まちづくりの考え方・すすめ方〜個別意向の積み上げによる合意形成

まちづくり研究所 田村孝平 丸山 豊 杉田典夫


5.まちづくりの将来と今後の取り組み


●共同建替えの施設構成

 共同建替え事業で建設する集合住宅の構成は、地権者住宅、コミュニティ住宅とともに、 保留床の分譲が必要です。保留床は、事業として成立するために必要であるとともに、 若い世帯が戻り人口増加に貢献するなど、地域コミュニティ再生のためにも必要です。
 最初の共同建替え事業として検討されている長崎市の曙町中道地区(稲佐朝日地区)では、  中堅ファミリー層向け住宅とディケアセンターの併設を検討しています。

(1) コーポラティブ方式でつくる地権者住宅

 地権者が所有する住宅で、従前の土地・建物の権利に応じて所有する床面積が決まります。従前権利だけでは十分な広さが確保できない場合は、原価で買い増しすることができます。
 自らの事業として計画に参加する、いわゆるコーポラティブ方式により、 住戸位置の選択や住戸内の間取りを、各地権者の希望に応じて計画します。

(2) 借上げ型コミュニティ住宅

 共同建替えによる住宅再建の基本は、従前権利との等価交換であるとともに、従前権利をもたない、 あるいは少ない世帯の住居を確保することです。事業の結果、家賃が大幅に上昇して住み続けられない、 あるいは従前権利だけでは住宅の再建が困難で、買い増し資金も手当てできない、 こうした障害をなくすためにコミュニティ住宅があります。
 コミュニティ住宅は、誰もが住み続けられるように、 建設される集合住宅の一部を市が借り上げ、公営住宅として賃貸するものです。この住宅は、建物所有者からは市場家賃で 借り上げ、入居者には所得と広さに応じた家賃で入居してもらうことになります。その差額は市が負担し、また、20年間 一括して借り上げるので、建物所有者にとっては空き家の心配をせずに賃貸運用ができます。

(3) 中堅ファミリー層向けのコーポラティブ住宅

 主に地区外からの若年世帯の入居を視野に入れています。
計画の段階から募集し、とくに共同建替え参加者や地区とのつながりのある世帯を中心に入居者を募集します。 地権者住宅と同様にコーポラティブ方式により計画するため、入居することが決まれば、共同建替え入居者の一員として 地権者とともに計画に参加します。

(4) ディケアセンター

 高齢者世帯が多い斜面住宅地において、身近に利用できる社会福祉施設への要望は多いのですが、 道路がないためにこのような公共施設はほとんど建設されてきませんでした。巡回による入浴サービスなど、 道路がないために利用困難なサービスもあります。
 ディケアセンターの併設は、入居者だけでなく近隣の高齢者にとっても利用しやすい場所に施設が整備され、 高齢者が暮らしやすいまちとして一歩前進することになります。


トップに戻る

曙町中道地区で検討中の模型(2000年12月)

 以下の2つの模型は、長崎市曙町中道地区の共同建替えの検討模型です。「試しの検討」の段階では、個別の意向を踏まえながら区域内の土地利用の検討を模型も使いながら繰り返し行います。
 2000年12月に検討されたこの模型の段階では、各世帯の事業参加形態がほぼ決まりつつりありましたが、共同建替えの敷地、戸建ての敷地が動く可能性を残していました。最終的な参加者の意向によっては道路配置が変わる可能性を考慮して、2案を同時に検討したものです。

(制作協力:環境計画研究所)



トップに戻る

●今後のとりくみ

共同建替え事業は、検討開始から3〜4年の期間を経て建物が完成する。 生活道路も一部区間で利用できるようになります。稲佐地区では、中道地区において建替えの検討が始まってから 1年が経過しましたが、2001年度には新たな区域で検討が始まる予定です。
 このように共同建替えによる住宅再建と生活道路の整備を一体的に行う事業が、1〜2年ごとに始まり、  概ね10年後には、事業が完了します。

●まとめ

これまでのまちづくりの考え方、すすめかたを整理します。

(1) 「住み続けられる、災害に強い、活力のある」まちづくりをめざす。
(2) 住まいと生活道路を一体的に整備・改善する。
(3) 共同建替えを中心に住宅改善を検討する。それにより、様々な住宅改善の可能性も拡大する。
(4) まちづくりの検討は、一軒一軒の意向と条件にもとづいて、段階的にすすめる。


 住み続けられる、自律更新が可能なまちづくりのとりくみは、 高齢者の安心居住、若い世帯の転入、年齢層のバランス回復、商店街の充実という相乗的なまちづくりの 好循環をもたらし、まちの活力を回復させます。
まちづくりの効果

まちづくりの効果

トップに戻る