歌 舞 伎
− 観 劇 記 -

平成24年


1月:相生獅子、金閣寺、加賀鳶

3月:荒川の佐吉、仮名手本忠臣蔵

5月:西郷と豚姫、紅葉狩り、女殺油地獄

7月:ヤマトタケル

9月:寺子屋、河内山

10月:国性爺合戦、勧進帳

11月:双蝶々曲輪日記、人情噺文七元結

12月:御摂勧進帳、暫、色手綱恋の関札、芋洗い勧進帳





壽・初春大歌舞伎

平成24年1月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記


相生獅子
 (あいおいじし)

  長唄囃子連中


    魁 春


    芝 雀


  大名家の座敷。二人の姫が四季折々の様子や恋に迷う女心を艶やかに舞い、紅と白の獅子頭を持ち踊りながら蝶を追い姿を消す。
  やがて二人の姫は獅子の精となって現れ、百獣の王である獅子の舞(狂い)を見せる。
  勇壮な獅子を題材にした、新年の幕開けに相応しい上品な女方の獅子の舞であった。


祇園祭礼信仰記

金閣寺
(きんかくじ)

  1幕


此下東吉
実は真柴久吉
    梅 玉

雪姫
    菊之助

松永大膳
    三津五郎

十河軍平
実は佐藤正清
    錦之助

松永鬼藤太
    松江


  謀反を企む松永大膳は、将軍足利義輝を殺害し、その母慶寿院を金閣寺の2階に幽閉する。
  さらに大膳は、絵師狩野之助直信の妻である雪姫を我が物にしようとするが、夫を裏切ることが出来ないので殺して欲しいと願い出ると、怒った大膳は雪姫を桜の幹に縛りつけ、夫直信の処刑を命じる・・・
  金閣寺を舞台に満開の桜の中で繰り広げられる豪華絢爛な義太夫狂言の傑作である。
  三津五郎の悪役ぶりもなかなかである。雪姫を演じた菊之助も良かった。
  

河竹黙阿弥作
盲長屋梅加賀鳶

加賀鳶
(かがとび)

  本郷木戸勢揃いより
  赤門捕物まで

  4幕6場


天神町梅吉
竹垣道玄
    菊五郎

女按摩お兼
    時 蔵

日陰町松蔵
    吉右衛門

雷五郎次
    佐團次

春木町巳之助
    三津五郎


  本郷通りの町木戸。大名火消しの加賀鳶と、旗本配下の定火消しとの間で大喧嘩が起こり、松蔵を始めとする加賀鳶が勢揃いする。そんな血気盛んな若い鳶たちを親分の梅吉が止め、何とか此の場を納める。
  一方、菊坂の盲屋敷し住む竹垣道玄は、実直な按摩を装っているが実は人殺しも厭わない悪党で、情婦の女按摩お兼とくんで、質店伊勢屋へ強請(ゆすり)に行くと、そこへ松蔵が現れる。
  江戸の人々を生き生きと描いた河竹黙阿弥の世話物の名作である。
  菊五郎と吉右衛門のやりとりが傑作であった。



三月大歌舞伎

平成24年3月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

真山青果咲く
真山美保演出

江戸絵両国八景
荒川の佐吉
 (あらかわのさきち)

 序幕
  江戸両国橋付近
  出茶屋

  岡もとの前の場より

 大詰
  長命寺前の堤の
  場まで

  4幕


荒川の佐吉
    染五郎

丸総女房お新
    福 助

隅田の清五郎
    高麗蔵

成川郷右衛門
    梅 玉

大工辰五郎
    亀 鶴

相模屋政五郎
    幸四郎


  腕の良い大工からやくざの世界に憧れて身を転じた佐吉は、親分の仁兵衛のもとで三下奴の身となる。その仁兵衛は、浪人の成川に腕を切り落とされ縄張りを奪われてしまう。
  落ちぶれた仁兵衛は、姉娘のお新が産んだ盲目の子供を佐吉に託したまま、いかさま賭博をして殺されてしまう。
  残された佐吉は、友達の大工辰五郎の助けを借りて献身的にその子供を育てていると、恩のある相模屋が子供の母親お新を連れてやってくる。
  子供を返して欲しい母親と育て親のせめぎ合いが、何度見ても感動的である。
  

祇園祭礼信仰記

仮名手本
  忠臣蔵

(かなてほんちゅうしんぐら)

