を見たが、今回も飲みっぷりとその酔態はお見事であった。若々しい踊りを見せてくれたのは流石であった。 |
新秋九月大歌舞伎
平成20年9月 新橋演舞場
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
源平布引滝 (げんぺい ぬのひきのたき) 三幕 義賢最期 竹生島遊覧 実盛物語 |
木曽義賢、斉藤別当実盛 海老蔵 平宗盛 友右衛門 小万 門之助 葵御前 松 世 九朗助 新 蔵 |
源氏再興を目指す武将木曽義賢(木曽義仲の父)のもとに、百姓九朗助が娘の小万と孫を連れて訪れる。しかし、義賢の志は平家方に露見して、軍勢に取り囲まれる。 義賢は、身重の妻葵御前と源氏の白旗を九朗助達に託し、壮絶な最期を遂げる。 何とか、琵琶湖畔の九朗助の家に辿り着くが、それを嗅ぎ付けた平家方の斉藤実盛、瀬尾十朗が現れ、と展開して行く。 危険な戸板倒しや乗馬姿等、海老蔵が相変わらず若さ溢れる見事な演技を見せてくれた。九朗助の新蔵も、なかなか渋い所を見せてくれた。 |
枕獅子 (まくらじし) 長唄囃子連中 |
傾城弥生、獅子の精 時 蔵 禿たより 松 也 禿ゆかり 梅 枝 |
華やかな遊郭の座敷で、傾城弥生が、手獅子を持って踊りに興じているうちに姿を消してしまう。 そして、獅子の精が乗り移った弥生が現れる。と有名な鏡獅子の原型とも言える舞踊だ。 能の「石橋」から出た舞踊で、「相生獅子」に次ぐ古い作品である。 若い松也と梅枝が、少し危なっかしいが可愛い踊りを見せてくれた。 |
十月公演
平成20年10月 新橋演舞場
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
川口松太郎作 成瀬芳一演出 鶴八鶴次郎 (つるはち つるじろう) 新内 新内仲三郎社中 |
鶴八 長谷川 稀世 鶴次郎 舟木 一男 他 高田 次郎 青山 良彦 林 啓二 長谷川かずき 西川 美也子 |
大正の東京。新内節の鶴次郎と師匠の娘で三味線の鶴八は、息もぴったりの名人芸と評判が高く、客席はいつも大入り満員であった。ところが2人は芸の意地から喧嘩ばかりしてついに分かれてしまう。 一人では身が立たず落ちぶれた鶴次郎。一方鶴八は、料亭の女将に納まっている。 しかし、そのまま納まらない二人は、再度共演し、大成功するがと話が転換していく・・・・ 新内節を背景にした、大正時代の名人芸に、二人のじれったい恋心をからめ、なかなかの出来であった。 ラストの、芯から惚れた女の為に、涙を呑んで張った意地、「あれあ嘘だ、心にもねえ嘘を言ったんだ」が決まっていた。 |
十二月大歌舞伎
平成20年12月 歌舞伎座
演 目 | 役 者 | 観 劇 記 |
新歌舞伎十八番の内 高 時 (たかとき) 1幕 |
北条高時 梅 玉 衣笠 魁 春 安達三郎 魁 春 秋田入道 彦三郎 |
執権北条高時は、愛犬を殺害した安達三郎の処刑を命じるが、老臣たちに人の命より獣の命を尊ぶのかと諫言される。 聞き入れなかったが、今日が二代目執権北条義時の忌日と知らされ、処罰を諦める。 衣笠の舞を眺めて気を紛らしていると、そこへ大勢の田楽法師達が現れ、舞い踊りながら襲い掛かってくる・・・ 役者が扮した犬、そして最後の田楽法師建ちの踊りには驚かされた。活歴狂言の代表作と言うだけのことはある芝居であった。 なお、活歴とは歌舞伎の時代狂言の内、史実に即して演出、上演した作品群をいう。 |
京鹿子 娘道成寺 (きょうかのこ むすめどうじょうじ) 鐘供養の場 浄瑠璃「道行丸の字) 長唄囃子連中 常磐津連中 |
白拍子花子 三津五郎 所化 秀 調 右之助 松 江 他 |
鐘供養が行われている道成寺に、花子と名乗る白拍子が現れて新造された鐘を拝見させて欲しいと言う。 すると、所化達は女人禁制ではあるものも、舞を奉納するのであればと入山を許す。 許された白拍子は次々と舞を披露していく。 道行で常磐津を用いるのは、坂東流独自のもの。三津五郎の熱演が光る舞台であった。 |
三世瀬川如皐作 東山桜荘子 佐倉義民伝 (さくらぎみんでん) 序幕 印旛沼渡し小屋の場 木内宗吾内の湯 同裏手の場 二幕目 東叡山直訴の場 |
木内宗吾 幸四郎 妻おさん 福 助 渡守甚兵衛 段四郎 徳川家綱 染五郎 |
下総佐倉の名主である宗吾は、厳しい年貢の取立てを止めて貰おうと領主の江戸屋敷に向かうが、その願いは聞き届けられず、将軍への直訴を決意する。 この覚悟を知った渡し守は役人の命に背き、船を出し、宗吾が家に戻れるように計らう。宗吾は家族達と最後の対面をして、再度江戸に向かい、寛永寺で家綱に直訴する。 御馴染みの名作。雪の降る渡し場、家族との別れ、そして紅葉真っ盛りの寛永寺での直訴の場面が見事に決まっていた。 |
平成13年|平成14年|平成15年|平成16年|平成17年|平成18年|平成19年|平成20年
TOP | 北海道 | 東 北 | 関 東 | 中 部 | 近 畿 | 中国四国 | 九州他 |