  九段目
   山科閑居

   1幕


戸無瀬
    藤十郎

大屋由良之助
    菊五郎

小浪
    福 助

加古川本蔵
    幸四郎

大星力弥
    染五郎

お石
    時 蔵


  雪が降りしきる山科の大星由良之助宅。そこへ加古川本蔵の妻の戸無瀬が、娘小浪を許嫁である由良之助の息子の力弥に嫁がせるために訪ねてくる。
  しかし、由良之助の妻お石は、今は浪人中との理由で輿入れを拒否する。絶望した戸無瀬と娘は自害しょうとする。そこに現れた虚無僧姿の加古川本蔵は、わが身を捨てて娘の婚礼を懇願する。
  由良之輔は本蔵の心根に感じ入り、仇討ちの志を明かす。
  名作「仮名手本忠臣蔵」より忠義のために犠牲になる親子、夫婦の情愛を描いた名場面である。

  



五月花形歌舞伎

平成24年5月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

池田大伍作
久保田万太郎演出
奈河彰輔演出

西郷と豚姫
 (さいごうとぶたひめ)


  一幕
 

仲居お玉
    翫 弱

西郷吉之助
    獅 童

大久保市助
    松 江

芸妓岸野
    松 也

中村半次郎
    亀 鶴


  幕末の京都。揚屋のお玉は体格が立派なため豚姫と呼ばれているが、気立ては優しく皆に慕われている。
  ある日、お玉が思いを寄せる薩摩藩の重役西郷吉之助が、刺客に追われて揚屋に駆け込んでくる。
  幕府にも主君にも理解が得られず失意の西郷に、お玉は思いを打ち明け、その心情を思った西郷は、お玉に一緒に死のうと申し出るが・・・
  おかしみの中にも哀歓を漂わせた、ほのぼのとした舞台であった。
  お玉を演じる翫弱が熱演であった。獅童もすっかり貫禄のある演技であった。
  

河竹黙阿弥作
歌舞伎十八番の内

紅葉狩
(もみじがり)

  竹本連中
  常磐津連中
  長唄連中


更科姫
実は戸隠山の鬼女
    福 助

余吾将軍平維茂
    獅 童

山神
    愛之助

局田毎
    高麗蔵


  信濃国戸隠山に、余吾将軍平維茂が紅葉狩りにやってくると、先に酒宴を催していた更科姫に招かれる。
  しかし、戸隠山の山神に姫の正体は戸隠山の鬼女であると告げられ、平維茂は正体を現した鬼女に立ち向う。
  福助の美しい姫姿から鬼女へ変化が極端で、何度見ても面白い。

  

近松門左衛門

女殺油地獄
(おんなごろしあぶらのじごく)

  三幕


河内屋与兵衛
    愛之助

豊嶋屋お吉
    福 助

河内屋徳兵衛
    歌 六

母おさわ
    秀太郎


  河内屋の息子与兵衛は放蕩三昧で、見かねた母おさわは、与兵衛を勘当し追い出す。
  その晩、金の工面に困った与兵衛は、近所で同じ油屋を営んでいる豊嶋屋のお吉を頼ろうと店を訪れるが断られてしまう・・
  与兵衛とお吉の油にまみれての立ち回りは圧巻であった。





七月大歌舞伎

平成24年7月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

梅原猛作
市川猿翁脚本演出

スーパー歌舞伎

三代猿之助48番内
ヤマトタケル


  三幕
 

小碓命
大碓命
ヤマトタケル
    猿之助


    中 車

熊襲兄タケル
山神
    弥十郎

タケヒコ
    右 近

ワカタケル
    團 子

兄橘姫
みやず姫
     笑 也

弟橘姫
     春 猿



  謀反を企む双子の兄・大碓命と口論の末、誤まって兄を殺害した小碓命は、父帝の怒りを買い、単身で熊襲征伐に行かされる事になる。
  熊襲を訪れた小碓命は踊り女に変装し、熊襲の首領タケル兄弟を討伐。熊襲弟タケルは、小碓命に、ヤマトタケルの名を与える。
  見事熊襲征伐を果たし、大和に帰ったヤマトタケルは、父帝の許しが得られず、今度は蝦夷征伐を命ぜられる。
  と、古事記を題材に、ヤマトタケルの半生を、哲学者梅原猛が書き下ろし、市川猿翁(3代目猿之助改め)が脚本を書いた豪華絢爛たる舞台で、まさにスーパー歌舞伎に相応しい構成である。
  舞台で4代目市川猿之助(亀治郎改め)、市川中車(香川照之)襲名披露口上があった。また、團子は初々しい初舞台であった。




秀山祭九月大歌舞伎

平成24年9月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

菅原伝授手習鑑
寺子屋
(てらこや)

寺入りよりいろは送りまで
  
一幕
 

松王丸
    吉右衛門

千代
    福 助

武部源蔵
    梅 玉

戸浪
    芝 雀


  寺子屋の師匠武部源蔵は、菅丞相(菅原道真)の嫡子の身替りに、今日来たばかりの寺子の首を討って差し出す。
  その寺子こそ、首を検め(あらため)にやってきた松王丸の子であった。松王丸は恩を受けた管丞相に敵対していたが、今こそ恩に報いようと、女房の千代と申し合わせ、予め我が子が身替りになるように、寺子屋に預けたのであった。
  何度目かの観劇となるが、寺子屋の演出などは工夫が凝らされていた。吉右衛門と福助の年季の入った演技とあいまって、感動的な舞台となっている。
  今回は染五郎が、この松王丸を演じる予定であったが、舞台の転落事故で、急遽吉右衛門が演じることになった。


河竹黙阿弥作

天衣紛上野初花
河内山
(こうちやま)

上州屋質見世
松江邸広間
    書院
    玄関先

二幕


河内山宗俊
    吉右衛門

後家おまき
    魁 春

和泉屋清兵衛
    歌 六

松江出雲守
    梅 玉


  悪巧みに長けた河内山宗俊は、松江出雲守に腰元奉公する上州屋の娘が幽閉されていると聞き、金目当てに娘の奪還を請け負う。
  上野寛永寺の使僧と身分を偽り、松江邸に乗り込み、出雲守をやり込めるが、正体を見破られてしまう。しかし、慌てるどころか開き直り、啖呵を切って堂々と引き揚げていく・・・
   痛快な世話物です。大胆不敵で憎めない主人公河内山を演じたのは吉右衛門で、見応えのある舞台であった。




芸術祭十月大歌舞伎
七世松本幸四郎追遠

平成24年10月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

近松門左衛門作
国性爺合戦
(こくせんやかっせん)

 獅子ヶ城楼門
 獅子ヶ城内甘輝館
 同 紅流し
 同 元の甘輝館
  
    
   二幕四場
 

和藤丸
    松 禄

甘輝
    梅 玉

錦祥女
    芝 雀

老一官
    歌 六


    秀太郎


  和藤内は、父老一官の祖国再興のため、父と母の渚と共に中国に渡る。父老一官の娘錦祥女の婿である、勇将誉れ高い甘輝に加勢を頼む。
  しかし、甘輝は妻の縁で反旗を翻したとなっては武士の恥辱となるため、妻を殺して加勢するという。
  錦祥女は、皆の大望のため自ら命を絶ち、和藤内と甘輝は悲しみを乗り越え、敵の韃靼(だったん)王打倒を誓い合うことになる。
  荒事味溢れる和藤内の豪快さを、若さ溢れる松禄が演じきった。

  

歌舞伎十八番の内
勧進帳
(かんじんちょう)

 長唄囃子連中


武蔵坊弁慶
    團十郎

富樫左衛門
    幸四郎

源義経
    藤十郎

亀井六郎
    友右衛門


  都を落ち行く義経一行。義経は強力に、弁慶らは山伏に姿を変えて奥州を目指していたが、安宅の関で富樫左衛門の詮議を受けることになる。
  富樫は、一行を義経主従と見破りながらも、主君を守る弁慶の命懸けの振る舞いに心打たれ、関所の通行を許す・・・
  御馴染みの歌舞伎十八番で一番人気のあるのがこの「勧進帳」だ。團十郎と幸四郎のやりとりは見事であった。

   なお、七世松本幸四郎は、九世市川團十郎の薫陶を受け、その芸を継承すると共に、新しい試みにも積極的に挑んだ。中でも、「勧進帳」の弁慶は当たり役として、1600余回も演じた由。



吉例顔見世大歌舞伎

平成24年11月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

奈河彰輔監修
双蝶々曲輪日
(ふたつちょうちょうくるわにっき)

 井筒屋
 難波裏
 引窓
   
    三幕
 

南与兵衛
    梅 玉

藤屋都
    時 蔵

藤屋吾妻
     梅 枝

母お幸
     竹三郎

濡髪長五郎
    左團次

放駒長吉
    翫 雀

山崎屋与五郎
    扇 雀


  藤屋の遊女・都には与兵衛、妹女郎の吾妻には与五郎という末を誓った相手がいる。
  ところが、吾妻の身請け巡り、与五郎と、横恋慕した侍が争いを起こす。見かねた相撲取りの濡髪長五郎が間に入り、争いの果て相手を殺め、お尋ね者になってしまう。
  濡髪は暇乞いのため母のお幸を訪ねるが、そこには今は夫婦となっている郷代官の与兵衛と都がいて、濡髪を匿う。母は、与兵衛の父の後妻となっていたのだ。
  母は実の子濡髪と義理の子与兵衛の挟間で苦悶するが・・
  互いに気遣う善意の人々の人間模様を描いた上方の名作である。
  体調不良のため、与兵衛役の仁左衛門休演。代役は梅玉であった。


三遊亭円朝口演
榎戸賢治作
人情噺文七元
(にんじょうばなしぶんしちもっとい)

    二幕四場


左官長兵衛
    菊五郎

女房お兼
    時 蔵

手代文七
    菊之助

角海老女将お駒
    魁 春


  長兵衛は腕の達者な左官であったが、酒と博打に嵌り、今ではすっかり落ちぶれている。見かねた娘のお久は、自ら吉原へ身を売ろうと遊郭の角海老の女将お駒を訪ねる。
  お駒は、その心根を褒め、長兵衛に50両の金を貸し与える。しかし、長兵衛は、その金を店の金を紛失し身投げしようとした手代文七に渡してしまう・・・
  三遊亭円朝の人情噺を劇化した世話物の傑作。何度見ても味わいのある舞台である。



十二月大歌舞伎

平成24年12月 新橋演舞場

演 目 役 者 観 劇 記

初世桜田治助作
利倉幸一補綴

通し狂言
御摂勧進帳
(ごひいきかんじんちょう)


一幕
 山城国右清水八幡宮
 の場

 暫

 大薩摩連中
   

熊井太郎
    松 禄

下川辺庄治行平
    権十郎

稲毛入道
     亀三郎

是明君
     彦三郎



  初世桜田治助が大胆かつ奇抜な趣向で描き上げた通し狂言。
  一幕は、御馴染みの「暫」。岩清水八幡宮では、平家滅亡を好機に、天下掌握を狙う是明君が、義経の家臣たちを引き据え、首を刎ねるように部下に命じる。
  その時、「暫く!」と声が掛かり、現れたのは義経の忠臣熊井太郎であった。
  大力無双の熊井は、是明君の部下を圧倒して、是明君に奪われた宝剣を取り戻し、意気揚々と引き揚げていく。
   松禄が、すっかり貫禄を付けた舞台であった。

二幕
 越前国気比明神境内
 の場

 
 色手綱
   恋の関札


  清元連中

喜三太
    松 禄

稲毛入道
    亀三郎

源義経
    菊之助

忍の前
    梅 枝


  都を落ち行く義経は、道中で美しい女馬士に出会い、そこにやってきた鹿島の事触れが、二人の恋仲を占う。
  そこへ、追っ手が現れ、事触れが見事に追い散らす・・・・
  この事触れは、実際は義経の家臣の喜三太であった。そして、女馬士は、義経の長馴染めの忍の前で、ここで義経は女馬士になりすまし、奥州平泉に落ちていく。

三幕
 加賀国安宅の関の場

 
 芋洗い勧進帳


武蔵坊弁慶
    三津五郎

富樫左衛門
    菊五郎

源義経
    菊之助

鷲屋三郎
    亀 寿


  山伏に姿を変えた義経一行は、安宅の関で富樫左衛門の詮議を受ける。弁慶は調べに応え、勧進帳を読むが、義経が疑われ、弁慶や義経を金剛杖で打ち据える。
  富樫は、義経一行と知りながら、弁慶の苦衷に心打たれ、関の通過を許可する、とここまでは何時もの正調勧進帳である。
  この後、弁慶だけは関に留め置かれ縄をかけられてしまう。義経たちが十分先に行った頃あいを見計らい、自ら縄を引きちぎり、番卒達の首を天水桶に投げ込み、金剛杖で芋を洗うように掻き回すとなる。3度目の観劇であるが、何度見ても面白い舞台である。


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